if Ⅷ

神社での出来事から数日が経った。僕たちは再び日常に戻り、学校生活を続けていたが、頭の片隅には常にあの神社とケートスのことが引っかかっていた。夢で見た石の扉や、ケートスの訴えかけるような目。その全てが何を意味しているのか、僕にはまだわからない。


「綾瀬くん、大丈夫?最近、ずっと考え込んでるみたいだけど。」高梨が心配そうに声をかけてきた。


「うん……ちょっと考え事をしててね。」


「またケートスのこと?」


僕は頷きながら、夢で見た光景を思い出していた。あの扉の先には何かがある。それが、僕や瑠海、そしてこの島全体に関わる大きな謎だということは、間違いなかった。


「やっぱり、あの神社には何かが隠されているんだと思うんだ。」僕は高梨に打ち明けた。


「私もそう思うよ。あの時、すごく特別な場所だって感じたし。もう一度行ってみたほうがいいかもね。」


そう言われて、僕は再び神社に行く決意を固めた。今度は綿津見くんや斉藤とも相談して、さらに深く調べるつもりだった。


***


その日の放課後、僕たちは再び神社に向かった。前回の調査では見つけられなかった手がかりが、今回はあるかもしれないと期待しながら歩いていた。


「今日こそは、何か見つけられるといいな。」斉藤が意気込んで言う。


「そうだな。俺たちも慎重に調べよう。」綿津見くんが冷静に言葉を返す。


神社に到着すると、僕たちは再び祠の前に立ち、前回見つけた石碑や周囲を詳しく調べ始めた。しかし、特に新しい手がかりは見つからず、少し焦りの色が漂い始めた。


「やっぱり、もう少し資料が必要なのかな……?」斉藤が悩んだ表情で言う。


その時、僕の足元で何かがざわついた。まるで、大地が微かに震えているかのような感覚だ。


「……今、何か感じなかった?」僕は恐る恐る周りを見回した。


「え?何かあった?」高梨が驚いて聞き返してくる。


「足元……何か震えてる気がするんだ。」


僕はその場所にしゃがみ込み、地面をじっと見つめた。すると、苔むした石畳の隙間から、微かな風が吹き出していることに気づいた。


「ここ……何かあるかも。」


僕たちは急いでその場所を掘り返してみることにした。石畳の隙間を慎重に外していくと、その下には小さな地下へ続く入口が隠されていた。


「地下……こんなところに隠し通路があるなんて。」斉藤が驚いた声を上げた。


「これって……もしかして、あの扉に繋がる場所?」僕は胸が高鳴るのを感じた。


「行ってみよう!」高梨が興奮した様子で言い、僕たちはその通路へと足を踏み入れた。


地下への階段は狭く、湿った空気が漂っていた。壁には古い木の梁が張り巡らされており、まるで時の流れから取り残された場所のように感じられた。僕たちは慎重に進み、やがて小さな地下の部屋に辿り着いた。


「ここは……」僕は呆然と部屋の中心に立つ石の扉を見つめた。


それは、夢で見たものと同じ――巨大な石の扉だった。


「この扉、夢で見たんだ……。」僕は静かに呟いた。


「夢で?」綿津見くんが驚いた表情で僕を見る。


「うん。夢の中で、ケートスがこの扉の前に立ってた。きっとこの先に、何か重要なことが隠されているんだ。」


「じゃあ、開けてみよう。」高梨が慎重に扉の前に立ち、押そうとした。


しかし、扉はびくともしなかった。重々しい石でできており、簡単には動かせそうにない。


「開かないな……」斉藤が首をかしげながら、扉の周囲を調べ始めた。


「何か鍵が必要なのかもしれないな。」綿津見くんが冷静に推測した。


「そうだね……でも、どうすればいいんだろう?」僕は少し途方に暮れた。


その時、再び足元が震え始めた。まるで、何かが僕たちに合図を送っているかのようだった。


「もしかして……ケートスが僕たちに何かを伝えようとしている?」僕はその考えに辿り着いた。


「ケートスが?」高梨が驚いて僕を見る。


「そうだ。ケートスはこの扉の先に何かがあることを教えようとしているんだ。でも、そのためには僕たちがこの場所の謎を解かなければならない。」


「それなら、もっとこの神社や島の伝説について調べる必要があるな。」斉藤が冷静に判断した。


「そうだね。まずは、もう少し資料を集めてみよう。きっとどこかに、この扉を開く鍵が隠されているはずだ。」綿津見くんも同意する。


僕たちは一旦神社を後にし、再び島の歴史や伝説について詳しく調べることにした。扉を開くための鍵を見つけるには、もう少し時間がかかりそうだ。


***


神社を後にして家路に着く途中、僕はふと瑠海のことを思い出した。彼女は僕の幼少期にとても大切な存在だったが、最近再会した時には僕のことを覚えていないと言っていた。その記憶の欠落が、何かこの島の謎に関わっているのではないか――そんな気がしてならなかった。


「瑠海に会ってみよう……」


僕は一人ごちて、彼女の家に向かうことにした。


***


夕方、瑠海の家の前に立ち、インターホンを押した。少しして、瑠海がドアを開けた。


「綾瀬くん……どうしたの?」瑠海は少し驚いた表情で僕を見つめていた。


「瑠海、ちょっと話がしたいんだ。最近のことや、昔のこと……」


「昔のこと……?」瑠海は少し戸惑ったように僕を見つめ返した。


「覚えてるかどうかわからないけど、僕たちが子供の頃に一緒に遊んだことがあっただろう?その時、君は僕にとってすごく大事な存在だったんだ。両親が亡くなった後、君が僕を支えてくれたんだよ。」


瑠海は少し困惑した様子で視線を落とした。


「ごめんね……その時のこと、覚えてないの。」


やはり、彼女は僕のことを覚えていない。だが、それがただの偶然ではないという確信が、僕の中に強まっていた。


「瑠海、君の記憶がなくなっていることには、何か理由があるはずだよ。ケートスに関係しているかもしれないんだ。」


「ケートス……?」瑠海は驚いた表情で僕を見つめた。「それって、何のこと?」


「ケートスはこの島の伝説に出てくる海の守護者だよ。僕たちは最近そのケートスについて調べていて、神社で不思議な扉を見つけたんだ。君が僕のことを覚えていないのも、その扉と関係しているんじゃないかと思うんだ。」


瑠海はしばらく沈黙した後、静かに言った。「……もしかしたら、そうかもしれない。最近、何か大事なものを失った気がするんだけど、それが何なのかわからなくて……」


その言葉に、僕は確信を得た。瑠海の記憶の喪失は、ケートスやこの島の謎に深く関係している。


「瑠海、もう一度一緒に探してみよう。君の記憶を取り戻すためにも、ケートスについてもっと調べなきゃいけない。」


瑠海は静かに頷いた。「……うん、私も協力するよ。きっと何かが見つかるはず。」


僕たちは再び手を取り合い、謎を解くために動き出すことを決意した。瑠海の記憶を取り戻し、ケートスの秘密を解き明かすために、僕たちは再び神社に戻る準備を始めるのだった。

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