杜姥婆ぁ!

 ケルがスタッと地面に降り立つと、モモが駆け寄ってきた。

「ふぅ……」

「やったな、ケル!」

「おう、良い必殺技の実験台だったわ。」

「言うね〜」

二人は、拳と拳をぶつけ合う。互いの健闘を称え合う。しかし、勝負は終わっていなかった。ボロボロの山姥は立ち上がり、両手の包丁をしっかりと構えていた。

「諦めんぞぉー!」

「まだやる気かよ……」

山姥は両手を広げ、その場で高速で回り始めた。姿が追えなくなるほどの回転になると、そのままモモとケルの方へと進んできた。

「オレの真似か!?」

「来るぞ!」

二人が身構える所に、高速回転山姥は突っ込んでいった。


杜姥婆ずばばぁ!!!」


あまりの威力に、モモとケルは宙を舞った。そして地面に叩きつけられた。身体中に裂傷を作った上で。

「なんて……威力だ…………」

「やられる度に強くなる、厄介な山姥だ……」

「どうするよ?」

「やるしかねぇだろ。」

二人は起き上がり、迎撃の構えを見せる。山姥は再び、高速回転をし始めた。その時、後ろから声がした。

「二人とも!あいつの動きを止めてくれルか?」

「なんでだよ猿!」

「いいから!!!」

「説明しろよ!」

二人が言い争ってる間に、山姥は移動を始めた。同じように、モモとケルへと突っ込んで来る。


杜姥婆ずばばぁ!!!」


「どうするよ?」

「とりあえず、やるしかないな……」

「ヘイヘイ。」

「ケル………………」

モモは作戦を素早く耳打ちすると、ケルは急いで動き出した。ケルは、その場で高速回転を始めた。そして、山姥の方へと進んでいった。二つの回転が突き進んでいく。似たような行動だが、違う点が有った。それは、なのである。ケルは衝突する前に、両手の銃を連射した。高速回転状態で発射された弾丸は、同じく高速回転する山姥の包丁にぶつかった。これにより、山姥の回転数が一瞬、半分ほどになった。この時を、モモは見逃さなかった。すかさず山姥の目の前に飛び出し、回転する山姥の包丁を受け止める。何度も弾かれ、何度も斬られても、食いしばって受け止め続けた。自分の血で赤くなりつつも、とうとう山姥は止まった。

「どうだ……」

「小癪なー!」

その場で山姥は、包丁を振り下ろす。ボロボロで動けないモモ目掛けて、斬撃をくりだす。しかし、包丁は宙を舞った。正確には、が宙を舞っていたのだ。眉間に大きな窪みを、作りながら。


「アァチョォワーーー!!!」


奇声と共に、離れた場所から悟空が如意棒を伸ばしていたのである。山姥は大きく吹き飛び、火炎の中へと放り込まれた。

「熱い熱い熱いっっっ!!!」

「山姥のまル焼き、一丁!」

「ま……だだー……」

「しぶとすぎルだろ!」

山姥は全身が燃えながら、まだ向かって来ようとする。歩いて炎の中から出ようとするが、ケルに阻まれた。銃を連射し、後退させたのだ。片方ずつ使い、何度も射撃する。ケルの両側には、薬莢が散らばりまくる。それでも山姥は出ようする。

「しぶとすぎんだろ!」

「とにかく撃ち続けルんだ!」

「指図すんな!」

「いいから!!!」

ケルの射撃に、とうとう山姥は動けなくなった。火炎の中で立ち尽くすのみだった。悟空は如意棒を伸ばし、山姥を火炎の奥へと押し込んだ。眉間に当たり、大きく飛ぶ。そして、横たわった。


「終わった……」

「だと良いな……」

ケルとモモは、座り込む。度重なる試練と激闘で、疲労困憊という状況だった。そんな二人に、山姥の布から解放された三蔵法師が駆け寄る。

「大丈夫ですか!」

「では、無いですね。」

「今すぐ手当を!」

「いや、その前に、この試練を越えましょう。熱さで参りそうです……」

「そうですか!でも、どこに札があるのか……」

「……………………」

三蔵たちが悩んでいると、どこからかコンコンッと木を叩く様な音がしてきた。モモ、ケル、悟空が周囲を見渡すも、誰も居ない。しかし、三蔵だけが見当が付いていた。すぐに懐から瓢箪を取り出して、蓋を開けて逆さにした。すると、中から豚の様な姿をした者が出てきた。

「ブー、お師匠さま、ブー!」

「猪八戒、どうしました?」

「ブー、おいらはお札の分かるブー!」

「本当ですか!!!」

猪八戒は鼻をフガフガさせながら、ゆっくりと進んでいく。どうやら、周囲の火炎によって燃える柱やお札の匂いを嗅ぎ分けている様だった。しばらく一行が歩いていくと、目の前に何かが突き刺さっていた。

「ブー、アレだ、ブー!」

「急ぎましょう!」

三蔵と猪八戒と悟空は、お札に向かって走っていく。その後を、ケルに肩を貸してもらいながら歩くモモがついていく。

「とうとう都に、到着だなモモ。」

「長かった……」

「オイオイ、まだまだこれからだぜ?」

「確かにな。」

「でもまぁ、しばらく休んでも良いだろ。」

「あぁ、旨い物でも食おう。」

二人が話している間に、辺りはすっかり草の茂った平野に戻っていた。熱さも無くなり、程よい気候が身に染みる。モモとケルの元に、三蔵たちが戻って来た。

「見てください!」

「おー!アレかー?」

ケルが驚きの声を上げた。三蔵が指し示す先に、明らかに建物が見えたのだ。もう都は、目の前であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る