第27話:美夜子ちゃん、プリチーにやらかす
中学生になると、同年代の恋愛話が盛り上がるようになった。
好きな女子をからかっていた男子はより強く異性を意識するようになり、優しく接するようになったり、自分の物にしたいと考えるようになる。女子は女子でそんな男子を嫌悪したり可愛く感じたりカッコよく見えたり……最終的にはどっちもどっちなのかしら。
その一方で、男子と女子の間に壁が生まれやすくもなるわ。
男子は男子だけで、女子は女子だけでグループを作る頻度も増えて、まるで住む世界が違う人みたい。
一部の授業で物理的に隔離されるようになった影響もあるかもしれない。
しかし――どれも私には関係なかった。
何故ならそもそも周りに人がいない。中学になっても相変わらず孤立しがちな闇属性は継続中で嫌いな相手でもなければ邪険にはしないけれど、用が無いなら話すのも面倒なのも変わらない。
でも、クゥちゃんは私とは全然違う。
「時銘くん、これ家庭科の授業で作ったクッキーなんだけど貰ってくれる?」
「わっ、美味しそうだね。ありがとう」
「きゃーー、受け取ってもらっちゃった! ま、また今度持ってくるねッ」
男子女子問わず仲良くできる彼の周りには、気付けばいつも誰かがいた。クッキーを渡したのはその中でもクゥちゃんに淡い恋心を持ってそうな女子の一人で、二人の友達を引き連れてクッキーを渡したあとはキャーキャー盛り上がっている。
端的にいえばアレだ。
クゥちゃんはその中性的で日本人離れした容姿もあって、よくモテた。
モテモテだった。
……ふん、別に気になってなんかいないわ。
だってクゥちゃんはあの子が好きだからクッキーを受け取ったわけじゃないもの。誰にでもあんな感じだし、いつものことすぎて特別感は全然ないし。
でも……そんなの関係なくプレゼントを受け取って貰ったら嬉しいわよね……。
……私には無理だけど。
ちゃんと渡せている自分がまったくイメージできないから。
とはいえ、よ。
お菓子を渡して喜んでもらう程度ならともかく、それ以上のものを求めてちょっかいをかけてくる輩も中にはいるわけで。
たとえばソレは、特にクゥちゃんと仲が良いわけではないのに、可愛い可愛いクゥちゃんを自分の物にしようと強引に迫ってくる自称スクールカーストトップの人だったりした。
「ねぇ、時銘空也くんさ~、あんた可愛い顔してるよね~。すごいあたし好みだわ。だからさ、ちょっとあたしと付き合ってみない?」
その、取り巻きを連れたガラの悪い女は校舎裏にクゥちゃんを連れ込み、強引に交際を迫っていた。私がその現場に居合わせたのは半ば偶然で、決してクゥちゃんの後をつけていた訳じゃない。
……ほんとうよ?
だってその時の私は、人目に付きにくい涼しい木陰で読書をしていただけ。先に居たのは私で、後から来たのがクゥちゃん達だったんだもの。
女の声は告白というには随分とうるさくて高圧的で、私の読書を邪魔するには十分すぎた。そこに変わらず私と接してくれるクゥちゃんが絡んでいるとなれば、見過ごせるはずもない。
……クゥちゃん、どう見ても困っていたしね。
人がいい分、性質が悪いのには上手に対応ができないのよ。それも彼の魅力ではあるんだけど……心配でしょ。心配になるわよね?
だからあの時の私は――。
「えっと、ごめんなさい。僕はキミと付き合うことはできないんです」
「……なんで? 理由でもあんの?」
「それは――」
「……クゥちゃん、そこで何してるの? その人達は…………誰?」
わざとらしいぐらいに低く冷たい声を発しながら、その場に割って入った。
クゥちゃんの味方としてね。
「ねえ、あなたたち。私の大事なクゥちゃんに何か御用なの? もしかしてデートのお誘い? だったらすぐに消えてくださらないかしら。私、とっても自分でも抑えきれないぐらいひどく嫉妬深いのよ」
「はあ? いきなりなんなのあん…た……ッッ」
「あらやだ。よく聞こえてなかったみたいだからもう一度、今度はゆーっくり言うわね」
私がポケットから取り出した物に気づいた彼女達は、もうそれだけで逃げ腰になっていた。そうよね、まともに頭を働かせられる人なら『光り物』を見たらそうなるのが当然だわ。
「え、あ、あんたそれ……」
「私が持ってるのは内緒よ? ああ、安心してちょうだい。コレはあなた達に使うんじゃなくて、人の気も知らないでほいほい校舎裏なんかに付いていくクゥちゃんとじっくりお話するために必要なの。……わかるでしょ?」
「ひっ」
小さな悲鳴をあげたリーダー各を筆頭に、女子生徒達は引きつった顔でその場から逃げだしていった。よかった、話がわかる人で。
ただ問題は……。
「えーっと、美夜子ちゃん?」
「な、何?」
思いきりクゥちゃんに見られちゃったんだけど、ど、どどどうするべきかしら。
勢い任せでやらかしてしまった自分に「ばかばか、もっと他に手があったでしょ!」と文句をつけながら、私は何か良い手はないかと必死に頭を高速回転させるのでしたとさ。
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