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夜が明けると、僕の心にはまだ夢で見た光景が鮮明に残っていた。だが、夢に頼るのはもう止めるべきだと感じていた。現実の中で、自分の足で確かめなければならない。島にあるすべての手がかりが、僕たちに何かを訴えかけている――そう感じた。


朝の光が差し込むリビングで、僕は資料をじっと見つめていた。これまで集めた情報の断片は、依然として繋がらないままだった。僕たちはどこかで見逃しているのかもしれない。それが気になって、落ち着かなかった。


スマホが震え、斉藤からのメッセージが画面に表示された。


「今日もう一度神社に集まろう。なんか気になることがある。」


そのメッセージに、少しだけ期待感が生まれた。もしかしたら、これまで見落としていた手がかりが見つかるかもしれない。僕は急いで準備を整え、神社へと向かうことにした。


***


午後、神社に集まった僕たちは再び調査を始めた。祠の周りやその近くにある岩場など、今まで見逃していたかもしれない場所を丁寧に調べていく。冷たい風が吹き抜ける中で、どこか胸騒ぎを感じていた。


「ここ、なんだか変な感じがするな…」高梨が祠の裏手で立ち止まり、何かを見つめていた。


「どうした?」僕が近づくと、彼女は地面の石畳を指さした。


「見て、ここだけ苔が少し薄い。それに、この石だけ形が他と違うんじゃない?」高梨がそう言いながら、足で軽くその石を押した。


すると、わずかに音を立てて石が動いた。僕たちは全員その音に反応し、すぐにその場所に集まった。


「これは…何か隠れているのかも。」斉藤が興奮したように言いながら、その石を慎重に動かした。


石の下には、地下へ続く小さな穴があった。僕たちは顔を見合わせながら、少し緊張しつつもその穴を覗き込んだ。


「もしかして、これが僕たちが探していた手がかりかもしれない。」綿津見くんが低い声で言った。


「よし、行ってみよう。」僕は決意を固め、穴の中へ慎重に降り始めた。


***


地下は狭く、冷たい空気が充満していた。古びた石壁が並び、まるで時が止まっているかのようだった。僕たちは狭い通路を進んでいき、やがて小さな部屋のような場所にたどり着いた。


「ここは……」僕は周囲を見渡しながら呟いた。


部屋の中央には、古い石像が立っていた。その像は、巨大な鯨の形をしていた。ケートスの姿だ。僕はその姿をじっと見つめ、胸が高鳴るのを感じた。


「この像、ケートスだよね…」高梨が声を潜めて言った。


「間違いない。これが、この島の神話に出てくる海の守護者だ。」斉藤が続けた。


僕たちは全員、像の周りを囲むようにして立っていた。像の周りにはいくつかの古い文字が刻まれていたが、現代の文字とは違って読めなかった。


「これ、解読できるのかな…?」僕は綿津見くんに視線を向けた。


「この文字…かなり古いけど、少しずつなら読み取れるかもしれない。」綿津見くんが慎重に像の文字をなぞりながら、読み解き始めた。


しばらくして、彼が読み上げた言葉に、僕たちは一瞬息を呑んだ。


「『守護者が均衡を保つ時、大地は震え、海は揺れる』…そんな感じだ。」


「均衡が保たれる時…って、何を意味しているんだろう?」僕はその言葉の意味を深く考え込んだ。


「もしかして…」高梨が思いつめた表情で言った。「均衡が崩れれば、この島全体が危険な状況に陥るのかもしれない。海と大地が関係してるなら、何か大きな自然災害とか……」


「でも、守護者がそれを防ぐってことか?」斉藤が続けた。


「そうかもしれない。けど、その守護者が今、どこにいるのか……ケートスが現実に存在するのか、それとも別の何かを象徴しているのか。」僕は自分自身に問いかけるように答えた。


僕たちはその場で静かに立ち尽くし、像と文字をじっと見つめ続けた。今、僕たちの前に立ちはだかる謎が、少しずつその姿を現し始めているのかもしれない。

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