第3話:佳鈴BFFとターゲット
授業終了のチャイムが校内に鳴り響くと、家庭科室から生徒達が退室していく。
一人一人出て行く者もいれば、仲の良いグループで一緒に出てくる者もいる。《NTR好きの女神ギャル》などと呼ばれる事もある光笠 佳鈴は後者だ。
「あー、料理実習とかマジめんどーっすわー」
「それはあやちーが手順を確認せずにトチりまくって手間を増やしたからでしょ!」
「あたしの班にさーりゃんいてくれてほんと良かったー。最後はちゃんと美味しく食べられる物が作れたし」
よく一緒に居るずっ友。あるいはBFFといってもよい仲良し。
あほの子可愛いあやちーとお節介焼なさーりゃんの二人と一緒に、佳鈴は先程までの授業について楽しそうに喋りながら教室へと帰っていく。
「そういうカリンはお砂糖と塩を間違えるとか、ベッタベタなミスしてたでしょ」
「いやいや違うっしょ! アレは誰かが塩と砂糖のラベルを貼り間違えてたせいであって、あたし悪くないし!」
「カリンも案外ドジっすよね~」
「「あやちーにだけは言われたくない(でしょ)」」
それぞれがけらけらと笑って喋っているだけなのに、その空間はなんとも華やかで明るくなっていく。彼女らの近くを男子生徒が通りかかると、ちょっと立ち止まって見惚れてしまうような可愛らしさにあふれている。同時にかしましくもあるが、十分許容できる範囲内であり「もしあそこに混ざれたら……」と男子達が妄想する程度にはうらやましい場所でもあった。
「あ、佳鈴~。今日の放課後、オレらと一緒にカラオケでもどうだ?」
「いいよー、考えとく♪」
「そういう返事をするって事はチャンスありか? ま、無理なら無理で構わないからなー」
誘ってきた少しちゃらい感じの男子達は、特にしつこくする事もなくどこかへ行ってしまった。よく遊びに行っていた面子のひとりなので、佳鈴が『イヤならイヤって言う』と知っているのだ。
もちろん《女神》なんて持て囃される佳鈴に声をかけるからには多少の下心はあるかもしれないが、それも嫌悪するタイプではない。あくまで友達に対して気さくに接してきたものである。
そんな感じで気づいたら広くなっていた交友関係もあって良くも悪くも目立ちやすくはなったが、佳鈴はこの三人で一緒にいる日常が気に入っていた。ココを中心に人が集まって遊びに出かける時は楽しくて仕方がなく、つい門限をブッチしてしまう事もしばしばあったぐらいだ。
――とある男子生徒と縁が出来るまでは。
「あ♪ クーちんだ」
階段を降りている途中で佳鈴が嬉しそうな声をあげる。
踊り場辺りで、とある男子生徒を発見したからだ。
彼は佳鈴は気付かず階段を降りていく。
そこで声をかけようとしたところで、佳鈴は逡巡した。
もうすぐお昼休みがくる。
その時にできればクーちんとご飯を食べたい。
しかし、今は仲良しの二人と一緒だ。ここで二人を放って声をかける、あるいは追いかけるなどしていいものか? あやちーとさーりゃんは別段クーちんと接点があるというわけではないし――。
そこまで考えて若干声をかけるのをためらっていた時、あほの子あやちーが佳鈴の脇腹を肘でつついた。
「ほらほら、ターゲットが行っちゃうっすよ。追わなくていいんすか男をたらしこむ女神ギャル様?」
その顔はにんまりしており、人聞きの悪い異名も決して本気でそう思っているわけではなくジョークで言ってるだけなのが十分に伝わる。
「ちゃんとフラグ立てとかないと、変なのに持ってかれちゃうでしょ?」
続いて、色々なゲームを嗜むゲーマーさーりゃんが煽ってきた。その『変なの』に心当たりがありすぎて佳鈴の心に焦りが生まれてしまう。
「ごめん二人共! あたしちょっと行ってくるわ!!」
一段ではなく、数段飛ばしの勢いで佳鈴が階段を駆け下りていく。
「はいはい。ハー、あつあつですなぁ」
「らぶぃですねぇ。ワタシもそんな風にイケメン完璧超人を追いかけてみたいですわぁ」
後ろから聞こえてきたぼやきに「そんなんじゃないから!」と内心思いつつ、佳鈴はすぐに空也に追いついた。そのまま肩を叩くこともできたが、慌てて追ってきたと知られたら気恥ずかしい……。だから呼吸を整え、ついでに髪も簡単に整えてからようやくポンと彼の肩を叩く。
さも、偶然バッタリ見つけてちょっかいを出しに来た体を装って。
「こんちわクーちん♪ 今からお昼?」
「あれ、こんにちは佳鈴さん。今はこの後のお昼をどこで食べるか考えていたところなんだ」
「それは奇遇ね。あたしもどこで食べるか悩んでたとこなの♪ というわけで、一緒にどこかでどう??」
空也が学園にある食堂で昼食を食べる事は、もちろん佳鈴は知っている。
だからこうして声をかければ簡単に同席できるだろうと予想していた。
しかし、その予想はある意味外れて、ある意味当たってしまう。
「いいですよー。じゃあ天気もいいし屋上で食べましょうか。美夜子ちゃんには僕から連絡しておきますね」
「う”」
その名前が出た瞬間、佳鈴の口から低い声が漏れた。
しまった、先手をとられたか……。そんな不覚さが滲むような声だった。
しかし、それで空也との昼食を捨てる佳鈴ではない。
「それは楽しみね♪」
心の内側はしっかり隠して、女神ギャル様は口にした言葉どおりの笑顔を少年に向ける。絶対に『あの根暗めぇ、油断も隙もないッ』なんて感情は悟られないように。
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