第6話:女神ギャルプレイ☆その②
◇◇◇
その後も適当に遊びまわっていると、佳鈴の目にとあるエリアが目に入った。
ゲームセンターの中にありながら基本的に女性じゃないと入れない場所で、佳鈴は女友達と一緒に使う機会もそれなりに多い。箱型の筐体がいくつも立ち並ぶ他、化粧や着替えをするためのスペースもあったりする特殊な場所だ。
「ね、ね、クーちん。アレやろうよ、プリ撮ろ!」
「え、あそこって女の子しか入れないんじゃ……?」
「同伴なら大丈夫だって。ほら、こっちこっち」
グイグイ進んでいく佳鈴が男性禁制ラインを易々と越えていく際、空也はおっかなびっくりといった様子でついていった。ちょうど数人の女子高生グループとすれ違いはした際に向こうから「可愛い―♪」「あれって染めてるのかな? それとも地毛?」という声が聞こえたが「なんでここに男が?」といった怪しんでる言動は皆無だ。
それが男である空也としては「ガーン」と口にする程度にはショックだったが……佳鈴は「ね、大丈夫っしょ?」と気にせず空いていた筐体『アイドルスタジオ・メガ盛り』へと入っていく。
中は巨大な画面とパネルが付いており、コインをちゃりんちゃりんと投入すると撮影モードがスタートした。
「んー、どれにしよっかな~……」
「色々選べるんですね」
「まね♪」
短い返事をしている間に、ピッピッピッと佳鈴がパネルを操作する度に明るい電子音が鳴り、必要項目が決まっていく。あっという間に準備が整い、音声と画面でカウントダウンが始まった。
「クーちん、なんかポーズ取ってよポーズ!」
「え!? そう急に言われても……ぴ、ぴーす?」
「ピース☆」
ぎこちないピースサインを空也がした瞬間、パシャシャシャとシャッターがきられた。確認画面に切り替わると、そこには笑顔満点でピースサインのキメている佳鈴とちょっと困り笑いをしている空也が写っている。
「あはははは♪ クーちん、緊張してる感バリバリじゃん!」
「佳鈴さんはすごく可愛く撮れてますね、さすがです」
「よーし、次は片手でこういう形をとって……クーちんは反対の手で作ってね」
「こうですか?」
「そうそう。で、それをこうやって合わせて~、はいラーブ!」
撮影ボタンをポチッと押して、再びシャッターがきられる。
次に撮れた写真では、佳鈴と空也の手で作ったハートがしっかり写っている他、目線も表情もさっきより格段に良くなっている。
「うん、イイネ! 次はコスプレして撮ってみよっか。あたし、クーちんのアイドル衣装が見たいなぁ」
「そんなものまであるんですか」←(男性アイドルの服だと思っている)
「あるある、ちょっと着替えてみようよ」 ←(女装させるつもりで言っている)
このやり取りの結果どういう事になったのか。
それは空也の悲鳴と合わせて、二人の秘密となった。
◇◇◇
それからしばらくして。
帰るのが遅くなりすぎる前に、佳鈴達はゲーセンから撤収した。
今は遠くの夕焼けを眺めながら並んで帰っているところ。
佳鈴は途中で別れるつもりだったが、空也の好意によって自宅の近くまで送ってもらっている。
その気遣いもあって佳鈴は大変ご満悦だった。
ここまで邪魔(※美夜子)が入らないのも比較的珍しく、ゲーセンで二人っきりで遊びまくった上にプリまで一緒に撮れた。嬉しくないはずがない。
「はいこれクーちんの分。スマホとかに貼っとくといいよ」
「ありがとうございます。……うん、やっぱり綺麗に撮れてますね。目が大きすぎたり肌が真っ白すぎるのとかもありますけど」
「面白いっしょー♪ そういう写真が作れるのがあの筐体のいいとこなんだぁ」
アスファルトの道をゆっくりゆっくり歩きながら、佳鈴は手元にある写真を改めて眺めていた。こうして一緒にプリを撮ろうとずっと考えていたので、念願叶って頬が緩む。
そして今更ながらに『どうせならもっとイイ写真を撮っても良かったなぁ』と思ってしまった。たとえばそう、空也の頬に不意打ちでキスをしてる、とか。
「って、さすがにソレはやりすぎっしょ!」
「え? 何がです?」
「ううん、こっちの話!」
やりたくとも、実行するにはまだ恥ずかしさが勝ってしまう。そういうのは恋人か、よほど気心の知れた相手とするべきだ。少なくとも佳鈴は空也をそのレベルで気に入ってはいるが、空也がどう想っているかはわからない。
もしも「佳鈴さん、そんな気安くされても困ります」なんて軽蔑されたら佳鈴はショックで倒れかねない。いや、間違いなく倒れるだろう。そしてしばらく家に引きこもるだろう。
などと考えていたら、
「佳鈴さん!」
「へ?」
突然車道側にいた空也に強く押されて、佳鈴の身体が横にあった壁に押しつけられ――いわゆる壁ドンみたいな体勢になっていた。
「な、なになに!? クーちんまさかこんなところで衝動的で強引な男らしさを発揮するフラグ立った!?」
「すいません、ちょっとスピード出してる自転車がきてたので。どこかぶつけたりしてませんか?」
「え、あっ、そ、そっか! うん、大丈夫大丈夫!」
内心で「焦ったーーー!?」と佳鈴は絶叫していたが、それは決して自転車に轢かれるとかではなく、空也にいきなり迫られたと思ったゆえにだ。割とスレスレで走り去っていく自転車に半分文句をつけつつも、もう半分の自分は「GJチャリ!」と親指をたてている。
「ありがとクーちん☆」
「いえ、お礼なんて別にわぷっ」
どさくさにまぎれて佳鈴が空也をハグする。
お気に入りの少年からは、どこか安心するいい匂いがした。
「助けてくれたお礼に、ちょっとウチ寄ってく? クーちんなら大歓迎よ」
そのお誘いと熱烈なハグで顔を赤くする少年を眺めながら、佳鈴は思った。
――ああ、時間がもっとゆっくり流れたらいいのにな~、と。
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