if XIV

翌日、僕たちは再び神社に向かって歩いていた。昨夜、瑠海が言った「自分が均衡を保つ役割を持っているかもしれない」という言葉が頭から離れなかった。彼女の中に何かが目覚め始めている――それが島全体の運命と深く関わっているのは間違いない。


「今日は何か決定的なことが分かるといいな…」僕は歩きながら呟いた。


「そうだね。昨日の揺れはただの前兆だったのかもしれないし、もっと大きな変化がこれから起こるんじゃないかって気がするよ。」高梨が少し緊張した様子で言った。


神社に近づくにつれて、周囲の空気がどこか重く感じられるようになっていた。風は冷たく、木々がざわめき、何かが僕たちを待っているかのようだった。


「ここだ、また戻ってきたね。」斉藤が静かに言った。


神社の祠の前に立った時、再び微かな震えが大地を通じて感じられた。まるで、この場所が僕たちに何かを伝えようとしているようだった。


「祠の中をもう一度見てみよう。」僕たちは中に入り、前回の調査では見落としていたかもしれない部分をもう一度じっくりと調べ始めた。


「この石碑、何か違う気がする…」綿津見くんが石碑の文字を指さした。「昨日はよく見えなかったけど、ここにさらに文字が隠れてる。」


彼が示した部分は、苔に覆われていたが、拭い取ると文字がはっきりと現れた。それは僕たちが今まで見たことのない、別の文様だった。


「『魂を捧げし者、均衡を繋ぐ』…?」僕は声に出して読んだ。


「魂を捧げる者…」斉藤がその言葉に反応した。「それって、誰かがこの均衡を保つために犠牲になるってことか?」


「かもしれない。でも、それがどういう意味なのか、まだはっきりとは分からない。」僕は額に手を当てながら考え込んだ。


その時、瑠海が静かに口を開いた。「私……やっぱり、私がその『魂を捧げる者』かもしれない。」


彼女の言葉に、僕たちは一斉に彼女を見つめた。瑠海の表情には、覚悟のようなものが浮かんでいた。


「どういうこと?」僕は驚きながら訊いた。


「最近、何か大きな力が私の中で目覚めようとしている感じがしてるって話したでしょ。それが、この均衡を保つための力だとしたら……私はその役割を果たさなければならないんじゃないかって思うの。」瑠海は真剣な眼差しで僕たちを見つめた。


「でも、それは――」僕は言葉を詰まらせた。もし彼女が『魂を捧げる』というのが、文字通りの意味だったとしたら、それは命を失うことを意味するのかもしれない。


「そう簡単に決めつけるのは早いよ。まだ他に方法があるかもしれない。」斉藤が慌てて言った。


「もちろん、他の方法を探すよ。でも……もし本当にそれしか方法がなかったら、私は逃げないつもり。」瑠海の言葉は静かだったが、その中には強い決意が感じられた。


僕は胸の奥で焦りを感じた。もし彼女が本当にそうしなければならないとしたら……僕はその未来をどう受け止めればいいのだろうか。


「まずは落ち着いて、この石碑にある情報をもっと詳しく調べよう。まだ全てが分かっているわけじゃない。」綿津見くんが言って、僕たちはさらに石碑や周囲の文字を調べ続けた。


***


調査を続けるうちに、僕たちは再び大地の微かな震えを感じ始めた。震えは前日よりも強く、明らかに異変が近づいていることを示していた。


「これ、かなりまずいんじゃないか?」斉藤が不安そうに言った。


「均衡が崩れ始めてる。何か大きなことが起こる前兆だ。」綿津見くんは冷静さを保とうとしていたが、その声にも焦りが含まれていた。


「今できることは、これ以上揺れが大きくなる前に、均衡を保つ方法を見つけることだ。」僕はその言葉を自分にも言い聞かせるように呟いた。


その時、瑠海がふと遠くを見つめながら、静かに言った。


「私……何か思い出したかもしれない。」


「思い出した?」僕たちは一斉に彼女の言葉に反応した。


「小さい頃、よく両親とこの神社に来ていたの。そこで、母が何か言っていたことをふと思い出したの。『この島は、海の力で守られている』って。もしかしたら、それがケートスのことを指していたのかもしれない。」瑠海の表情は真剣だった。


「海の力……それがこの均衡を保つ鍵だとしたら、ケートスがどうやってそれを守っているのかを突き止めなきゃ。」僕はその言葉に力を得た。


「よし、もう少し調べてみよう。何かまだ見落としている手がかりがあるかもしれない。」僕たちは再び祠や石碑を詳しく調べ始めた。


時間がない――その思いが僕たちを急かしていたが、僕たちは諦めることなく、最後の手がかりを探し続けた。

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