第18話:騙したな!? それも二度も!!

「ここっす! この教室に佳鈴が!!」

「佳鈴さん、大丈夫ですか!!」


 あやちーの案内で倉庫代わりの空き教室に辿りついた空也は、ガラガラと勢いよくその入口を開けた。それもこれも『大変なことになっている』と聞いて一刻を争う事態なのかもしれないと判断していたからだ。


「はい?」


 開けた瞬間、空き教室の中にいた佳鈴がすっとんきょうな声をあげた。

 彼女は体操服から制服に着替えている真っ最中であり、空也が飛び込んだタイミングではほぼ下着姿と大差ない。


 空也の視界には、使わない椅子や机にダンボールの山等と一緒にバランスの良い身体の凹凸や胸とお尻を包む純白のランジェリーがしっかり入ってしまっていた。彼の後ろではあやちーが「ほら、大変なことになったっす」と悪戯小僧のような笑みを浮かべている。


「す、すいませ――!?」

「おーっと、後ろがつっかえてるんでさっさと中に入りやがれ、っす!」


 反射的に後ろへ下がろうとした空也の背中が、あやちーによってドーーンと押される。その勢いは空也のバランスを崩すのに十分なものであり、彼は前方へつんのめった状態で入室した。

 すかさずあやちーが入口のドアを閉めて外界と教室をシャットアウトする。


「一名様ごしょうたーい♪ ようこそ淑女の溜まり場へ~っす。……って、クーちんはいつまで床で丸くなってんっすか? ほらほら、早く顔を上げてくれっす」

「顔なんて上げたら見えちゃうでしょ!?」


「おうおうイイ子ちゃんぶりおってコヤツめーっすよ。せっかく佳鈴のナイスバディが拝めるレアイベントなんですから、じっくり味わえばいいのに~」

「佳鈴さん、聞いてください。僕は決して着替えを覗きにきたわけではなく、あやちーさんに連れてこられただけです。悪いのは全部この人です信じてください」


「はんっ! たとえそれが本当だとしても、クーちんが佳鈴の裸を見たアホという事実に変わりはないっすけどね」

「アホはあんたよ、このドアホ!」

「はぶんッ!?」


 高速で制服に着替えた佳鈴の振りおろしチョップがあやちーの脳天にお見舞いさ、ドゴッッというとても重くて痛そうな音が響く。


「まったく……無垢なクーちんに何仕掛けてんのよ。一応言っとくけど、クーちんが覗きに来るとか無いから。あったとすれば、それは仕向けたヤツがいるに決まってるっしょ」

「か、佳鈴さん。信じてくれたんですね……」


「そりゃーもちのろんでしょ! もう大丈夫だから目を開けてもOKよ」

「……ほっ」


 純粋な空也は佳鈴の言葉を鵜呑みにして、顔を覆っていた手をどけた。

 暗闇から一転。

 目の前に飛び込んできたのは、かがんでいる佳鈴の大胆にあけた胸元からのぞいている谷間だった。


「何が大丈夫なんですか!?」

「やだもー、クーちんはえっちだなぁ~。それに騙されやすすぎて心配だわ~♪ 可愛いなーもーーー」

「からかうのは止めてくださいってば!」


 この時、いきなり始まった二人のいちゃいちゃ空間を眺めながら、頭を押さえているあやちーは思った。


「あの、そんな風になるならアタシがぶっ叩かれる必要なかったのでわ?」


 と。



 ◇◇◇


「で、結局あやちーさんの嘘八百に僕は騙されたわけですか?」


 騒ぎが終わって空いてる椅子に座りながら、空也が床で正座させられているあやちーに尋ねる。彼女の正座は、やらかした事に対して佳鈴が命じた罰だ。


「いやいや、そんな大嘘つきみたいに言われるのは心外っすねー。佳鈴が苦しんでるのには間違いないしー」

「…………ピンピンしてますけど?」

「そんな見てわかるような部分じゃなくて、佳鈴が大変なのは足ですよあ・し!」

「足? 足がどうしたんです?」


 空也の視線が件の足に向くと、ちょうど佳鈴が上履きと靴下を脱いだ状態でふくらはぎを触っているところだった。


「それがっすねー、佳鈴ってばこないだのマラソン大会で頑張りすぎて、中々に足を痛めた状態になってるんっすよー」

「こ、こらあやちー! あんまり大きな声で言うなっての」


「いいじゃないっすか別に。ここにはアタシら三人しかいないっすよ」

「クーちんに堂々と言うなつってんの! 恥ずかしいから!」


「別に恥ずかしいとは思いませんよ? でも、そんなに痛むんです??」

「ま、まあ……それなりに? けど、これぐらいほっとけばそのうち治るっしょ」

「ダメっすよ佳鈴! 足の痛みを甘く見てはいけないっす!」


「お、おお? どしたんあやちー、そんな勢いよく……」

「乙女の足の痛みを放置してはならぬっす! ここはいっちょ、イイ感じに超回復を促すべきっす」


 まくしたてるあやちーの何かを企んでる瞳と、口元からのぞく八重歯がキラーンと怪しく光る。


「そこでアタシは考えたっす。女子にはない男子のパワーで解決を計るべきだと!」

「……もっと具体的に言うと?」


 佳鈴に質問されて、あやちーはニヤリとした。


「題して、ここなクーちんに隅々までマッサージをしてもらおう作戦~♪ っす」


 


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