第12話 day9,10

 のだ。


 紅にとって、それは嬉しいが、怖かった。

 「どうして休むの?」「なにか辛いことあるの?」「学校終わったら遊ばない?」なんて、そういう言葉は無い。世界中に存在する学校や不登校児はどうなんだろう。

 優しくしてもらえて、とてもとても嬉しい。ただ、友人関係や学校生活が不安なら、優しく接してもらえるのは嬉しかったはず。学勉や成績が不安ならば、努力するなり、先生との相談なりで済むはずだ。金銭や家庭の問題なら、退学や休学、転校をするのではないだろうか。


 紅は、そんな理由ではないのだ。


 家にいても、勉強をしないわけではない。勉強は嫌いではないし、登校も嫌じゃない。しかし...


 「皆が...怖い...」


 幼いころから、紅は読書や絵が好きだった。学ぶことも好きだった。しかし、それをするのが早かったのかもしれない。考えすぎてしまったのかもしれない。そう...

 のだ。


 たくさんの本を、物語を、読んだ。そうしていくと、知ってしまうのだ。


 「みんな...怖い...」


 人は、裏切る。人は、間違える。人は偏見を持つ。人は、感情に捕らわれる。人は罪を犯す。人は...


 「大丈夫...大丈夫よ。今日、頑張ったのよね。じゃぁ、今日は、おいしいもの食べましょうね。んー...今日は一緒に餃子作ろっか。ご飯、炊いといてくれるかな?」

 「うん...わかった...」


 それは、今の紅にとって、一番、見てはいけないような、危険なだった...



 「あれ...わたし...ねちゃって...」

 突然。それは、恐怖。

 突然。それは、悲観。

 突然。それは、孤独。

 涙が止まらなくなった。

 『もしかして...みんな...いなくなっちゃうのかな。みんな、せっかく仲良くなったのに...。みんな、私のこと、裏切っちゃうのかな...。また、一人ぼっちになるのかな...。』

 そう、のだった。



 「いたぞー!」

 どこかから、声が聞こえた。

 「ん...あれ...」

 「もぉ...どこで寝ちゃってるんですかっ、心配したじゃないですか!」

 声の主はシズクだった。ぼやけているが、見た感じホムラもいるようだ。

 「なに泣いてるんですか?何かありましたか?」

 ホムラが心配そうに声をかけてきた。

 「いや、。気にしないで」


 『能力ヲ獲得...【嘘】』

 『虚言』

 その力は、をつく力。『嘘もまことも話の手管』という言葉がある、その意味は、簡単に言えば、嘘も真実も上手に織り交ぜて話すことができるということである。

 紅は軽く涙を拭く素振そぶりをして、笑顔を見せた。

 ここに、一つ綻びが生まれたのである。いつの日にか、大きな絶望になる、そして、大きな希望にもなる、ができたのである。


 時間は、夜明け直後である。山々の間から太陽が顔を出す。しかし、その太陽がまばゆく光るのと重なるように薄い雲が重なっている。

 窓から見えるそれを見ながら、朝食を摂るのだった。


 今日も村中まわる、もちろん村民たちとも話すし、時々お手伝いもする。

 「明日の朝、この村を出ようと思うんだけど...いいかな?」

 「準備しておきますね」

 シズクはそう言って、その支度をホムラに頼んだ。

 「と言っても、紅と私の荷物とちょっとだけだけどね」

 急に口調が近しくなる。

 「まだ慣れないなぁ、その感じ」

 「だって、みんなの前では神とその従者なんだから、丁寧に接してなきゃだけど...」

 少し間をおいて、立ち止まって、シズクはゆっくりと言った。

 「私は、神である紅様の締約神。言うなれば婚約者候補。つまり、私には、紅に愛を送る義務もある。表では真面目に、でもできるだけ、甘えたり仲良くしたりしたいものですっ」

 頬を赤らめながらも、精一杯言っていた。心の中で、紅の恋心もゆらゆら揺れているのだった。


 「ってことで...村長さんっ!この辺りの地図とかないですか?」

 日が暮れそうになってきたころ、紅は村長の所にやってきていた。

 「ん~...この辺にあったと思うんじゃが......あった!」

 そういって、小さな小汚い地図を持ち出してきた。しっかりと地図ではあるが...

 「これって載ってる範囲あんまりないですよね...?」

 「守護神様には多大なるご恩と信仰がありますが...この村にはこの規模の地図しかなくてですね...交易も関りも、ここから南東の位置にある国としかしておりませんゆえ...申し訳ありません。」

 この上なく謝罪してくる村長を見て、逆に申し訳なく思えてきた。実際、地図をくださいと押し掛けたのは紅だからである。

 「いやいや、これだけあればなんとかなりますよぉ、こちらこそ、突然押し掛けたのにありがとうございます!...」

 コンパスと地図は手に入った。きっと、その国にさえ行くことができれば、もう少し規模の大きい地図も手に入るだろう。最低限のサバイバル道具や少しの金銭、1,2日分の着替えなどは、ホムラと紅でまとめてもらえるらしい。

 「英気えいき

 最初に来た祭壇。【気】の力で、加護...とまでは言えないけど、何かの役に立つことを願って、気を込めておく。

 『この村が、もし危機に遭っても、何とか切り抜けられますように...』

 

 「やりたいことはできたし、十分な収穫かなぁ」

 そんなことを考えながら、のんびり、いつもの家に戻るのだった。

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