第8話 day7,8

 直後、血飛沫が飛び散った。


 「誇りは無いのでござるか?」


 その声と同時に、ドッサリ音を立てて、腕が地面に落ちる。

 「立て!ホムラ!」

 その瞬間、力の抜けていた体は奮い立ち、力強く立ち上がって剣を構える。

 『最優先は守護神様だ。1人なら守りながら勝つのは厳しいが...二人なら...シズクが来たなら勝機はある』

 全力で悪魔に斬りかかる。悪魔は片腕が無くなっていた。血飛沫と共に吹き飛んだのは、目の前の悪魔の腕だった。

 「チッ...二人か...分が悪いな...」

 悪魔はあっさりと剣を受け止める。振り下ろされた剣を、残った左腕で鷲掴みにするように受け止めていた。わずかに血が滴る。ホムラは剣を握ったまま蹴りを入れるが、悪魔の体は思ったよりも強靭でびくともしていない。

 「ぐはっ..」

 悪魔は軽く剣ごと持ち上げて、そのまま蹴り飛ばした。

 「チッ、二人は面倒だなぁ!」

 「そう簡単に倒れないのが護り人として鍛錬を続けてきた私たちの力だ!」

 ホムラが吹き飛ばされた瞬間、シズクが握りこぶしをぶつけていた。と言っても、その拳は悪魔の手の中にすっぽりと受け止められている。

 「そこらの出来損ない種族が悪魔の力と対等に戦えると思うか?」

 その質問に、シズクは微笑んで答える。

 「愚問ではないか?元に今まさに、そなたは力が足りておらんのではないか?」

 シズクの拳は力強く留められているが、それを受け止めている悪魔の手は力いっぱいで震えていた。シズクは両手で悪魔の腕を掴み、捻るように突き倒した。そして、腰に収めていた刀を引き抜き大きく振りかぶる...

 「この村を襲ったこと...後悔するがいい!」


 次の瞬間...


 「ホムラ!?」

 悪魔の無かったはずの腕はそこに存在し、さらには掌をシズクに向けていた。そこにホムラが入り込んだのだ。掌から紫色の球体が飛び出し、それに当たったホムラは痺れたようにその場に倒れこんだ。

 「ホムラぁ!」

 シズクは動揺しホムラを呼ぶ。しかし、反応は一切ない。

 「ホム...」

 「自分の心配は後回しでいいのかな?」

 悪魔は動揺するシズクを吹き飛ばした。シズクはズルズルと砂煙を上げながら遠くまで吹き飛ぶ。止まった少し後ろには、守護神、紅がいる。

 「くッ...守らねばならないのに...」

 悪魔はゆっくりと歩いてきて座り込むシズクの前で立ち止まる。

 「悪魔を信じるつもりはないか?」

 その質問に、絶望を押し殺して、力強く答えた。

 「私はこの生涯を神のために生きると決めたのだ。これは恋のようなもの。容易く曲がるものではない!」

 堅い意思が表明されると、悪魔は呆れたように、

 「そうか、絶望は絶望のままだな」

 そう言って、掌を向ける。掌からは不気味な紫色の光が光っている。

 『もう無理か...』


 『能力ヲ獲得【狂】』



 体が軽かった。これは戦闘なんだと心から分かる。ただ、感情も思考もグチャグチャになって...



 「守護神様?」

 シズクが驚き聞く。シズクの目に映るのは、突然立ち上がった紅が悪魔に何かをした。何かをして意識を失わせた。

 「いや...死んでる。」

 悪魔は死んでいた。


 目が覚めると、どでかいベッドの上で横になっていた。そして、手を握る者が一人...

 「え!?だれ!?」

 驚きを隠せず、大声で叫んでしまった。

 「守護神さ...紅様! お目覚めになられたのですね!」

 明るい笑顔と共に声をかけてくる。

 「私は、天日あまひ しずくと申します。」

 名乗りが謎にしっくり来た。どうしてなのか分からない。

 「私は、夜桜 紅。よろしくね」

 軽く自己紹介をすると、シズクは言った。

 「私を一生、あなたのモノにしてくださいっ!」


 「え?」

 あっけらかんとした声を出してしまった。しかし、紅にはそれほど驚くことだったのだ。少なくとも元々紅がいた世界では同性愛は一般的なものであったが、自分の周りでは見たことがなかったからである。実感が湧かなかったのだ。そして、この世界でのそう言う価値観は全く知らない。

 「あの...私...この世界の恋愛とか全く知らないし...その...急に言われても...」

 そう答えるとシズクは突然真面目になって話し出した。


 「まずですね、この世界は異性愛から同性愛までしっかりとあります。もちろん異種族での恋愛もあります。もちろん結婚という心のつながりでそれは保証されます。そして、種族や宗教によってその形式は異なります... 例えば、神の場合... 男神と女神のペア、または同性のペアで認められます。ただ、神には締約神という制度があります。性別関係なく生涯を共にする神のことです。締約神は五体まで。そして、締約神と真に信じあえる心を育むと、認められ結婚という形になりますし、もちろん締約神たちと子も作れます。もちろん、すぐさま結婚の形をとる神もいるそうです...」


 『なるほど...数人の候補、いわば側近を作り、側近と恋愛するわけか...おもしろい...』

 

 「もちろん、世の中には同性だけ、異性だけ、同種族だけ、など恋はひとそれぞれです」

 ちなみに、紅は...

 「いいよ、今日から締約神ねっ」

 そう言うと、まばゆい淡い青の光が二人をつなぐ。わずかに温かい。

 「天日 雫。生涯貴方様に仕えます!」

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