第7話:ヤミ属性女子のコミュニケーションは重い?その①

 茅実 美夜子。

 《重愛なヤンデレ》と噂される黒髪美少女。通称ヤミちゃん。


 この愛称(?)は、彼女の長く美しい艶々の黒髪と周りに漂わせている闇色のオーラからきている。ただ、実際にその愛称を本人に向かって使おうとする者は皆無といっていい。


 そもそもこの美夜子という女子生徒は、いわゆる『教室の片隅にある席でいつも一人で本を読んでいる、ちょっと神秘的な雰囲気と近づきにくい空気がある』タイプの和風美少女である。

 住む家はかなりの豪邸で庶民とは世界が違う、うかつに手を出すとどこかに潜んでる黒服SPが警告してくる、彼女の愛は重すぎて常人が受け止めようとしたらぶっつぶされた等、どこまで本当かわからない噂もある。そしてソレらが確かめられた事はないらしい。


 ただ、最近は新たな噂が学園を駆け巡っているため、ゴシップ好きの生徒達はそっちに夢中だった。


『ヤミちゃんのヘヴィーラブを受けきるすごいヤツがいるらしい』

『女神なギャルがライバルなんだって』

『学園の陰と陽が激突する時、その先にあるのは修羅・場』

 

 以前の噂に比べて、これらは信憑性の高い情報とされている。

 理由は簡単。


 想像や予測が入り込む隙間がないほどに、その現場が目撃されているから。

 そして、


「クゥちゃん。放課後に予定がなければ甘味屋さんに行ってみない? たまたま帰る途中にあるんだけど……その、新作を食べてみたくて」


 尚、一見『予定がなければ』と気遣っている風だが、美夜子は空也に予定などない事は事前に知っていた。ただ何故知ってるのかは内緒にしたいのでおくびにも出さない。それはそれとして新作スイーツを一緒に食べたいのは事実であり、自分から殿方を誘うの気恥ずかしさに頬を赤らめてるのは演技ではない。


 コミュニケーション下手な彼女は、なんだかんだで空也に対して行動を起こす時は一般的な人よりもドキドキしてしまっているのだ。そんな状態でお誘いを断られたら崩れ落ちてしまいそうだから、事前調査でイケると判断した時にしか動けなかったりする。


 その乙女チックな内なる思考から表に出てくる言動は、周囲からみれば『ヤンデレ女子が暗い目をしながら相手に重い愛を向けており、万が一断ろうものならヤヴァイ事になりそう』という誤解たっぷりな印象を抱かせるには十分すぎた……のだが。


「誘ってくれてありがとう美夜子ちゃん。今日は予定も何もないから、大丈夫だよ」


 空也はまったく怯んだ様子もなく、にぱっと微笑みながら返事をした。

 それだけで美夜子の周囲に漂っていたヤミ色のオーラは雲消霧散し、陽光と薄桃色の空気が充満した周囲が直視できない甘い空間へと変貌してしまう。


「ふ、ふふふっ、じゃ、じゃあ後でね!」


 OKが貰えた。ただそれだけのはずなのに。

 自分の席に戻った美夜子は、放課後までの数時間。ずーーーっと「えへへへ」と頬を緩めてニヤついており、


 授業内容なんて物はほとんど頭に入っていなかった。

 


 ◇◇◇


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