第8話:ヤミ属性女子のコミュニケーションは重い?その②


「ご注文の品お待ちどおさま~」


 和風な甘味屋。和楽器アレンジされた一昔前の曲が流れる店内。

 愛想のいい女性店員が運んできた物が美夜子達のテーブルに運ばれてくる。

 

「あ、それは彼女の方です」


 店員がお盆から甘味を移そうとする際に空也が手で向かいの方を示すと、美夜子の前にお洒落なガラス容器に盛られた『新作・もりもりフルーツゼリー』が置かれる。食べる前から香ってきた果物の甘い匂いで美夜子の表情がぱぁぁぁと明るくなっていった。


 注文した葛餅を受け取った空也が、美夜子につられるように顔を綻ばせていく。


「じゃあ、いただきます」

「い、いただきますっ」


 美夜子は早速スプーンで赤いゼリー本体と乗っている苺を一緒にすくいつつ、長い黒髪を手で押さえながら新作スイーツを口の中へ運んだ。


「~~~~~ッッッ!!」


 果物の甘酸っぱさと和菓子では味わえないゼリーの食感、口の中に長く残る強い甘み。それらが合わさった美味しさに美夜子は言葉にならない感想を口にする。手が塞がっているので出来ないが、頭の中の自分は両手をぶんぶんと上下に振っていた。


「食べてみたかった新作はどう?」

「……とってもおいし――じゃなくて、悪くないわね。ウチだと和菓子ばかりだから新鮮なのもあるし」

「このお店、店構えは純和風だけどメニューは和洋どっちもあるんだよね。……でも、美夜子ちゃん。ソコはすまし顔で感想を言わなくてもいいんじゃないかなぁ。本当は飛び上がりたいぐらい美味しいんでしょ」

「そ、そんな事は、はむっ。~~~~~~ッッッ、ないってば」


 そう言ってる割には美夜子はパクパクと食べ進めており、空也からすればその言動がちぐはぐなのはバレバレだった。あからさまなソレを彼があえて指摘しないのは、味わっている美夜子の邪魔をしたくないのと、可愛くて仕方ないからでもある。


「あっ、葛餅も美味しいね。何か普通のと作り方が違ったりするのかな」

「……ほ、本格的に作ってるんだって。材料とか、色々とこだわって」

「へぇ~よく知ってるね。このお店にはよく来るの?」

「ええ、偶に――」


「あらいらっしゃい! 今日も来てくれたんだねヤミちゃん!!」


 美夜子の言葉を遮って、豪快なおばちゃんが現われた。

 その人が登場するとは思っていなかった美夜子が「なんでいるの!?」と叫びだしそうな表情で固まってしまう。


「えっと、こちらの方は?」

「……し、知らない人よ」


「おやおや、照れ隠しにしたってそんな悲しいことを言わないでおくれよ。あんたの事はこーんな小さい頃から知ってるだからねおばちゃんは! ところで、今日は黒いマント羽織った格好はしてないんだね? 闇に呑まれたヤミちゃんは卒業かい?」


 早口で美夜子の黒歴史をまくしたてられ、当の本人は顔を真っ赤にしながらおばちゃんを追っ払おうとする。


「そ、そんな恰好してないし! 闇に呑まれたなんてイタイ発言をした記憶もない! ち、違うからねクゥちゃん。もう、もう! ほんと人違いだから! ちょっと知らないおばちゃん、早く仕事に戻ってよ!!」

「ああ、ごめんねぇ。お詫びにぜんざいをサービスするよ。あと、ひとつだけいいかい?」


「……なんですか?」

「友達がいるかも怪しかったヤミちゃんがまさか彼氏を連れてく――」


 美夜子は無言でテーブル上のコップを掴んだ。


「おっといとい。お客様、テーブルに乗ってるものを投げつけようとするのはおやめくださいませ~。それではごゆっくりどうぞ~」


 ようやく完全に面白がっているおばちゃんは退散していったが、それで空也の目の前で起きたやり取りが消えるわけではない。対象にぶつけられなかった行き場のない怒りで小刻みに身体をぷるぷる震わせながら、なんとか美夜子は着席した。

 直後、両手で顔を覆い「……なんで、なんでいるのよぉ。今日はお休みのはずでしょぉ」とぶつぶつ呟いてしまう。まさか封印した記憶を空也の前で掘り起こされるとは思ってもみなかったゆえに。

 

「す、すごい人、だね?」

「……え、なんのこと? 今何かあったかしら??」


「美夜子ちゃん。さすがにアレを無かったことにするのは厳しいよ」

「ぐ、ぐぬぅ~~~~~」


 強引に流そうとして失敗した美夜子が悶絶する。その間も彼女の脳内では今の話をどうやって誤魔化すかを超高速思考しているがいい案は出ない。

 だから、仕方ないので、美夜子はものすごく強引に話題を切り替えることにした。


「さっきの人の事はいいから! 今日はクゥちゃんに訊きたい事があったの!!」

「う、うん。なにかな?」


 空也が尋ねると、美夜子は鞄の中から写真をとりだしてテーブルに置いた。


「…………コレ、ナニ?」


 さっきまでの騒がしさが嘘のように、《重愛なヤンデレ》さんの瞳から光が消え、声色が冷え込む。


 普通の写真に写っていたのは、協力対戦ロボットゲームを遊んでいる空也と佳鈴。

 それから、これまた空也と佳鈴が仲良さげに写っているプリ画だった。



 店内温度が、2~3℃下がった。

 

 

 


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