佳鈴ルート③:どのくらい好き?
◇◇◇
「ど、どのくらいって……」
勉強とは全然関係ない質問に、ドドドドドッと佳鈴の心臓がうるさくなる。
もしやドッキリ! と、部屋を一周見回してみたものの、仕掛け人などどこにもいるはずもない。
とくれば、コレは空也の素直さからくるストレートな問いと見るべきである。
ただ佳鈴としては先日「好き」と伝えたのは、冗談のような空気で誤魔化したと思っていたため今更蒸し返されるとは思ってもいなかったのでさあ大変。
(ど、どのくらい……? どのくらい……って、どう言えば―)
隠す事など到底不可能な動揺と驚愕と焦りと羞恥が、いっぺんに彼女に襲いかかってきた。気持ち的には真剣に告白したのに「え、なんて?」と聞きかえされて、もう一度言い直す時のような気分が近い。
ただ佳鈴はポジティブ気味な光属性ギャル。
ある意味、空也の方からお膳立てしてくれたといってもいいこの状況下でちゃんと答えられれば、想定外とはいえ望む道へと歩きだせるかもしれない。
そう思い立つ。
だから――なんとか彼女は、問いかけに関する答えを、自分の気持ちを、必死に言語化しようとしていた。闇属性のライバルに、この抜け駆けをほんの少しだけ謝りながら――。
「ら、ライクとラブだったら、ラブ寄りみたい……な?」
「友達より恋人的なものって事ですか?」
「うっ……ま、まあ、そかもね」
もっとハッキリ言えーーーーー自分!
歯切れの悪い自分自身に対して、佳鈴は心の中で頭を抱えながらツッコんだ。
その曖昧な答えをどう受け取ったのか。空也は照れを隠すように顔を俯かせてしまう。
「あ、あのですね。あの雨の日に『好きだ』と言われて、僕はとても驚いたんです。今、再確認したけれど、あの好きは本気だったから。軽いノリで言ったんじゃなくて、本当にそう想ってるってわかったので」
「……う、うぃ」
「でも、その後その件に関しては何もなかったので……その、どうなったのかなと。こういうのって恋人として付き合う、付き合わないに発展すると思うんですが、違います?」
「ち……違わないんじゃないかなーと」
「そ、そうですよね。ごめんなさい、恥ずかしいこと訊いてる自覚はあるんですけど、気持ちをどうまとめればいいかまだわかってなくて」
(あたしも同じようなもんだよ! いきなり好きだのなんだのに言及されて何て言えばいいんだっつうーの!!)
今日は曲がりなりにも勉強会の日だ。
試験に向けて少しでも赤点回避対策をしなければならない。
しかし、こんな話をしてすぐ苦手な勉強に頭を切り替えられるほど、佳鈴は器用ではない。結果、ただただテンパって挙動不審気味だった。これから恋人と一段階前に進む直前に彼氏の一挙手一投足を気に掛ける彼女のように。
「あ、う、くぅぅ~~~~」
「か、佳鈴さん? 大丈夫ですか、なんか変な呻き声が出てますけど」
大丈夫じゃない!
反射的にそう叫びだしそうになる自分を佳鈴はかろうじて抑えこむことに成功した。
「だ、だいじょびだいじょび。あ、あのさクーちん」
「は、はい」
「とりあえずその話は後にしてさ! 今は勉強を教えてもらえると、めっちゃ助かるなーみたいな! ほらココ! この英文ってなんて訳せばいいん?!」
「え、えと…………『私はあのプラチナブロンドの人が好きですよ。あなたはどうですか』ですかね」
誰だよこんな変な英文作成者は!?
そう思った佳鈴だったが、やっぱり口にはしなかった。
それから二人の勉強会は粛々と進んでいった。だが、もし第三者がその場に居合わせたのならもじもじとせずにはいられなかったに違いない。
それだけ、佳鈴の部屋は悶えるような甘酸っぱい空気でいっぱいになっていた。焦れったすぎて強引に背中を押したくなるような、いいからはよ付き合え告白しろなんなら押し倒してしまえ!? と照れ照れの暴言を吐きたくなるような空間がそこにあ存在した。
ソレがいつまで続くかわからないが、終わりの時間は勉強会が終わる時に訪れるには違いない。その気になれば、あの雨の日のようになぁなぁにして曖昧に終わらせることもできなくはないが、佳鈴的にはそれは『良し』とは言えなかった。
されど、この場で気持ちをぶちまけることもできない。
その覚悟はまだ決まっていない。
だから佳鈴は勉強会の終わりに、こう進言した。
「あの……今日の話なんだけど――――き、期末テストが終わったらちゃんと話すから! だから、それまでは変わらずに勉強を教えてちょ!」
空也はその進言を拒否せず、頬を赤く染めながらも「佳鈴さんが望むなら」と承諾して佳鈴家から帰って行った。
そのあと、佳鈴は重大な事実に気付く。
「……あ、あれ? ちゃんと話すのはいいけど、赤点まみれで改めて気持ちを伝えるとか死ぬほどダサいんじゃね!? だ、だよね、どう考えてもダサいしカッコ悪いんじゃ!!?」
想像の中の空也が「僕、おバカな人と付き合うのはちょっと……」と、どうしようもなく憐れなものを見るような視線を向けてくる姿に、佳鈴は悶絶しながら気合を入れて机に向かったのだった。
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