第21話 day16,17

 「すごぉい!」

 ショームさんが見せてくれたのは、少し広めの地図。村でもらったものより少し広めである。だいたい、六枚分だろうか。

 「これは海ですか?」

 今いる国の南側には点々と村があるようで、さらに南に行くと広大な何も書かれていないスペースがある。

 「そうですね。海です。海を渡っての交易をする者もいますが、数は少ないです。ちゃんとした船をつくり、かつ、それを運転しきる者なんていないので、リスクが高いのです。」

 海にはいくつかの島があった。沖に出るほど小さくなり数も減っていくが、地図の端っこまで離れても、建物のある島がある。とはいえそこまで広い地図ではない。

 「こっちの囲ってある...〈魔王領域〉ってなんですか?」

 そこには、囲われた範囲に『魔王領域』と書かれている。川も領域内を通っているのが見える。

 「こちらは書いてある通り、魔王の領域です」

 答えたのはシズクだった。

 「世界には魔王が存在します。と言っても、この世界には複数の魔王が存在します。

 この大陸には七体の魔王が存在します。」


 シズクは魔王について語り聞かせてくれた。


 かつて、三種族が共闘し、各種族の関係が崩れてから、それぞれで発展してきた。神は残された支配能力を駆使し、姿を失っても万物の存在を支えるように。魔物は理性ある者が理性無き者を抑えるように。人間は派閥ができたが、無数の国や村を創り、種の繁栄の手助けをしているのだと。

 そんな中、魔物の中でも力ある者が魔物をべるようになったのだ。別に、何かの決まりがあるわけでもなく、何かしらの理由で魔王と呼ばれるようになったら、それはもう魔王の一人なのだ。縄張り意識だけで魔王と呼ばれた者、多くの魔物を配下に置くことで軍事力に目を付けられ魔王と呼ばれた者、自由奔放そのもので力を持つあまり魔王と呼ばれた者、純粋に力を求め魔王と呼ばれた者。ほかにも、また、三種族の共存を願って魔王を名乗る者、神聖なる神々から堕ち魔王と名乗る者と、その実態は様々なものである。

 そして、この地図に載っている魔王はと言うと...

 「森林の魔王 シュボラン」

 ここ、鉱山都市ミンドロールの東側に大きく広がる魔王の領地である。大きくと言っても、この地図では全体像が捉えられない。魔王シュボランについてはショームさんが説明してくれた。

 「魔王シュボランはこの辺り一帯に目を働かせる魔王です。ただ、この周辺の自然を守護する者として魔王を名乗り、森林に村を形成していようです。人間に危害を加えている様子は無く、割と友好的な魔王です。この国も、交易を行っており、森の恵みを受け取っております。」

 ショームさんも会ったことがあるらしく、気さくで優しい魔王なのだそうだ。強いのかははっきり見たことないらしいが、いつの間にか近くに居たりと、何かしらの凄まじい能力チカラを持っていることは理解できたのだそうだ。

 

 「南の村はどんな様子なんですか?」

 ミンドロームから南の沿岸までに二つほど村があるように見える。それについても引き続きショームさん。

 「若干西寄りの近いほうの村は、特に名は有りませんが、宿泊施設や旅に必要な最低限の品は置いてあるかと思います。さらに南の沿岸側の村は...」

 突然、ショームさんは暗い顔になる。

 「先日...壊滅しました...」

 「えっ?...」

 思わず、唖然としてしまっていると、ショームさんが先に喋り出した。

 「すいません、失言でした。壊滅と言いましたが、正確には壊滅というにはまだ無事があります。ちょっと言い方が難しいですね...」

 壊滅と言っても、全壊したり消し飛んだりしたのではなく、大半が建物の倒壊と住民の殺害で悲惨な状況なのだそうだ。建物は何らかの原因で崩れ、住民は下敷きになっていたり、建物の瓦礫により圧死していたり、破片が飛んできたのか、板材が突き刺さった住人もいたらしい。

 残っていたのは、神をまつっていた建物と数人の子供たち。数人、大人も一命はとりとめたものの、目を覚まさない状態らしい。

 「紅様」

 その話を聞いたシズクが真剣なおもむきで、紅に声をかけた。もちろん、その意図を理解する。

 「たぶんそれは、私たちが来た村の状況と近いですね。悪魔を名乗る者が毎晩

村の破壊行為や住民の殺害を行っていました。別に、子供を残すようなことはしていなかったと思いますが、確かに、死んでいない被害者は、原因も分からな意識不明の状態が続いていました」

 そう、聞く限りでのの容態が全く同じである。聞けば、同じく深夜にそれらすべての犯行が行われたのだそうだ。何者かが、暗躍している可能性がある。

 今は、ショームさんの手引きで国の警備部隊を編成して、二つの村へ派遣しているところらしい。両方の村が全壊するのを防ぐためにもその判断に至ったらしい。

 「なるほど...それなら一安心ですね。ただ、原因が分からないのでは対応のしようがないですよね...」

 「まぁ、少しずつ情報を探していくしかないですよ」


 そんなこんなで、話はまた数十分続き、長話から解放されたのだった。

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