第11話 day9

 何者かが、言い争いをしている。姿かたちは見て取れない。

 「神々が世界を支配するべきだ!」

 「神々は世界の安寧と均衡の維持のための存在だ!」

 『なんだろう...喧嘩してるのかな?...でも、姿が分からない。』

 そこにいるのは分かるのだが、そこにどのような何がいるのかわからない。


 『なんにんか...いる...』

 モヤがかかっているように、見た目は分からないが、そこに人がいる...。少しずつ、様子が見えてくる。


 大きな円卓を囲んで、21のモヤが、そこに

 「わたくしは、安静あんせい派ではありますが、そんなこと考えるべきではないと思いますわ。神も等しくこの世界に生を与えられた生き物に過ぎない」

 「ボクも!安静派だから、あんまり口出しする必要はないと思ってるけど、あんまり出しゃばらない方が良いと思うよお。」

 「俺は制圧派として、支配を進める方が良いと思うけどなぁ。人類はバカなんだよ。差別だか偏見だか知んねえけど、そんなことしてっから、苦しい目に遭うってこと、なんで学ばねぇんだよ。俺は、一度人類を支配して、そこんとこちゃんと学んでもらいてぇ」

 「亻ヴァ!いつからあんたは制圧派になったんかね?ワシは、そんなこと聞いた覚えはないぞ!」


 円卓を囲み七つのモヤが座っている。その後ろにそれぞれ数人経っている形だ。どういう仕組みかは紅には理解できない。怒鳴り声や落ち着いた声、おしとやかな声...いろいろある。


 「ワシは...もう少し考えてもいい...と、思うておる...」


 聞き慣れた声だった。

 『この声って...あの村の、元々いた守護神の声...』


 「おい!老害!今ここにいる中で最高齢のお前の意見は強いんだ、わかってんのかぁ?」

 「おじいちゃんの判断が今は大事なんだよ?どうしてそんなに慎重なの?早くしなきゃ、取り返しがつかないことになっちゃうかもだよ」

 激しい声と子供っぽい幼い声が、老人ボイスの者に主張している。

 「やっぱり、ジジイな上にこいつが均衡担当の神なのが間違いなんじゃ。しかも出身が、辺境の田舎村の守護神の下級神じゃ。慎重にしか考えられんに決まっとる。」

 「そんなことをおっしゃるなら、ワタクシはあなた様もに加わるのではないかと思いますのだけど?」

 貴族的な女の声が老婆の声の者に批判をする。


 周囲からの罵詈雑言が見える。もちろん、敬意の欠片もないわけではない。に対し、批判しながらもちゃんと地位を考えている者もちゃんといる。しかし、はかなりに当たりが強いのは、側から見ても目に見えて分かる。


 「とりあえず...今日は解散じゃ。明後日、また集まろうじゃないか...」


 老人ボイスの者の声でそれぞれ帰り始める。それに従うように連なる者はきっと従者か何かなのだろう。

 すると、さっきの老婆ボイスのモヤが近寄って来て

老人ボイスの神に語り掛ける。


 「少し、面を貸せ」



 「うぅ...夢かぁ...」

 最後まで様子が分からずに、目が覚めてしまった。どうなってしまったのだろう。外はまだ暗い。この村には、明かりが少ない。記憶にある、電灯や街灯なんてものもない。ただただ、燭台しょくだい松明たいまつ蝋燭ろうそくに灯をともして過ごすしかないのだ。

 「そういえば、シズクやホムラも言ってたなぁ。」

 この村はあかり少ないが、王都や国家に行くと、夜間でも灯りが付いていたりするようだ。それに、種族や能力によっては、夜間でも目がよく見えていたりする者もいるらしい。

 そんなことを思い出しながら、村を歩いた。途中で止まり、棚田たなだのようになっているところの斜面の草原くさはらに座り込んだ。いつもは、ホムラやシズクが灯りを持っていてくれるが、今夜は一人夜な夜な歩き出てきたので二人は居ない。自分でも灯り(火)は出せるので、気にすることは無い。

 「やっぱり...灯りが少ないと、」

 星が鮮明に、一つ一つが輝いて見える。

 「そういえば...星座とか.........あれ...?」

 覚えいない。

 「わたし、星座、なんだったっけ...誕生日...いつだったっけ...あれ...あれ?...」

 全然思い出せない。

 「私は、学校から帰って、することして、寝た。そしたら、目が覚めたらこの世界に...私の部屋、ってどんなだったっけ...」

 全く、思い出せない。

 そのまま、そこで焦燥と悲観で焦り泣き、そのまま眠りについた。


 プルルルル、プルルルル

 何も見えない、何もない、そんな感覚の中で、電話の音が聞こえる。

 「紅~?今日の夜ご飯何がいい?」

 その声を聞いて、泣き出してしまう。

 「紅、どうしたの?もしかして、また学校に行けなかったの?」

 「私、学校、行ったよ。皆、優しいよ。でも、学校、行きたくないよ」


 紅は、不登校だった。

 心の中で、空想の中で、登校していた。頭の中というのは、現実そのものだった。

 しかし、その日、、紅は、カバンを持ち、荷物を持ち、学校に行っていた。

 みんな優しかった。優しく接してくれた。


 のだ。


 

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