if VI
6月のある晴れた日、僕たちは島の西側にある古い神社を訪れていた。その場所は普段あまり人が足を踏み入れない、静かで厳かな空気が漂う場所だった。神社の境内に足を踏み入れた瞬間、まるで時間が止まっているかのような感覚に襲われた。周囲の自然の音すら、ここでは静寂に吸い込まれていくように思えた。
「ここ、何か特別な感じがするね……」高梨が小声で言った。
僕も何か不思議な感覚を覚えていた。この神社がただの場所ではないことは、一瞬で感じ取ることができた。まるで、何か大きな力が僕たちを見守っているような――そんな感覚だ。
「この神社、もしかしたらケートスと繋がっているかもしれない。」斉藤が慎重に言葉を選びながら口を開いた。「昔、この島の守護神を祀っていた場所だという話を聞いたことがあるんだ。それがケートスに関係している可能性が高い。」
僕たちは境内の奥に進み、古い祠の前で立ち止まった。木々に囲まれ、長い年月の経過を感じさせるその祠は、今ではほとんど誰も訪れない場所のようだった。苔むした石畳が、長い間人々の記憶から忘れられてきたことを物語っている。
「ここが守護神を祀っていた場所か……でも、どうして今ではこんなにも忘れ去られているんだろう?」僕は不思議に思い、祠をじっと見つめた。
綿津見くんは静かに頷きながら答えた。「昔、この島の人々は自然や海を深く崇拝していたんだ。ケートスもその一部だったんだろう。でも、時代が進むにつれて、人々は現実の生活に追われ、神話や伝説を忘れていったんだろうな。」
「でもさ、それってなんだか寂しいよね。こんなに大きな意味を持つ場所が、誰にも気づかれずに放置されてるなんて。」高梨が少し悲しそうに呟く。
僕も同じ気持ちだった。ケートスがこの島にとってどれだけ重要な存在だったのか、そしてなぜ今この神社が忘れ去られているのか。その理由を知りたいと思った。
「調べてみる必要があるな。ここに何か手がかりが隠されているかもしれない。」斉藤が提案し、僕たちは祠の周りを調査することにした。
僕は祠の後ろに回り込んで、小さな石碑を見つけた。そこには古い文字で何かが彫られている。しかし、時間の経過と共に風化していて、文字はほとんど読めない。
「綿津見くん、これ……何か意味があるのかな?」
「うん、古い文字だな。少し読み取れるところもあるけど、これだけじゃ全体の意味はわからない。何かこの場所に関する古い記録を探す必要があるかもな。」
「そうだね……でも、ここに何かがあるのは間違いない気がする。」
その時、僕の頭の中で何かが閃いた。まるで、遠い記憶が急に蘇ってくるような感覚だった。それは幼少期の僕と瑠海が、この島で過ごした日々の記憶だった。
両親を亡くして間もない頃、僕はいつも落ち込んでいた。小学校に通うこともままならず、ただ家でひとりぼっちで過ごす日々が続いた。そんな僕に手を差し伸べてくれたのが、瑠海だった。
「綾瀬くん、元気出して!一緒に遊ぼう!」
彼女は明るい笑顔で、僕を外に連れ出してくれた。海辺で砂遊びをしたり、近くの森でかくれんぼをしたり。彼女と一緒にいると、少しずつ心の重さが軽くなっていった気がする。彼女は僕が悲しみに沈むのを黙って見ているだけではなく、僕を無理やりでも引っ張り上げてくれた。
「綾瀬くん、大丈夫だよ。私がついてるから。」
瑠海のその言葉は、幼い僕にとって大きな支えだった。彼女がいなければ、僕は今どうなっていただろう――その思いが、今でも心に残っている。
ある日、僕たちは一緒に島の西側にあるこの古い神社を訪れたことがあった。当時の僕たちは、ただの冒険心でこの場所に足を運んだのだが、今思えばそれが何か大きな意味を持っていたのかもしれない。
「ねえ、綾瀬くん。この神社ってすごく古くて、不思議な感じがしない?」
「うん……なんだか怖いけど、でも大事な場所みたい。」
僕は瑠海と一緒に祠の前に立ち、何もない空間をじっと見つめていた。あの時、瑠海は僕に何かを伝えようとしていたような気がする。だけど、その時の記憶は断片的で、何を感じ取ったのかはっきりと覚えていない。
その回想から現実に戻った僕は、ふと気づいた。この神社には僕の記憶の中で何か大切なものが残されている。そして、瑠海との関係にもこの場所が深く関わっているのではないかという気がしてきた。
「綾瀬くん、何か思い出したの?」高梨が僕の様子に気づいて尋ねた。
「うん……少しだけ。この神社、僕が子供の頃、瑠海と一緒に来たことがあったんだ。でも、その時のことはあまり覚えていない。ただ、ここで何かを感じた気がするんだ。」
「瑠海さんと……?それって、何かの手がかりかもね。」綿津見くんが真剣な表情で頷く。
僕は深呼吸をして、もう一度祠を見つめた。この場所に残された記憶と、今起きている出来事。その繋がりを解き明かすために、僕たちはさらに深く調査を続けることを決意した。
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