第29話:あたしのヒーロー①
「うぐぅ……」
あたしが呻き声をあげたのは、今日だけで何回目かなー。
教室の窓から見える空は夕焼け色。こんな時間にココで居残りしてるのはあたしだけ。あやちーとさーりゃんも一緒にいたけど、さすがに先に帰った。
『は、薄情者~!』
『『自業自得(っす)!』』
お互い本気で言い合った訳じゃないけど、アレはぐさっときたわ~。
ふん、なにさ。ちょっと宿題忘れて授業中に寝てた上に小テストが0点だっただけじゃない。
「……いや、全面的にあたしが悪いわ」
そりゃあ先生も怒るよねぇ。
でも少しは情状酌量の余地はあるはずなのよ。あたしのような年頃の娘は、やることがいっぱいあって、将来何の役に立つかもわからない勉強だけに打ちこむ分けにもいかない。友達関係を良好に保つ方が大事な時があるし、優先順位ってものが存在するわけで。
たとえば、好きな男の子ともっと距離を縮められるように研究するとか。
「はぁ~、そこの廊下をクーちんが偶然通りがかったりしないかな~」
「僕がどうかしました?」
「ふぇあ!?」
学校机で頬杖をついていたらいきなり声をかけられて、あたしはズッコケそうになった。なんとか堪えつつ声がした方へ顔を向けると、ちょっとびっくりしているクーちんが立っている。
「す、すいません! そんななるとは思ってなくて」
「え、いや! だいじょぶだいじょぶ! ちょっと驚いただけだから」
は~~、超びっくりした!!
「ってかクーちんまだ学校に残ってたんだ。なんか用事でもあったん?」
まさかあたしを心配して会いにきてくれたとか――。
「クラスの男子で集まって、近くの運動場で遊んでたんです。そしたら偶然同じ場所に来ていたあやちーさんとさーりゃんさんが声をかけてきて、『佳鈴が助けてクーちーんって呼んでたよ』と」
二人共GJ! あたしらやっぱずっ友だわ☆
気を遣ってくれたのか、それとも悪戯心か。どちらにせよあやちーとさーりゃんの計らいによってクーちんはこうして来てくれたんだとあたしは悟った。
「それで、何の助けを求めたんですか?」
「んー、それがさーちょーーーーっと先生に怒られちゃって、帰る前にこのプリントを解いていけって山のように盛られちゃって♪」
さすがにリアルで山のようにはないが、けっこうな枚数のプリントがあたしの前には積まれている。超めんどくさい。
だって先生ってばコレはチャンスとばかりに、別の教科のプリントも持ってきさー。『ついでに他の先生達からプレゼントだ。成績が惜しかったらなんとかしろ』って……新手の●●ハラスメントじゃないこれ。
「ああ、わからないところがあるんですね」
「そうそう♪ それでクーちんがいてくれたらなーって。でも別に二人に頼んだわけじゃなくてさ、そうなったらいいなーなもんだったんだけど」
クーちんをあたしの都合に巻きこむのも微妙だしね。
余計な女(美夜子)もついてくる可能性高かったし……。
「僕でよければ教えますよ」
「神キターーー!!」
まさかのマンツーマン。
誰もいない放課後の教室で二人っきりとかエモさ爆発!
何故か邪魔(美夜子)もいないようなので、これは本当にツイてるぅ♪
※後日知った話だけど、美夜子は普通に習い事でいなかったもよう
さっきまでのダルさはどこへやら。
クーちんブーストによってエンジンがかかったあたしは、やる気ゲージMAXで強大な敵(プリント)に挑み始める。
「く、クーちん。ここ、わかんない……」
「コレは教科書の三十ページに――」
「こ、ここは……?」
「それはこっちの公式を――」
うん、勢いはあるのよ勢いは。
でもソレであたしの頭の中身が良くなるわけじゃないからさ、安心安全のクーちんサポートにはお世話になりっぱなし。なんとか数枚のプリントに答えを記入し終わった頃には、完全下校時間ギリギリだった。
終わった分を提出しに行ったら、残りは宿題に……多少の期限を設けてもらったのは不幸中の幸いっしょ。
「失礼しましたー♪」
勉強のストレスから解放されたあたしは超笑顔で退室。引き扉を閉めきる直前に先生達のびみょ~そうな表情が目に入ったけど知ったこっちゃない。
だってこれからあたしは、
「もう暗いから送りますよ」
「うい♪ ありがとー♡」
夜の下校デートと洒落込むのだ。
いや、わかってるよ? デートっていうのは過言でしょってさ。
でもそれぐらいの気持ちで臨みたいわけよ、偶然チャンスを得た身としては!
「くふふふふ♪」
「嬉しそうですね佳鈴さん。そんなにプリントが大変だったんですか……」
「まーねー」
嬉しいのはクーちんと一緒にいるからDAYO。
なんて恥ずいから直接は言わないけど。
とりま昇降口に向かうあたし達。
その道中、クーちんは歩きながら腕を組んで何やら考えているご様子だった。
「んー……」
「どうかした?」
「いや、何かこう……思い出しそうに……」
「ふーん、なんだろね。忘れ物とか?」
「そうではなく、何か既視感みたいな…………あっ、そうか」
「???」
「前にも似たようなことありましたよね! とても時間に佳鈴さんと一緒に帰った日が!」
喉のつかえが解消されたと言わんばかりにスッキリした顔で微笑みながら、クーちんがそんな事を言い始める。その発言がトリガーとなって、あたしも該当する記憶が蘇ってきた。
「あ、ああー…………もしかして、昔のヤツ?」
「ですです。中学生の頃にあったヤツです」
懐かしそうに明るく思い出しているクーちん。
けれど、あたしの心はちょっとどんより曇り空だった。
だって……あの頃のあたしは、今とは全然違う。
もはや別人といってもいいような存在だったんだから――。
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