第15話 day13,14

 遠くで角笛つのぶえの音が鳴り響く。


 「敵襲?いや、この角笛は、交易品の保有馬車!」

 シズクは素早く状況を判断し説明する。

 「方向的にこのまま道を進んだ先でござる。走れば間に合うと...」

 「急ごう!」

 二人で急ぎ走った。と言っても、シズクはペースを合わせているようで、少し申し訳なかった。


 「間に合った...けど...」

 ヒト型の緑色の魔物が人間を襲っているようだった。

 「シズク!みんな助けれる?お願い!」

 紅の頼みに、シズクはかっこよく

 「御意ぎょい

 その一言で済ませ、スピードを上げて跳びかかった。

 

 数分後。

 魔物集団は、シズク一人によって大半が壊滅。逃げ出すモノも、紅が上手く息の根を止めていた。文字通り、喉元に何かが貫通した跡がある。

 『やっぱり、「風弾ふうだん」って威力ヤバいよね...』

 初めて【ふう】を手に入れたとき、「風線」という技を考えて、扱ったが、どれくらいの威力が必要かも分からず、とりあえず、弾丸を想像して能力を使った。それに、「風線」は光線がモチーフだったため、最悪、光線の軌道部分に触れるとけががあるかもしれない。そこで、一発ずつの弾丸形式にしたのである。


 ある程度落ち着いて、シズクの元に行くと、商人たちに感謝で責め立てられるシズクの姿があった。おじ様や若手商人に求婚される美女みたいな図だ。シズクはこちらに気づくとすぐに近づいてきて、

 「紅様。ご命令は実行させていただきました。いかがいたしましょう。」

 突然、従者感を出して会話を始めた。

 「なるほど。あなた様の計らいでしたか。この度は、命を救っていただき、多大なる感謝をいたします。」

 紅の前で、片膝をついたシズクは、商人たちを背後にして、紅にだけ見えるようにドヤ顔を含んだ笑顔を見せた。

 『ちょっと...この世界に来てあんまりまだ、社会の常識とか理解してないんだけど...』

 困りつつ、紅は言葉を並べる。

 「私は、全く世間一般の常識を理解していないので、いろいろ問題はあると思いますが、お役に立てたのなら良かったです。」

 商人たちに満面の笑みで答えた。

 「そうだ、感謝の気持ちとしては足りないかもしれませんが、私の屋敷にいらっしゃいますか?」

 「えっ?いいんですk...いや、無理はなさらないでください。せっかく助かった命だというのならば、今度は誰かを助けたり、やりたいことをしっかり生きてるうちにやり遂げておくことも大事ですよ?」

 『危ない危ない...思わず心の声が漏れかけた...というよりは漏れちゃったな。』

 目の前の商人は笑顔を浮かべこちらを向いていた。

 「おっと、これは申し遅れました。わたくしは、この先の鉱山都市ミンドロールの財務大臣シュームの弟、クラウス商会代表取締役、ショーム・クラウス、と申します。以後、お見知りおきを。」

 「私は、夜桜よざくら べにです。こちらは...従者の天日あまひ シズクです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 お互い自己紹介を済ませ、ショームさんは商人たちに荷物の確認や整理の見直しを命じた。

 「それで、お二人はどういった経緯で旅をなさっているんでしょうか?」

 「いろいろあって、とりあえず私が大きな都市を見たことがないので、都市の様子を見てみたいなと思っていたんです。あと、少し大きめの規模の地図も欲しいなと思っています。今後、いろんな土地へ旅をしようと思ってるんです。」

 あんまり話過ぎるのもよくないと思ったので、控えめに最低限の目的を話した。

 「なるほど...それじゃぁ、ここから徒歩は大変ですし麗しい美女を野宿させるわけにもいきません。ぜひ、私共の馬車に乗ってください。もちろん、宿が必要でしたら、商会の来賓館らいひんかんを数部屋手配しておきますよ?」

 完全に好都合の条件に...

 「お願いしてもいいですか!?」


 夕焼けが綺麗だなぁ...と、さっきまで思っていた頃、もう辺りは真っ暗で、馬車は火の光を頼りに走っていた。

 「ふぅ...歩かなくていいってこんなに楽なんだね。」

 怠けるように紅は言った。

 「はい、そうですね。とっても楽ちんです。」

 口調はかしこまっているが、見てみると、貸してもらったフカフカの毛布に体を預けていて、かなりシュールな絵である。

 『シュームだかショームだか間違えやすそうな名前だな。この流れだと、兄弟で名前似てるとか多そうだな。っていうか、シュールって名前いそう』


 少し経って、日付が変わったようだった。

 『能力ヲ獲得...【アン】』

 『ただでさえ暗いのに、手に入った能力も【暗】って...ブラック過ぎないかな?』

 なんて思ったが、

 『待って、私照らせるじゃん』

 シズクにお願いして、護衛を頼みつつ運転手の横に座る。

 「名前聞いてもいいかな?」

 「えっと...アズマっていいます」

 ちょっと、カタコトっぽく答えたのはまだ若い商人だった。若干顔が赤くなっているようにも見えるが気にしない。【気】の能力で、アズマがかなり緊張しているのが分かっているのは気のせいだとしておく。

 「前の方まで行けるかな?」

 「どうしてですか?」

 「私がこの真っ暗な道を照らしてあげようと思ってねっ」

 あんまり理解しきれなさそうなアズマだったが気にせず馬車を飛ばして先頭まで出てきた。途中、アズマがショームさんに怒鳴り声を上げられていたが、気にしない。

 『私の頼みを何も気にせず聞いたからいけないんだ、これは自業自得だ。......あとで、事情を説明しとこう。アズマにも誤っておかないと...』


 先頭で、紅は能力を使う。

 『この約3日間。能力についてなにも研究してこなかったわけじゃないんだ!』


 「聖光道ホーリー・ライトロード!」

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