第17話 day14

 「すごぉい‼」

 石畳いしだたみの道に、立ち並ぶ家々。道沿いに並ぶお店に、買い物をする親子。貿易の馬車がゆったり進み、冒険者たちも仲間たちと共に歩いている。

 「えっと...」


 「クラウス商会...の商業ギルドだったよね?」

 本日目的であった、商業ギルドに着いた。とても大きく、街の端の方だろうか。夜は暗くて見えてなかったけど、城壁もある。

 「広いねぇ~」

 その広さは言い表せない。前世の記憶だと、テニスコート何面分とか、プール何面分とか、東京ドーム何個分とか...

 『東京ドームとか言ったこともまともに見たこともないし...これは...学校4校分!って、学校によるやないかいっ...』

 「...よし、行こうかっ」

 クリーム色の壁でいくつかガラス製の窓。入り口は両開きのしっかりした建物。別に建物が大きいのではなく、隣接された、馬車の収納場所や品物の倉庫などが、とても広い場所を取っているのである。

 「お邪魔しまぁ...」

 開けた先には...

 『思ったよりゴツイ人とか...性格悪そうなおじさんとか...絶対優しいタイプのおじいさんとか...全然まだ若い子とか......商業ギルドって、思ったよりいろんな人がいるんだなぁ...』

 ずっと、斜め後ろでついてくるシズクは、一切反応することもなく、凛としている。そのまま、正面の受付カウンターまで歩いていると、端の方にいた怪しい若干お金持ちそうな男が近寄ってきた。

 「これはこれは、どこのお美しい方かと思えば、落ちぶれ村のシズク殿じゃないですかぁ。どうしたんですぅ?なにか助けが欲しいとか?いいでしょう!その代わり、あなたの夫の座をいたd...」

 「お久しぶりです!商長しょうちょうさんっ」

 を空気のように扱い、受付の人と話していた、40歳ほどの良い顔のオジサンにシズクは挨拶をした。

 「おぉ、シズクじゃないか!ひさしぶり」

 それに明るい顔で答えてくれた。「商長」とシズクが呼んだのは、ここの業 ギルドの会なのだそうだ。昔から、たまにではあるものの、この国と村とで商人による交易はあったそうだ。その際に、幼いうちからシズクは、村の商人と共に交易をしに来ていたことがあって、古くからの知り合いらしい。


 「どうやら......殺されたいようですね!さっきから私を無視し、挙句の果てにはそこの男と仲良く...不愉快極まりない!」

 『これは絶対面倒になる流れだ...』と紅はなんとなく感じた。

 「あら、これはイヴィル侯爵。ごきげんよう。どうかなさったのですか?」

 シズクはあえて挑発的な態度で応えた。

 「き...貴様!私は権力者であるぞ!そのような反抗的な態度、許される行動ではないぞ!そのような者には罰を与えんとなぁ」

 イヴィル侯爵と言われていたその男は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。

 「奴隷紋どれいもん‼」

 イヴィル侯爵は声をでかでかとして言い放った。

 しかし...

 「なんだと⁉...お前には昔、奴隷紋を刻印していたはずだが...、どうなっている⁉

 『は?』

 衝撃が走っているイヴィル侯爵とは別で、激しい感情に揺らされている。

 「あぁ、刻印ですか?そんなもの廃棄しましたよ。そんな安っぽい刻印、わたくしの幼き日の友との誓いに比べたら、ただの子供の落書のようなものですよ」

 ののしるように、シズクは言い放った。

 「そんなばかな...。あれが安っぽい刻印だと?...《《悪魔》をも従えたとも言われる刻印だったのだぞ...」

 「ふふふ、それではまた今度、お茶でもしましょうね。 あ、言い忘れておりましたが、の座は私には不必要ですので、どうか諦めてくださいね。既に私にはがおりますので。それでは紅様、行きましょう。商長さんもまた来るので、よろしくお願いしますね」


 「それじゃぁ、街を回ろっ」

 シズクは心なしかいつもよりウキウキな感じだ。何か吹っ切れたのか、自慢げなのか、満足そうにしている。

 『さっきはちょっと思うところがあったけど、シズクが気にしていないなら私が首を突っ込む必要はないね』

 そう思い、気にせずシズクと街を回る。


 「これ、アッポーっていうんだよ!私は切って食べる派なんだけど、丸かじりもおいしいよ」

 そう言って見せられたのは、『どう見てもリンゴじゃん』と言いたくなる見た目である。赤色に加えて緑色のものや、黄色のものもある。


 「ここはね、魚屋さん!おいしい魚が売ってるよ!私はね、このサーモムって言うのが好きなの。珍しくオレンジ色の身で、お肉みたいな感じの噛んだ感触。そして、脂ののったトロっていうところは溶けるみたいで、とっても美味しいよぉ」

 『どう見ても...サーモン?いや、よく見ると違う気もする。』

 この世界にはもちろん、紅の前世の記憶にもある生き物たちもいる。魚だって川で見たし、イノシシのようなものも見た。環境が違えば、進化の方向も変わる。この世界にはがいるのだ。そこらの魚や動物は、魔物からおのれ自身を守るためにしっかり進化している。

 『きっと、生前のサーモンは食べれないんだろうな...。でも、十分サーモムも美味しそうだけどね』


 そのまま、街中をシズクと歩いた。

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