if XV

僕たちは神社での調査を続けていた。ケートスの力、均衡を保つ者、そして瑠海に宿る謎の力――すべてが絡み合い、今にも解けそうで解けないままだった。周囲の空気はさらに緊張感を増し、僕たちの時間が限られていることを感じさせた。


「これで全ての石碑を調べ尽くした感じだけど、やっぱり具体的な答えにはたどり着けないね……」高梨がため息をつきながら呟いた。


「うん、でも少なくとも『魂を捧げる者』が鍵であり、その均衡を保つためにケートスが深く関わっていることは分かった。」斉藤が疲れた表情で続けた。


「瑠海が『魂を捧げる者』かもしれないってことが気になるよな……」綿津見くんも神妙な顔で石碑を見つめていた。


「でも、それが具体的に何を意味するのか……ただ、魂を捧げるっていうのが、どういう形で実行されるのかがまだはっきりしない。」僕は焦りを抑えながら言った。


瑠海は静かに立って、何かを考えているようだった。彼女の瞳は遠くを見つめ、まるで記憶の奥に眠っているものを探しているかのようだった。


「私がその役割を果たすべきなのかどうか、まだわからない。でも、確実に感じる。島全体が何かを待っている気がするの。」瑠海が静かに言葉を発した。


「待っている?」僕はその言葉に反応した。


「うん。この島は、ずっと昔からケートスの守護によって均衡を保っていたんだと思う。だけど、今その均衡が崩れ始めていて、誰かがその力を引き継がなきゃならない。私はそれを感じるの。」瑠海は力強くそう言った。


彼女の言葉に、僕たちは静まり返った。もし瑠海が本当にその役割を引き継ぐべきだとしたら、僕たちはそれをどうサポートすべきなのだろうか?


「でも、神社だけじゃないかもしれない。他に手がかりがある場所はないのかな?」高梨が思い詰めたように提案した。


「そうだな……この島全体が守護されているなら、他の場所にも何かが隠されているかもしれない。」綿津見くんが賛成するように言った。


「岬とか、海沿いに何かあるんじゃないか?だって、ケートスは海の守護者だし。」斉藤が思いついたように言う。


「確かに……海と関係が深いなら、海岸や岬に何か隠されているかもしれない。」僕はその案に賛成し、早速海岸に行くことを決めた。


***


翌日、僕たちは島の南端にある岬に向かって歩いていた。そこは地元の人たちが「海の守護者が宿る場所」として大切にしている場所だった。岬には祠や石碑はなく、広大な海と荒々しい岩が並んでいるだけだったが、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。


「ここが岬か……本当に何もないんだな。」斉藤が辺りを見回しながら言った。


「でも、静かで落ち着く場所だよね。」高梨が、波の音を聞きながら言った。


「ここで何か感じるかも。ケートスの存在が、もっと強くここに現れているかもしれない。」瑠海は波打ち際に立ち、遠くを見つめながらそう言った。


僕たちは砂浜に向かい、ゆっくりと歩きながら手がかりを探していた。白い砂浜に貝殻や石が転がっており、波が静かに打ち寄せていた。その中で、瑠海が突然立ち止まった。


「これ……見て。」瑠海が拾い上げたのは、小さな金属のペンダントだった。


「何かのペンダント……それに、これは……」僕は驚いて瑠海の手元を覗き込んだ。


ペンダントには、古い紋様が刻まれていた。それは、これまで見た石碑や文字に似たデザインだった。


「この紋様……ケートスと関係しているかもしれない。」僕はそのペンダントをじっと見つめ、何か重要な鍵であることを感じ取った。


「でも、これがどうやってここに?そして、どうやって使うの?」高梨が困惑した様子で尋ねた。


瑠海は静かにそのペンダントを見つめていたが、ふと顔を上げて僕たちに言った。「これ、私の母が小さい頃に私に渡してくれたペンダントなんだ。でも、ずっと無くしていたのに……どうしてここにあるのか、全くわからない。」


「母からのペンダント?」僕たちは驚きと共に、瑠海を見つめた。


「私が忘れていたけど、このペンダントがケートスと何か深い繋がりを持っている気がするの。もしかして、これが均衡を保つための鍵かもしれない……」瑠海はそう言いながら、ペンダントを握りしめた。


その瞬間、海が静かにざわめき始め、風が強まった。まるで、海自体が瑠海の存在に反応しているかのようだった。


「これって……何かが起こり始めている?」斉藤が驚いた様子で言った。


「間違いない。ケートスの力が、この場所で目覚めつつあるんだ。」綿津見くんが真剣な表情で言った。


僕たちは岬に立ち、目の前の海が動き始めるのを見つめていた。瑠海が手にしたペンダントが、この島の均衡を保つための大きな鍵となっていることを、僕たちは確信しつつあった。


「このペンダント……私にできることがあるなら、やってみる。」瑠海はペンダントを握りしめながら、決意を込めた言葉を口にした。


これが、島の均衡を守るための重要な瞬間かもしれない――僕たちは、その場で大きな変化が迫っていることを感じながら、立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る