佳鈴ルート④:先生はヤンデレ

「そりゃまあ、死ぬほどダサいかどうかで言えばダサダサっしょ」


 よくたむろっている空き教室。机の上であぐらをかくさーりゃんの言葉が佳鈴の胸にグサッと刺さった。


「勉強押して貰っている相手に『好き』って伝える時に赤点塗れな補習漬け女は……ダサいっす。どの面下げて告ってんコイツ感半端ないっすわ」


 同じく空き教室の椅子を木馬のようにギコギコ揺らすあやちーの言葉も同様である。むしろ、より深く突き刺さったといってもい。


 佳鈴の頭には「チーン♪」という悲しい時のSEが鳴り響いた。身体は既にうつ伏せで突っ伏しており、哀愁が漂っている。


「だ……だよねぇ……だ、ダサいよね、ダサダサ……」

「ちょいちょい、落ち込んでる暇なんて佳鈴にはないっしょ。つうか、今のはめでたい話でしょうが」

「どこがめでたいのよぉ……」


 かろうじて涙目の顔だけあげた佳鈴に対して、友人達の顔は明るい。


「めでたいも、大めでたいっす。だって佳鈴が遂に愛しのクーちんに気持ちを伝えるって話じゃないっすか!」

「これは友達として応援するしかないっしょ!」


「ふ、二人共~、ありがとね~~~~」


 まだ上手くいくとは決まったわけではないものの、話に聞く限りでは空也の態度もまんざらでもない様子。だからずっ友二人衆は祝福も励ましもした。

 ただ――。


「じゃ、じゃあさ! どうにか期末テストで良い点とる方法を教えてーー!」

「あ、ごめん。それは無理」

「さーりゃんが無理ならもっとレベルの低いアタシには到底叶わぬ願いっす」

 

 ずっ友は秒速ノータイムでスッパリ断った。


「薄情者ーーーーー!!」


 佳鈴は叫ばずにはいられない。。

 もちろん本気でそう想っているわけでは無いのだが、それぐらい叫ばないと今は心のバランスが保てないのである。


「まあまあ、良い点とる方法は難しいけど」

「そもそも佳鈴が普段から勉強してればこんな事態にはなってないっすし」


「うぅ……」

「「それはそれとして、妙案はあるっしょ(っす)」」


「ど、どんな!?」


 地獄に垂れてきた一本の細い蜘蛛の糸を掴もうとせん勢いで、佳鈴は二人に喰いついた。そうなれば話は早い。下世話なニヤニヤ顔で二人は妙案とやらを大事な大事な女神ギャル――もといこの場では良いオモチャ――に囁く。


「期末テストまで、みーーーーーーーっちりクーちんの授業を受ける。これしかないっしょ」

「そうっすよ、このチャンスを逃す手はないっす。今はガンガン攻める時っす」


「……その心は?」


「いやらしい子だよ佳鈴わぁ。第一に男と女、二人っきりの勉強会で何も起きないはずもないっしょ? 好感度とトキメキ度なんてガンガン上がりまくり。クーちんだって自分のことを好き(※ほぼそのとおり)かもな相手に頼られるならイヤとは言わないし、嬉しいものっしょ」

「とにかく勉強会は続行するっすよ。それだけで気持ちも上がるし、うまくいけば成績(テストの点)も良くなる。もし頭の中身は変わらんでも、頑張った姿を直接見たク―ちんは佳鈴のひたむきさに惚れるって寸法っす」


