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夏の気配が強まるにつれ、僕たちの調査も進展しているようで、何かが足りないような感覚も残り、進んでいるのか止まっているのか曖昧な日々が続いていた。神社での出来事も、瑠海の記憶も、全てが何か大きな謎に繋がっていると感じながら、その全貌がまだ掴めないでいた。
「綾瀬くん、最近ずっとぼんやりしてるけど、何か悩んでるの?」高梨が心配そうに僕に声をかけてきた。
「うん、少し考え事しててね。いろいろ整理がつかないんだ。」僕はそう答えたが、心の中ではもっと深刻な焦りを感じていた。神社、ケートス、そして瑠海――すべてがひとつに絡み合っていることは間違いない。特に、瑠海が何かを隠していることに気づいていた僕は、その事実に悩まされていた。
***
その夜、僕は一人で夜空を見上げていた。澄んだ空気に星々が静かに輝いている。僕はふと、夢の中で見たミラやメンカルのことを思い出した。あの星々は、僕に何かを伝えようとしているのだろうか。そう思うと、心の奥にかすかな不安が広がった。
夜空に浮かぶ星々の中に、大きな鯨が泳いでいるように見える。ケートスが僕に何かを訴えているかのようだった。しかし、そのメッセージが何なのかは、まだはっきりとは掴めなかった。
***
翌日、僕たちは再び神社に足を運んだ。前回見つけられなかった手がかりが、今回は見つかることを期待していた。
「ねぇ、これ見て!」高梨が石碑の前で声を上げた。
「何か書かれてる?」僕が近づいて見ると、古い文字が苔むした石にかすかに刻まれているのがわかった。
「うん…『海の守護者が現れるとき、大地の均衡が揺れる』って書かれているように見える。」高梨が読み上げると、僕はその言葉に引き込まれた。
「均衡が揺れる……守護者が現れる……」僕はその言葉を繰り返した。神社で見つけた石碑、そしてケートス――すべてが繋がりつつある。だが、まだその意味を完全に理解することはできなかった。
「もしかして、これってケートスが関係してるんじゃないかな?」斉藤が推測する。
「そうかもしれない。でも、何を守ろうとしているのか、それが崩れるとどうなるのかはまだわからない。」僕は答えながら、再び星空のことを思い浮かべた。夢の中で見たミラとメンカル――彼らが僕たちに伝えようとしていることは何なのか。
「ここには何かが隠されているんだろうけど、まだ足りない気がするんだ。」綿津見くんが静かに言った。
僕たちはその言葉にうなずきながら、再び神社の周囲を調べ始めた。祠の周囲を歩き回りながらも、確信できる手がかりは見つからない。だが、何かがここにある――その感覚だけは強く残っていた。
***
帰り道、僕はふと瑠海のことを思い出した。彼女がこの島に来てから、何かが変わった気がする。そして、彼女の記憶の欠落――それはただの偶然ではないはずだ。
「もしかして、瑠海が何かを知っているのかもしれない。でも、それを隠しているのか……」
僕は心の中で問いかけた。彼女がこの島に関わる謎の一部であることは明らかだが、それをまだ僕には伝えられない理由があるのだろうか。均衡を崩さないために、彼女が黙っているのかもしれない。
僕の中で様々な思いが交錯しながら、夏の夜が静かに過ぎていった。
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