第28話:好きな人と大嫌いになれない人
「なるほど! つまり美夜子ちゃんは読んでいた本への没入感を高めるために、なりきっていたんだね」
「そ……そんな感じ、かな」
咄嗟に私が口にした理由を、クゥちゃんは茶化すことなく受け止めてくれたようだ。……ご、ごめん、ほんとにごめんね? でも、『家の人から護身用にナ●●とかス●ン●ンを持たされてる』なんて言えないじゃない。ウチの良くない噂がクゥちゃんに付き纏ってもアレだし……。
「でも美夜子ちゃんは演技が上手なんだね。さっきの人達を追い払った時は――ヤンデレ? のキャラのつもりで動いたんでしょ? 上手く言えないけど真に迫ってたというか……迫真の演技だったよ!」
「あ、ありがと……」
ああ!! まさか半分以上素でしたなんてもう言えないわ!
真実はお墓の中まで持っていくことにするしか……クゥちゃんに嘘はなるべくつきたくないから、上手く誤魔化さないと。
「あ、あのねクゥちゃん」
「ん?」
「その、さっき私が口にしたことなんだけど……全部が全部出まかせってわけじゃないの。お話がしたいとか、その辺りは特に……」
付け足すなら嫉妬深いところもだけど、あえて言わない。
そもそもが闇属性の私には、クゥちゃんを前にして自分の邪悪さを見せる勇気はない。彼の前では……、
少しでも良い自分でいたい。
――あれ? 私は今、何を考えたのだろう。
自分で自分がわからなくなりそう……なんで私はこんな事を……。
「美夜子ちゃんは僕と話したい事があるの?」
「え、あ……そ、そうデス」
あどけないクゥちゃんの質問に意識を引き戻された際、私は変な返事をしてしまい恥ずかしくなってしまった。コレは……良い自分とは程遠い。
「じゃあ放課後に、一緒に帰りながら話そうか。美夜子ちゃんの帰り道は確か僕と同じ方向だったよね?」
「う、うん……」
正確には家ではなく習い事へ向かう際の方向がだけれど、特に訂正はしなかった。それよりもクゥちゃんと――男子と一緒に帰る約束をしたという事実が私にとっては大きなイベントすぎる。
可能なら事前に心構えをしておきたいぐらいだ。必要時間は24時間くらい? うん、今からじゃ絶対間に合わないわ。
小学生の頃、時折一緒に帰る機会はあったけど……大抵二人っきりじゃなかったし……集団下校とか、そういうのだったり。中学生になってからはそんな機会は皆無といっていいわけで。
要は、私はこの一連の流れの中で「どうしてこうなったの!?」と、一人勝手に動揺しまくっていたのだ。
――――もうその時点で、私は私に対して臆する事も気兼ねもなく接してくれるクゥちゃんにほのかな気持ちを抱いていたのかもしれない。
とりあえず。
この頃から、私はクゥちゃんにちょっかいをかける連中をそれとなく牽制。あるいは妨害だったり脅かしだったりをする回数が増えた。
当然ながら人の口に戸は立てられないので、それらは噂となってあちこちに広がっていく。伝言ゲームのように真偽交えて、あることないことが付け足されながらどこまでも、である。
いわく、あの子は空也をお忍びで守る元暗殺者のボディガードだ。
いやいや、一方的に時銘に重い愛をぶつけ続ける困ったチャンだよ。
それってヤンデレってやつ? そうそう、ヤンデレヤンデレ。
そんな話が勝手に広まり、いつしかボッチな私はこう呼ばれるようになる。
《重愛のヤンデレ》
愛が重すぎる上にヤンデルという意味合いを秘めた、変なあだ名。
さすがに正面切ってその名を口にする人は少数だったけれどね。一睨みしたらみんな黙ってしまうし、それ以上踏み込んでこようものなら護身用アイテムの出番だし。
でも、そんなあだ名が生まれてもなお、
『美夜子ちゃん。今日はどんな本を読んでるの?』
『次は移動教室だよ。準備しないと』
『時間もあるし将棋でもどう? 美夜子ちゃんと対局してみたいって人もいるよ』
クゥちゃんは私への態度を変えなかった。
周りの評判や噂のようにしか見えなくなっても、過剰な演技(フリ)が引っ張られ始めても、ただ純粋に、ありのままに私に接してくれた。
なんだったらクラスの輪から外れていた私を、輪の中に入れようとすらした。
一人でいた私。それが当たり前で、楽に感じていたけれど。
気づけば、誰かと一緒にいるのも面倒ではなくなってたわ。仲良しこよしでいようとは思わないけど、そういうのも悪くないと思えてきたの。
向こうから勝手に近づいてきて私に触れてきた彼は、最初は構って構ってと寄ってくる愛玩チワワみたいだと考えてた時もあったのに。
それは大きな勘違いだった。
彼は人付き合いが下手くそすぎる私の手を自然に引いてくれる、童話に登場するお姫様を救う王子様みたいな人だったのだ。その光は強くて眩しくて、私の闇をあっさり振り払ってしまう。
闇属性の邪悪な魔女は、光属性の善良な王子様によって知らず知らずの内に救われていた。きっとひとりぼっちでいたら、私は良くない方へ良くない方へと進んでいたのではないかしら。メルヘンチックすぎて私自身も驚いてるけど、そんな予感がしてならない。
これだけで理由としては十分すぎる。人生には時折驚くほどに大きな出来事が起きたりするものだけど、私の場合はヤンデレモードで女たちを追っ払ったのがそうだった――――ううん、違うかも。
クゥちゃんに声をかけてもらった事こそが、未来が変わるビッグイベントだったのかもしれない。
だから、素直じゃない私が直接口にするのはまだまだ無理そうだけれど、クゥちゃんを『好き』になってしまうのも無理ないでしょ?
当面のライバルは、あの太陽みたいなギャルだけど……アレは手ごわい。明らかに私よりもクゥちゃん寄りの女の子だし、相性が良さそうだし、……いい子だもの。
でも、簡単には負けないわ。
闇属性だろうがヤンデレだろうが愛が重かろうが、譲れないものがあるから。
◇◇◇
「ちょいちょい、人を無視して本を読み進めないでくれます~?」
「…………」
「あ、クーちんだ♪」
「えっ、どこに――」
「うっ、そー♡ あいだぁ!?」
むかつく顔をした光笠さんに向かって投げた本は、的確に彼女の頭に命中した。
やっぱり前言撤回。この子は全然いい子なんかじゃない。
「今の声は? あれ、どうしたの佳鈴さん。そんなところで頭を押さえて」
「聞いてクゥちゃん! あいつが私の神聖な読書を邪魔してくるの! それはもうカツアゲをせんばかりの勢いで――」
いじめられて可哀相なヒロインのようにクゥちゃんに助けを求めると、後ろから光笠さんのうるさい声が響いてきた。見なくてもわかる。さぞ怒っていることだろう。
意地悪くちょっとだけ気分を良くしながら、私は光笠さんにだけ見えるように「ふっ」とほくそ笑む。
ごめんなさいね? でもあなたが先に悪さをしたんだから。
これぐらい許してくれるわよね?♪
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