「そ、そうかな? そうかも……?」

「「絶対そうだから(っす)!」」


「ささっ、そんなわけだからさっさと約束をとりつけてくるっしょ」

「場所は空いてればどこでもいいけど、可能な限りどっちかの部屋にしとくっすよ!」

「あんがと二人共! あたし、早速クーちんとこにダッシュするわ!」


 ドタバタと溜まり場を去っていく佳鈴。

 さーりゃんとあやちーは頑張ろうとする親友に手を振った。


 その時の顔は――友情と愉悦が1対9くらいの割合である。


「人のコイバナがこんなにもワクワクする事も早々ないっしょ♪」

「佳鈴には是非行くとこまで行ってもらいたいもんっすね♪」


 悪そうに微笑む二人だが、彼女らもまたアホさにかけては負けていない。

 ゆえに。

 もし佳鈴が空也と上手くくっついた場合、ずっ友三人衆の中で佳鈴だけが彼氏持ちに格上げ。結果、自分達が格下のように感じてしまう未来には、いまだ気づいていなかった。


 ◇◇◇


「あたし、今回は本当の本当に頑張るから! クーちん先生、遠慮なくご指導お願いしまっす!!」

「く、クーちん先生? まあいいですけど……佳鈴さん、すごいやる気ですね」

「やる気もやる気、頑張りMAXでいくよ!!」

「……わかりました。僕もその頑張りに全力で応えるつもりで付き合います――――と、言いたいところなんですけど」


「ん?」


 放課後の教室で勉強していた佳鈴の前に、暗雲が立ち込める予感がした。


「その、ちょっとお世話になった親戚で亡くなった方が出て……僕も家族と一緒にご挨拶とお別れに行く事になったんです。その、期末テストには戻ってくるんですけど」

「ええ!? そ、それクーちんが大変じゃん!!」


「いやまあ僕はいつも通りやるだけなので気にすることないんですが、佳鈴さんの勉強に付き合う約束が果たせないのが心苦しくて……」

「き、気持ちは嬉しいけど……そういう事情じゃ仕方ないじゃん? まあほら、きっとなんとかなるってイケるイケる♪」


 表面上は明るい佳鈴だったが、内心では冷や汗ダラダラものだった。

 計画が狂うどころの騒ぎではない。根本的にどうしようもない感すら這い出てくる始末である。


「でも安心してください! 代わりにといってはなんですが僕より先生にふさわしい協力者にお願いすることができたので!」

「……協力者? って、誰?」


「――私よ、女神様」


 背後から肩をポンと叩かれて、佳鈴が飛びあがる勢いで吃驚した。

 まったく気配がなかったにも関わらず、振り向けばそこにはヤツがいたのだ。


 空也を挟んでいつもバトっているライバル・重愛のヤンデレこと美夜子が!


「え、ええええええ!? あんたが勉強を教えてくれるの?!」

「ひどいリアクションね。そんなに嫌なのかしら?」


「だ、だって、正直あんたは他人の勉強をみるなんて発想の無い孤独な勉学少女タイプじゃん。一体何のメリットがあって……はっ、何かクーちんにおねだりでもする気なんじゃないでしょうね」

「クゥちゃん、この子は何意味不明なことを言ってるのかしら」

「あははは、きっと美夜子ちゃんに教わる照れ隠しですよ」


 まさか本気でそう思ったとは言えないため、佳鈴は一度は口をつぐんだ。


「……マジ話で?」

「大マジよ。それとも何かご不満?」

「佳鈴さん。美夜子ちゃんは僕よりずっと成績が上の学年上位陣です。だからきっと僕とやるより勉強が捗ると思いますよ」

「そ、そう……かなぁ?」


 空也が好きな佳鈴にとっては彼と共に勉強することで大きなモチベーションUPに繋がっていた。その点でいくと美夜子はUPどころかDOWNしかねない相手だ。美夜子が首を傾げるのも無理はなかった。


「……まあ、私はあなたが赤点まみれでも全然いいのよ。でも、それじゃ困るのでしょう? だったら四の五の言わず残り少ない時間で少しでも点数を上げる努力をするべきではなくて? 私を利用するぐらいの気概を持って、ね」

「ぐっ、そ、それは確かにそうかも。……わ、わかった、せっかくクーちんが連れてきた協力者だもの。色々思うところはあるけどよろしくお願いしますッ!」


「よろしい。じゃあ、クゥちゃん」

「うん。もし何かあったら連絡してね」


 さよならを告げて、空也が下校していく。

 教室に残されたのは、二人っきりにしたら大概ロクなことが起きないペアナンバーワンの佳鈴と美夜子だけとなった。


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