第9話:ヤミ属性女子のコミュニケーションは重い?その③

 美夜子が暗黒のオーラを纏い始める。

 傍から見ればどう考えても「選択を間違えたらガメオベラ」なバッドエンド直行待った無しな状況だ。


 にも関わらず、空也はまったく狼狽えた様子もなく「ああ、これは」とほんわか雰囲気そのままで写真を手にとりながら返事をする。周囲に学園の生徒がいたのなら「あいつ普通に返したぞ!?」「死ぬ気か?!」と悲鳴をあげそうな状況だが、空也にとっては特別な事ではないのだ。


「佳鈴さんとゲームセンターに行った時のだね。あれ、でもコッチの写真は……?」


 その言葉によって、見える人には見える美夜子の黒いオーラ膨れ上がった。


「楽しソウネ」

「うん! 佳鈴さんはこういうの得意だから一緒にプレイすると楽しいよ」


 純粋無垢な感想が光の刃となって美夜子の黒い部分を吹き飛ばしていく。率直に言えば美夜子は空也のその表情がエモくて仕方なかった。だが同時にそのエモさを引きだしたのが自分ではない事実が妬みと悲しみを増大させる


(ずるい、ずるいずるい! 私だってクゥちゃんと……こんな風にっ)


 たまたま相対した時、プリ機の写真でマウントをとってきた佳鈴のドヤ顔がよぎる。ちなみにコレは美夜子の主観であって、佳鈴は別にマウントをとりたかったわけではない。写真について尋ねたのは美夜子だし、それで勝手にダメージを負ったのも美夜子である。


『そんなに羨ましいなら、あんたも撮ってくればいいじゃん』

『――それが出来ないから羨ましいんでしょうがッッッ』

『あー………………そっか。じゃあ、クーちんがイイ感じに写ってるの一枚あげよっか?」


 といった感じで、空也の知らないところで火花が散った。美夜子は完璧なぐぬぬ面を披露しながら、それはそれとして写真はしっかり受け取った。コレクションが増える方を優先したからだ。

 しかし、その光景を許容できたわけではないので「それなら私は一緒に甘味屋に行くもん!!」と速攻で決めたのだ。そして、ふと湧きあがった黒いオーラを放ちつつ空也に向けて【夫の浮気を問い詰める妻】のような態度をとってしまっている。


 これぞ《重愛なヤンデレ》の異名に恥じぬ、大分めんどくさい女子。

 本人的には空也と一緒に甘い物でも食べたら落ち着くかと思っていたがそうはならなかった。心の動揺を触発したのは顔馴染みのおばちゃんがいなければまた違ったかもしれないが、おばちゃんも悪気があってからかってきたわけではないので罪はナシ。


 だが。

 そんなめんどくさい系女子のヤミ色を生み出したのが空也なら、


「そうだ、美夜子ちゃんも今度は一緒に行こうよ」

「え」


 堕天してる美夜子を光の世界へ引っ張り上げるのも、また空也だった。


「い、いいの?」

「あ、もしかしなくてもダメな理由がある? おうちの都合とか」


「そうじゃなくて……私はこういうのあまりやった事が無いから……。間違いなく足引っ張って邪魔になると思うの」

「そんなのやってみないとわからないよ? もしかしたら佳鈴さんより上手くなるかもしれないじゃないか」


 その励ましは美夜子にとてもよく効いた。

 脳内では佳鈴より上達しているスペシャルな自分が『ムキー!』とハンカチ噛んでくやしがってる佳鈴にマウントをとっている光景(妄想)がありありと浮かぶ。


「そ、そうかなぁ? えへへ……それはいいわね」

「あと一人いれば四人面子が揃うなぁ。そうだ、知り合いに声をかけてみるよ」

「うんうん、いいわね」


 若干トリップ気味な美夜子はうわの空でイエスマンのような返事をした。コレがまた一騒動を巻き起こすキッカケになるのだが、そんな未来はまだ誰も知らない。


「クゥちゃん、あ、あのね」

「うん?」

「わ、私も……その……ぷ、プリ撮ってみたい」

「イイと思うよ!」


 勇気を出してみた自分の希望に、ノータイムで空也の爽やかな笑みが飛んできて美夜子の心は大いに満ち足りた。闇のオーラが「ぎにゃああああ!? ば、ばかめ、私は何度でも蘇る、か、かなら――ず」とラスボスチックな叫び声をあげて一旦消滅していくようだ。


 ちなみに美夜子が想像したのは『二人でゲーセンデート』だったが、空也がイメージしたのは『思い浮かんだ四人で遊ぶ』と認識がズレまくっている。もちろんどちらも気付いてない。争いの火種はこうして生まれいくのである。


 そんなこんなでテンション上がりまくりな美夜子ちゃん。ついその調子のビッグウェーブに全力で乗っかって普段なら絶対しない大胆な冗談をくりだしてしまう。


「ふ、ふふふ。く、クゥちゃん。よかったらフルーツゼリー少し食べてみる? はい、あ、あーん……なんちゃって――」

「ありがとう、いただきまーす」


 空也が差し出されたスプーンを一切の間をおかず口に運んだため、冗談が本当になり、「ひゃう!?」と驚いた声をあげて美夜子が固まった。


「じゃあこっちも、はい。葛餅♪」


 お返しとして大変お上手な動きで、空也が美夜子の口の中へ葛餅を運び込む。こうしてダブル間接キスは為った。


「~~~~~~~~ッッッッ」


 おばちゃんに黒歴史をさらされた時以上の衝撃と空也からしか摂取できない幸せ成分の相乗効果。その二つで美夜子の頭がオーバーヒートして、ボンッ!! と赤面爆発する。


 その音(?)はこっそり様子をうかがっていたおばちゃんにまで届いており、


「若いわねェ、よかったねぇヤミちゃん」


 テーブルに頭から突っ伏した美夜子に対してそんな言葉を呟かせる。



 店内温度は元に戻るどころか、上がった。


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