第5話:女神ギャルプレイ☆その①


「クーちん、今からちょっと付き合って♪」

「え? わわっ、佳鈴さんそんな引っ張らなくても大丈夫ですよ!」


 学園からの帰り道。

 てくてく帰宅していた空也に背後から近づいた佳鈴は、有無を言わさず彼の背中を掴んで連れて行ってしまった。


(よっしゃ! さすがにこれなら邪魔は入らないっしょ!)


 内心ガッツポーズをとりながら佳鈴は空也の家とは違う方向にある繁華街へと駆け出していく。空也と遊ぼうとするとよくかちあう美夜子の姿も今はない。何故なら、この先の道で美夜子が待ち構えているであろうポイントより早く、明確に狙いをさだめて空也に声をかけたから。


「っとと。そんなに慌てるとコケちゃいますよ佳鈴さん」

「ごめんごめん♪ やー、クーちんと遊びに行くのが楽しみすぎてさー」


 実際嘘偽りなく佳鈴のバイブスは上がっているため、その笑顔は眩しさでいっぱいだった。男子相手でも気兼ねなく接してくれるギャルな佳鈴が、男達から時折女神だなんて大げさな褒められ方をする理由のひとつはその笑顔だ。


 ただ、今だけはその笑顔は一人の少年にだけ向けられている。

 佳鈴の友人がそのウキウキの波動をキャッチしていたら、きっと温かい目で見守ってくれただろう。


「じゃ、とりまゲーセンにくりだそぉー♪」


 ◇◇◇


「いやったあ! またあたしたちのビクトリーーーじゃない? クーちんやるぅ!」

「佳鈴さんが上手だからだね」

「そんなことも、あったりなかったり的なー? いえーいハイターッチ♪」


 佳鈴がよく足を運ぶ大きなゲームセンター。

 そこに設置された協力対戦ロボットゲームの席で、手のひらがぶつかりあうパァンという心地よい音が響く。


 最大四人でプレイできるこの筐体は2on2で対戦するのが基本。つまり、片方だけが上手いだけでは勝利を勝ち取るのは難しい。しかし、佳鈴と空也のタッグはいい調子で連勝を続けていた。まるで常日頃からコンビネーションを磨いているパートナーのようである。

 近距離戦を好んで前に出る佳鈴と遠距離からサポートする空也。その連携を前にした対戦相手の「ぬおおお、あと少しのとこで負けたぁ!?」というくやしそうな声が反対側の筐体から聞こえてくる。


「いやー、参った参った。逆転の一撃を決めるつもりがバッチリ迎撃されたよ」

「アレは見事だったなぁ。やるねぇ、キミたち」


 佳鈴達の方へ回ってきた対戦相手のお兄さん達が今の対戦を讃えてくれたので、佳鈴は嬉しそうに笑い返した。


「ふっふっふ、ありがとーございます。でも、最後決めてくれたのはあたしじゃなくて彼なんですよね~」

「対ありでした」


「おおっ!? 外人さんとギャルのペアとは珍しいね」

「なんだお前知らなかったのか。彼女ら、この辺のゲーマーの間じゃ割と有名なんだぞ。一部じゃファンもいて、プラチナちゃんとゴールドちゃんなんて言われてたりして」


「プラチナ……ちゃん、なんでちゃん付け……」

「ああクーちんがしおしおと萎れていく……。おーよしよし、大丈夫よクーちん。人の噂も七十五日っていうっしょ?」


 髪色と背の低さと童顔から来てるであろうあだ名。気にしているポイントのトリプルパンチを喰らってへこむ空也を佳鈴が慰める。その様子はさながら仲の良い姉妹に見えなくもない。


 そのため、


「ああ悪い! へこませる気はなかったんだ! お詫びにそのあだ名はやめとけって知り合いに伝えとくわ」

「そうだな。《女神シスターズ》なんていいかもしれん」


 などと冗談っぽく話しながら、気さくなお兄さん達が手をあげながら去って行った。空也がその背中を見送りながら「いや、そもそも女じゃないんですけど!?」とツッコミを入れたが聞こえたかどうかは不明である。


「まぁまぁ、いいじゃない女神シスターズ。中二病っぽくてカッコよくない?」

「カッコいいのはわからなくもないですけど、僕が妹扱いなのがちょっと……。佳鈴さんだって男神おがみブラザーズって呼ばれたら同じ気持ちになるはずです」


「ふっふっふー、そもそも男神の時点でイヤに決まってるし、言ったヤツはぶっとばーす♪」

「佳鈴さんならそれっぽくすれば全然男としてイケそ、あははははは! ニコニコしながら無言でくすぐってこないでくださいってば。ちょ、ちょっとたんまたんま、次のステージ始まってるから手元が狂っちゃいますって」


 デリカシーの感じられない発言に対して、佳鈴は空也が謝るまでちょっかいを出し続ける。その結果、我慢の限界を迎えた空也が操作ミスをして愛機が爆散していた。







 

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