第2話 day 2
「火球!」
能力の発動はあっさりだった。平仮名的な言語は反応しないようだ。
ただ大げさに「火球!」といった割には、掌の上に火の玉が浮いているだけである。
「火をつけるには十分だよね」
並べた木に火の玉を当てて着火する。温かいぬくもりが辺りを照らした。
二日目。
目を開けると、屋根代わりの木の根が目に映る。
「...これ、現実なのかな?」
一日を過ごしたとはいえ、今になって現実を疑い始める。
「能力ヲ獲得...【水】」
今日もまた、能力を獲得する。
「...考えても仕方がないか」
と、割り切って外に出る。昨日と変わらず大自然が広がる。今日も生きるための物資を集めて回る。木の枝、木の実、その他もろもろの物資を拾う。昨日と違ってだいたいの土地勘をつかんでいるのでかなり楽に歩き回れる。
結果、昨日の半分ほどの時間で昨日と同じくらいの量集めきった。することもなく近くで見つけた小川まで行く。
「ちょっと試したいんだよね~」
そう言って、小川で能力を使う。
「水球!」
詠唱と共に掌の上に水玉が漂う。
「まぁ変化はないか...」
その水を小川に入れてみる。それと同時にぐんぐん力が抜けていき、慌てて手を引き抜くと...
「え?」
川の水が糸を引くように自分の水玉に付いている。そのままどうするか迷った結果...
『やっぱこういうのは試してみないと』
「水球!」
その詠唱に伴って糸のように伸びていた水が掌の上に収束する。とても大きな水球が宙に漂っている。
『あ、これってもしかして...詠唱の仕方を変えたら...』
「
一見、何も変わっていないようにも見える。が、確実な進歩をしていた。
『これなら...』
そこから無限に広がる想像力を働かせていく。
「細長い水の塊に...」
水が細く伸びる。
「たくさんの水滴に...」
無数の水滴が漂う...
『水の刃に...』
刃物の形へと変わり...
『レンズのように...』
虫眼鏡のレンズのような形状に...
と、最初は声を発していたが、途中から声なしで考えるだけで水の形状を操るようになった。
「すごい!なんとなく理解できてきた!」
感動と喜びに包まれる。
「急がないと暗くなっちゃうね」
その場を後にして、焚き火ようの枝や食べ物を探しに行く。数秒。数分...と、少しづつ時間がたつ。
「ホントに全く生き物がいない...」
今日は、昨日歩き回った分、道に慣れてきたのもあって行動範囲が少しだけ広がっていた。
「昨日より...100mくらいかな?感覚だけど。でも生き物っていう生き物もいないし...」
ガサガサ...
「へっ?」
急な物音に驚いてじっとする。近くにあった草木から顔を出してみると...
「いのしし?」
のような動物が何かを食べている。
「茶色の体、若干短い脚、豚のような鼻...イノシシっぽいけど...その割には、牙スゴイデカい...」
語彙力を失いつつも...思う...考えてしまう...
『お腹へったな』
『食べれないかな』
『イノシシっぽいしイケそうだけど』
『食料困難嫌だから、控えめに食べててお腹減ってるんだよな...』
『やってみるか』
よくわからない生物が背を向けているタイミングを狙って...
『水操...銃みたいな形にしたい...』
しかし、銃の構造なんて欠片も知っていない。
『分かった!』
水は筒形になる。そして...
『発射!』
水の小さな玉は、イノシシのような生物の体へと発射される。そのまま、体の内部へと入っていく。まるで、本当に銃を撃っているようだった。
イノシシは声を発することもなく、バタッ、と倒れた。そこに、静かに近づく。
「いや、若干イノシシっぽいから、この世界のイノシシってことでいいでしょ。っていうか...お肉だ!」
この世界に来てまだ二日目だというのに、まるで久しぶりに肉を食す気分である。
「でも...思ったよりも大きいし、重いのに、どうやって運ぼう...」
少し距離もある。運ぶには時間がかかるだろう。ここで必要なのは知恵である。1人で運ぶには明らかに時間がかかる。古き昔の人々だって狩りをして1人で運ぶのに時間のかかるものを運ぶことだってあっただろう。その際にどう運んだか、どう知恵を使ったか。何年も経ったいまの現代人はその知恵があるだろうか。
「こう運べば辛くないよね~」
イノシシは浮いたまま運ばれていた。手足を水の輪で縛られ、そのまま宙を移動している。
数分前...
『能力で操る水は浮いている。でも私の筋肉や体はあまり疲労を感じていない。おそらく操るためのエネルギー的なものさえあれば問題ないんだと思う。だからこそ...』
「
『少量の能力で持ち上げればいい』
そういうことで、
「帰り着いたぁ」
辺りも暗くなってきて丁度良い。
「よしっ、やるぞ」
張り切ってイノシシに向き合う。
水で刃物も何もかも作れる今、かなり自信が持てた。そこまでちゃんとした料理はできないけど(もともと料理得意じゃないし...)危険な部位とかはしっかり切り捨てられる。
「これでいいや~」
直接、運んではないが、歩いているのは確かで、疲労から大雑把になっているが気にしない。
「燃えろ~
「能力ヲ獲得...【炎】」
「え?日付変わってないのに...上限的なものを越えても新しい能力が手に入るってことかな?【炎】って【火】の上位互換みたいだし...まぁいっか、今はお肉だっ」
イノシシの丸焼き。調味料もない知識もない。そんな今できるのはそれだけ。
「いただきますっ」
ただ、今は欲を満たすことに必死の紅だった。
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