if XVI
夏休みが始まり、島全体が少しずつ活気を取り戻していた。観光客が増え、海岸には家族連れや若者たちが集まり、賑わいを見せていた。しかし、僕たちにとっては、夏の始まりがこれから訪れる危機の予兆にしか感じられなかった。
岬で見つけたペンダント、そして瑠海が感じている自分の役割――すべてが島の均衡に関わる大きな謎を含んでいた。この夏休みの間にその全てを解決しなければ、僕たちは手遅れになってしまうかもしれないという感覚が、胸の奥でじわじわと広がっていた。
「夏休みに入ったっていっても、これで時間を使えるとは限らないよな。」斉藤が、重い空気の中で呟いた。
「そうだね。すでにいくつかの兆候が見えてきてる。あの地震のような揺れも、海の変化も……ケートスが動き始めた証拠だと思う。」高梨が静かに同意する。
「ペンダントを見つけたのも偶然じゃないんだろう。きっと、これが何かを解き明かす鍵になる。」僕は瑠海を見ながらそう言った。
瑠海は、そのペンダントを手に取りながら、どこか戸惑いを隠せない様子だった。彼女に与えられた役割が何であれ、それはこの島にとって大きな意味を持っている。しかし、それが彼女自身に何をもたらすのか、誰にもまだ分からなかった。
「私が本当に均衡を保つ者なら、どうして今まで気づかなかったんだろう?」瑠海が小さな声で呟いた。
「それは、時が来たからだと思うよ。今だからこそ、君にその力が必要なんだ。島全体が、君の存在を待っていたんだと思う。」僕は優しく彼女に話しかけた。
「でも、もしその役割を果たすことで、私が……何かを失うことになったらどうしよう?」瑠海の言葉には、深い不安が滲んでいた。彼女が何かを犠牲にしなければならないのかもしれない――その可能性が、彼女を苦しめているのが明らかだった。
「僕たちが一緒に方法を探すよ。君だけに全てを任せるつもりはない。ペンダントが何のためのものか、もっと深く調べてみよう。」僕は彼女に少しでも安心してもらえるように言ったが、胸の奥で同じ不安が渦巻いていた。
***
その日の午後、僕たちは再び岬に向かうことにした。ペンダントにまつわる手がかりが、もしかしたら海の近くにあるかもしれないという期待があったからだ。岬は相変わらず静かで、海の波音だけが響いていた。
「ここに来るたびに感じるけど、この場所には本当に何か特別な力がある気がする。」高梨が海を見つめながら言った。
「ケートスがこの海を守っているのか、それとも何か別の力が働いているのか……それが分かればいいんだけど。」斉藤が砂浜を歩きながら考え込むように言った。
瑠海は黙ってペンダントを握りしめていた。彼女が感じているプレッシャーは、僕たちの誰よりも大きいだろう。それでも、彼女はその責任を果たす覚悟を決めつつあるように見えた。
「私、この場所で何かを感じるんだ。」瑠海が急に立ち止まり、静かに言った。
「感じる?」僕は彼女に近づき、尋ねた。
「うん……まるで、海が私に何かを語りかけているような感じがするの。」彼女の目は遠くを見つめ、まるで何かに引き寄せられているようだった。
その時、風が突然強くなり、海からの波が大きく押し寄せた。まるで、自然自体が僕たちに何かを知らせようとしているかのようだった。
「何かが起こり始めている……」斉藤が不安そうに呟いた。
「ケートスが動いているんだと思う。」綿津見くんが真剣な表情で答えた。
僕たちは岬の先端まで歩き、そこで立ち尽くしていた。海は静かにざわめいていたが、その奥には何か大きな力が潜んでいるように感じた。
「もしかしたら、海の奥にケートスが眠っているのかもしれない。このペンダントがその鍵になるなら、どうやって使えばいいんだろう?」僕はその疑問を自分に問いかけた。
「わからない。でも、私はきっとその答えを見つけることができる。」瑠海は決意を込めてそう言った。
***
その夜、僕は家に戻り、海辺での出来事を思い返していた。島全体が静かにその運命を見守っているように感じられた。夏の夜空には星が輝き、ケートスにまつわる伝説が頭に浮かんだ。
「もし本当に瑠海が均衡を保つ者なら、僕たちはどうすれば彼女を助けられるんだろう……」僕は独り言を呟きながら、空を見上げた。
星が瞬き、その中に夢で見たミラやメンカルの星々が浮かんでいる。僕は心の中で、ケートスに問いかけた。
「どうすれば、この島を守れるんだ……?」
その答えはまだ見つからないまま、風が静かに吹き抜け、僕の頬を撫でた。僕たちは、次の一歩を踏み出す準備をしなければならなかった。そして、その一歩は、もう決して引き返せない道になるかもしれない。
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