第10話 day9

 『能力ヲ獲得【フク】』

 『今日の能力は【復】か...もうただの「回復」だよな...』

 そんなことを思いながら、紅は朝ごはんをいただく。

 「お腹いっぱい食べてくださいな、守護神様...」

 気力が無いのは心身共に疲弊ひへいしているのだろう声の主は、この村の村長である。このお爺さん村長は、犬人族コボルトの老犬お爺さん。それこそ最近、息子を亡くして死んだような日々だったらしい。最近、紅が来て...事件が解決して...という流れで少しずつ元気を取り戻したのだとか。まだ、本調子では無さそうだが、ご飯も少しずつ食べるようになったようだ。健康でよろしい。


 「村長!」

 紅は、気になっていたことを質問する。

 「なんでしょうか?」

 「凄く失礼なことを聞くけどいいかな?」

 「はい、もちろんですとも...」

 「跡継ぎ...なんだけどさ...息子さん亡くなったんでしょ?どうするの?」

 「...」

 村長は沈黙する。

 「突然来た奴にキツいこと言っちゃうのは良くないけど、どうするか聞いとこうと思ってたの。」

 少し沈黙を置いて、村長は口を開いた。

 「私は、シズクが良いと思っておりました。息子も信頼を置いていたので何度も声をかけていたようです。しかし、シズクはいずれ現れる守護神様に仕えるのだと、そう言い続けていたようで、それは無理強いできないと考えております。先日、守護神様の元で仕えることになったと伝えに来てくれたので、その通りです。」

 『遠回しに告白でもしてたってことかな?』

なんて思ったのはここだけの話。村長は話を続ける。

 「私は守護神様に決めていただくのがいいかと思っております。次期村長として相応しい者を決めていただきたく存じます...」

 「なるほど...」

 ここで、ふと悩んでしまう。

 『数日いるけど、まだ顔すら覚えてない人沢山いるだろうし...決められないよな...』

 そう悩んでいると、あっさりひらめく。

 「じゃあ、ホムラがいいね。一緒に戦ったし、シズクとも仲良かったし、この村のこと頼んだし、ホムラがベストだと思うよ」

 「おぉ、ホムラですか、じゅうぶんな強さと知性がある。決まりですね。」

 後ろで、そわそわとしているのが分かる。ホムラもいざ言われると、誇りと恥ずかしさがあるのだろう。


 そんなこんなで、今日も村を歩き回る。しかし、今日は一仕事するつもりだ。


 「守護神様!あぁ、ありがとうございます...」

 紅は負傷者を1人1人治療していく。といっても、「回復」には限度があるようだ。


 エネルギーのようなものは、なんとなくだが残りの量がわかる。


 擦り傷程度の者から切り傷まで、治していく。傷が重い程、多くのエネルギーを消費する。皆が皆、軽症かと言われるとそうは言い切れないのが現実である。数日間にわたる夜間襲撃、そして守護神と真犯人の決着。前者で、意識不明の者多数。後者で、意識不明な上に外傷が増えた者も多数いる。それ程の事件だったのだ。しかし、皆がそろって、感謝と信仰を捧げてくる。喜びや安堵を越えて...何も感じない。


 「無理なさらないでくださいね?」

 ふと気づくと、シズクもホムラも目の前で心配そうにのぞき込んでいた。

 「あっ、いやいやいやぁ、平気だよぉ。ありがとね」

 一日で、村の全員の治療にまわれたようだ。ただ、紅にできる治療というのは、外傷を癒すこと。内傷は完全には治せていないし、意識不明の者の目を覚まさせるなんてこともできない。ただ...

 「昼から先ほどの時間までで、20人ほど、意識がもだったおり、皆少しずつ、意識を取り戻しております!」

 村人たちが、騒ぐように報告に来てくれる。皆、目を覚まし始めたようだ。もちろん紅は、能力の使い過ぎで、エネルギーが枯渇していて、意識が朦朧もうろうとしている。


 「100人越えのけが人を全員治療するなんて...」

 シズクが辛そうに言っている。

 「そっ...か...。あはは、ちょっと...ムリしてた...かな?...」

 声を出そうとしても、紅は途切れ途切れの声しか発せない。

 「無理しないでよ...見ててつらいよ...」

 辛そうなシズクに手を伸ばし、頭の上を優しくゆっくりなでる。

 「じゃあ...私のこと...支えててねっ」

 精一杯の笑顔で、そう、言ってあげた。



 紅は、不思議な夢を見ていた。


A「世界は神々が支配する!」

B「何を言う!神々は、我々はあくまで、世界の均衡を、世界のことわりを守り続けるのが、我々神の使命だ!」

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