第20話 day16

 図書館での様々な情報収集で学びを深めながら、修行を行う。そういう計画であるのだ。食事は、来賓館の方なら無償で食事を提供してくれている。朝と夕はお金をかけずに食事ができている。昼飯代のみお消費なので、そこまで困ることは無い。本を読むだけなのでそんなに空腹も感じないので平気なのだ。修行のときは街を出て、街周辺で魔物や動物を狩って売る。それで、十分利益になっているのである。


 「読んだのは...ここまでだったけ?」

 紅は、最近読んでいる世界史の本を開き続きを読みだした。


 かつて、異世界から来た系越体けいえつたいたちはどうなったのか。それは、とてもシンプルに綴られていた。

 『そもそも、三種族がどうやって系越体けいえつたいを食い止めたのか。それは、各種族の尽力の元にあった。神は多くの支配能力や加護をつかさる。それすなわち、封印や結界の類いが扱えるものがいた。人間は協力による力の発揮が凄まじかったのだ。神や魔物ほどの能力チカラが無い故の自己防衛の思考回路、戦闘の策略。これらを神や魔物の能力チカラを駆使して策を立てる。多くの意見を思案し、合わせ、まとめあげるのは人間ならではであった。魔物は神以上に多彩な能力チカラを持ち合わせている。それは、味方である限り最高の戦力となりうる凄まじい実力達だった...。 最終的な結果としては、人間の指揮の下、神々の尽力によって、異世界との境界は封印され、魔物たちの尽力によって、残された系越体けいえつたい達も討伐された。 のだが、神々は能力チカラの酷使によって文字通り存在が薄れた。同じくして、魔物たちも能力チカラの酷使によって能力の暴走や理性の崩壊が起きて、理性を失い破壊の限りを尽くすモノが増えた。』

 ここで、はどうなったのか。人間は、特別な能力チカラを持つ者は少ないわけで、神々や魔物たちと同じようになることは限りなく少ないと考えられる。人間がどうなったのか...

 『人間とは愚かで醜い生き物。目先の者を第一に信じ、周囲の雰囲気に飲み込まれる生き物である。』

 その書き出しで、人間の愚行ぐこうがしっかりと記されていた。


 『人間は勝利を喜んだ。人間は喜びを分かち合うのも好きな、繋がりを大事にしている生き物。しかし、神々は大半が姿を消し、魔物たちは距離を置くようになった。最初は、文化的な違いだと思い込んでいたが、神々は次第に姿を見せなくなり、世界各地で、魔物による被害報告がされた。ここからが人間の愚かなところである。

 ある者は、「系越体けいえつたいの撃退に成功したのだから、元々の争い合う関係に戻ったのだ」と言い張り、

 ある者は、「人間が指揮を執った中でその脅威に気が付いた」や「嫉妬心が沸いた」と言い張り、

 ある者は、「裏で神と魔物が手を組んでいる」などと言ったり、

 ある者は、「系越体けいえつたいのような何かが原因で皆おかしくなった」と考えたり、

 ある者は、和解や原因を探るべく残された意思疎通の可能な魔物や神を探しに旅に出たり...

 それぞれ様々な思考を持ち出したのである。結果それはどうなるか。誰でも想像できるのではないだろうか。

 人間は派閥をつくり、各団体に分かれ対立すようになったのだ...』


 そこには、勇敢で鮮やかな命の輝きと共に、人間たちの愚かで悲惨な愚行が記されていた。

 「人間ってなんなんだろね...」

 紅がそう呟くが、聞こえていたか聞こえていなかったのかは分からないが、誰も反応することは無かった。


 今日は、来賓館で話があるとショームさんから声を掛けられていたので、昨日より早めに帰る。まだショームさんは来賓館まで来ていないらしく、ひとまず部屋に戻った。

 しかし、紅は今日読んだ歴史の本のことが頭から離れず、ぼーっとしていた。それを見たシズクが声をかける。

 「紅?さっきからぼーっとしてるけど...大丈夫?」

 それに対し紅は、

 「人間って何なんだろうね...強いのに、弱い...よね。せっかくの平和も...なかったことになるんでしょ?...それじゃぁ、意味ないんじゃないの...?」

 その疑心暗鬼な言葉に、シズクはそっと紅の横に座り、言った。

 「人間の存在が必要なのか?って言いたいのかな? もしそうなら、それは必要だよ。少なくとも私はそう思ってる。歴史書を読んでたんだよね。じゃあ想像できるでしょ?人間がいなかったら、もちろんその戦いには勝てなかったんだよ。確かに、人間は残酷なことをしたのかもしれない。でも、みんながみんな、そうだったわけじゃない。だって、紅がこの前救った村には、人間も魔物もいたんだよ。皆が皆そうじゃないの。私は紅の考えを尊重するけど、やっぱり人間は必要だと思うよ?」


 少し経って、召使いさんが部屋までやってきた。ショームさんが到着したようだ。


 「ということで、紅さんがお求めの物を探していたのですが...なかなかすぐに手に入れられる距離には無くて...申し訳ありません...」

 とても申し訳なさそうにショームさんは言った。紅たちが求めていたものは...

 「基本的に世界地図を求める人もおらず...国家規模の軍事運動や領地開拓でしか利用されなくてですね...」

 世界規模とはいえ、クラウス商会でも世界規模の地図は持ち合わせていないのだそうだ。

 「そこで...代わりにはならないのかもしれないのですが...周辺の交易に利用している割と正確な地図ですが、ひとまずこれをお渡しします...」

 その地図は想像以上に規模が大きかった。

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