if Ⅸ

瑠海との再会から数日が経った。彼女が僕のことを覚えていない理由、それがケートスやこの島の謎に深く関わっているという確信は、ますます強くなっていた。瑠海自身も何か大切なものを失った感覚を持っているようだった。それが一体何なのかを探るために、僕たちは再び集まり、計画を立てることにした。


「もう一度、あの神社に行って調査を進めよう。」僕は斉藤、高梨、綿津見くんに向かって言った。


「そうだな。前回は扉を開ける手がかりが見つからなかったけど、瑠海さんも加われば何か新しい発見があるかもしれない。」斉藤が静かに頷いた。


「ケートスのことも、もっと知りたいよね。」高梨がメモを手に取りながら言った。「夢や伝説だけじゃなくて、現実に何か残ってるかもしれないし。」


綿津見くんは少し考え込みながら、僕たちの意見を聞いていたが、やがて口を開いた。「うん、俺たちが見つけた扉が現実に存在する以上、何かが起こる前に解決しないといけない。特に、ケートスが関わっているなら、時間が重要だ。」


「時間が重要って、どういう意味?」僕は綿津見くんに問いかけた。


「この島には昔から、時間に関する神話が残されているんだよ。ケートスのような存在が、時空を操る力を持っていると言われている。俺たちが今感じている違和感や不思議な現象も、その力が働いている可能性があるんだ。」


「時空を操る……ケートスが?」僕はその言葉に驚いた。


「そうだ。この島の神話では、ケートスが島を守るために時間の流れを変えることができる存在だとされている。もし、今何かが狂い始めているなら、それはケートスの力が絡んでいるかもしれない。」


僕たちはその言葉に沈黙した。ケートスの力が現実の時間にも影響を与えているのだとしたら、僕たちの存在やこの島の未来にも関わる重大な問題だ。そんな事態が起きているとすれば、何としてもその真相を突き止める必要があった。


「じゃあ、早速調査を進めよう。ケートスが何を伝えようとしているのかを見つけないといけない。」僕は再び決意を固めた。


***


翌日、僕たちは再び神社へと足を運んだ。瑠海も一緒に来てくれた。彼女は少し緊張している様子だったが、それでも何かを感じ取ろうとしているようだった。


「ここに来たことがあるような気がするけど……でも、思い出せない。」瑠海は祠をじっと見つめながら呟いた。


「瑠海、無理に思い出そうとしなくていい。きっと自然に記憶が戻ってくるはずだよ。」僕は彼女にそう声をかけた。


「ありがとう……でも、何かが引っかかってる気がするの。」瑠海はそう言いながら、じっと神社の周囲を見回していた。


僕たちは石の扉の前に立ち、再び調査を始めた。しかし、扉はびくともしない。それでも、僕たちは諦めずに手がかりを探し続けた。


その時だった。扉に手を触れた瞬間、僕の中に強烈な記憶が蘇ってきた。それは、幼い頃の僕が海で溺れた時の光景――そして、巨大な鯨の姿が僕の前に現れた瞬間だった。


「ケートス……」


僕はその名を口にした。あの時、確かに僕はケートスに助けられた。そして、それが今、何かを伝えようとしているように感じた。


「綾瀬くん、どうしたの?」高梨が驚いて僕に声をかけた。


「いや、あの時のことを思い出したんだ。僕が海で溺れた時、ケートスが僕を助けてくれた。その時の感覚が、今また蘇ってきたんだ。」


「それって、何かのサインかもしれないよね。ケートスがこの扉を開ける鍵を握ってるんじゃない?」斉藤が推測した。


「そうかもしれない……でも、どうやってその鍵を見つけるんだろう?」僕は少し困惑していた。


その時、瑠海が僕を見つめて言った。「綾瀬くん、無理に今すぐ答えを見つけなくても大丈夫だよ。もっと時間をかけて探っていけばいいんだから。」


彼女の言葉に僕は少し安心した。しかし、どこか引っかかるものがあった。彼女は何かを隠している――そんな気がしてならなかった。


「瑠海、何か思い出したの?」


「ううん、まだはっきりとはわからないけど……」瑠海は少し目を逸らしながら答えた。


その瞬間、僕は違和感を感じた。瑠海は何かを知っている、でも、それを言わないでいる――そう感じたのだ。だけど、彼女を無理に問い詰めることはできなかった。


僕たちはその日の調査を終え、一旦神社を後にした。帰り道、僕はどうしても瑠海が隠しているものが気になって仕方がなかった。


***


その夜、僕は再び夢を見た。夢の中で僕は再びケートスと向き合っていた。彼の瞳が僕をじっと見つめている。そして、その瞳の奥に何か切実なものを感じ取った。


「君が守るべきものは、すでに君の側にある。」


その言葉が僕の心に深く響いた。僕が守るべきもの――それは、瑠海のことなのか?彼女の記憶が、そして隠された真実が、僕たちに大きな選択を迫ることになるのだろうか。


目が覚めた時、僕の胸は高鳴っていた。何かが起ころうとしている――そう感じながら、僕は窓の外の夜空を見上げた。

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