最後の試練

 「アッチィ〜」

「おい、余計に熱くなるから言うな。」

「無理だモモ、勝手に口が動く。」

「それもそうだな。熱い…………」

四人は、ゆっくりと進んでいた。熱い熱いと弱音を吐きながら。しかし、暑さは砂漠で経験していたはずだった。それでも熱いのには、理由があった。

「なんで、辺り一面が燃えてんだよ……」

「そういう試練なんだろ……」

モモたち一行の周囲では、火と炎が森の木々のように覆い茂っていたのだ。そんな危ない中を、注意しながら進んでいた。燃え移らないようにするのはもちろん、原因のお札を探す為である。

「熱すぎルー!」

「悟空、頑張りましょう。」

「お師匠さま〜」

「フゥ……フゥ…………」


火中を彷徨い、どのくらい経っただろうか。一行の目の前に、何かが見えて来た。地面に突き刺さる物体であるのは、間違いなかった。

「とうとう見つけたぞ!」

「急げモモ!」

「慌てんなよー!」

ケルとモモが、駆け寄った。しかし、それはいつもの柱ではなかった。地面に突き刺さった巨大な物体に、二人は釘付けになった。

「デカイな〜」

「うん?…………」

「見たこと、無いか?」

「有る…………」

「「マズイ!!!」」


二人が気づいた時には、既に遅かった。

「キャー!」

「何すルんだ!」

三蔵法師と孫悟空の悲鳴が、後方から聞こえてきた。二人とも、布に包まれ身動きが取れなくなっていたのだ。

「バッバッバッ!掛かったね!!!」

四人に向かって、声がかけられた。見ると、地面に突き刺さった巨大な包丁を引き抜いて、肩に乗せた巨体の老婆が居た。

「やっぱりお前か、山姥!」

「今度こそ、逃がさないよ!」

「ケル、二人を頼んだ!」

モモは山姥に向かって、走り出した。三蔵と悟空の身を解放する為に、ケルも走る。

「バッバッバッ、かかって来いや!」

「行くぜ、鬼備弾衣きびだんご!!!」

モモは懐から球を取り出すと、山姥に向かって突き出した。すると球は大きく光り輝き、辺り一面を真っ白に照らした。閃光が埋め尽くす空間から、真っ赤な甲冑に身を包んだモモが飛び出す。そして、そのまま山姥へ、一太刀を浴びせようと刀を振り下ろす。

「うぅおおぉぉぉっっっ!!!」

「餓鬼が!」

頭上からの斬撃を、山姥は包丁で受け止め弾き返す。モモは空中で一回転したのちに、地面に降り立った。ズザザァァと両足と地面で、音と砂煙を奏でる。止まると同時に山姥に向かおうとするも、既に目の前には居なかった。

「死いぃねえぇぇーーー!!!」

「!?」

モモの真横に来ていた山姥が、両手の包丁を振り下ろす。すぐに両手を使って刀で受け止める。地面の砕け方やめり込み具合が、山姥の攻撃の凄まじさを物語っていた。

「バッバッバッバッバッバッ!」

「ぅぐのおぉぉ……」


「早くしろよ!」

「うるさい分かってるよ猿っ!」

「もたもたすルな!」

「あぁー!もう切れねぇーーー!!!」

ケルは悟空を包む布を切ろうとするも、うまくいかない。正確には、切っても切っても終わらないのである。

「なんなんだよコレ!」

「魔法かなんかなんだろ!」

「んな事、分かってるよ!!!」

「じゃあ、早くしろよ!」

「してんだろうが!」

「別の方法でなんとかすルしかない!」

「別の方法って…………あ。」

「なにすルんだ?」

ケルは片方の銃を取り出すと、中から弾を取り出した。そして次から次へと、弾から火薬を取り出した。それをもう一度、同じように行った。すると、目の前に出来た20発分の弾の火薬を悟空に満遍なく振りかけた。

「ペッペッ!何すんだ!」

「…………よし。」

悟空の質問を無視して、ケルはすぐに悟空を炎の中に蹴り込んだ。ボンッと音がしたかたと思うと、中からすぐに悟空が飛び出した。

「何すルんだ、このヤロー!」

「おっ、布なんとかなったな。」

「もっとやり方があるだろが!」

「じゃ、法師さんの事よろしくな。」

ケルはすぐに、モモの元へと向かおうとした。しかし悟空が、引き止めた。

「待て待て待てぇ!」

「なんだよ?」

「お師匠様も解放して、3人でやろう。」

「………………」

「そっちの方が、いけル!」

「……………………」

「おい!」

「ダメだね。」


「バッバッバッ!」

「うおおぉぉぉーーー!!!」

山姥の両手から高速で振り下ろされる2本の包丁の連撃を、モモは避け、いなし、受け止めていた。1度目、2度目の戦闘時よりも、格段に力も速さも上がっていた。刀と包丁がぶつかる度に、大きな火花が散り乱れる。

「さっさとどけ!」

「どくかよ、ババァ!」

周囲の火炎など物ともせず、二人の斬り合いは続いた。痺れを切らした山姥は、大きな一撃を繰り出した。両手の包丁を揃えて、横一文字に振り切った。モモは刀で受け止めるも、高い威力に吹き飛ばされてしまった。ゴロゴロと地面を転がり、山姥と距離が空く。すぐに立ち上がり、モモは山姥に駆け寄る。

「力も速さも劣ってるのに、しつこいねぇ!」

「諦めの悪さは、人一倍なんでね!」

両手の包丁をやたらめったらに振り回して、山姥は迎撃準備をしていた。モモは刀を、右手一つで持ちだした。そして刃を下にして、肩から先を真後ろに伸ばす。走るモモの体と平行になるように、腕をまっすぐに伸ばしたのだ。山姥から見ると、駆け寄る姿によって刀の位置が全く見えなくなっていた。

「技のぶっつけ本番、恐ろしいぜ。」

「何しようと、無駄だ!」

山姥の斬撃の豪雨の中へと、モモは突っ込んだ。かわしながら、かすりながら、モモは山姥の後方へと駆け抜けた。


かくがたな三悪刃さんあくじん!!!」


「うぎゃああぁぁぁーーー!!!!!!」

「ふぅ……」

山姥の悲鳴を聞きつつ、モモは安堵の息をつく。ケルたちが山姥を見ると、体の正面・側面・背後に一太刀ずつ斬撃が刻まれていた。モモが太刀筋を隠しながら、すれ違い様に斬りつけたのだ。


「やっぱり、技は大事だな!」

「そんな事より、なんでダメなのか説明しろよ!」

「猿でも分かるだろ。」

「分からないから、聞いてルんだが?」

悟空の質問に、ケルは答える。

「あのな、山姥は法師さんを狙ってるんだ。3人で戦ったら、誰が守るんだ?」

「………………」

「それに、急に組んでも上手くいくとは限らないだろ?」

「………………………………」

「少しは自分で考えろ。」

「…………………………………………」

「そこで見てろ。オレとモモのコンビで、チャチャっとやってくるわ!」


何も言わない、何も言えない悟空を、ケルは後にする。山姥はかなりの痛手を負ったが、諦めてはいなかった。

「まだまだぁ!」

「このババァ!」

またもモモと山姥の斬り合いが、始まった。何度も火花を散らすと、山姥の一撃がモモの刀を大きく弾いた。それにより大きく無防備になったモモに、山姥のもう1つの包丁が迫っていた。大きく振り下ろされた包丁が、砂煙を巻き起こす。山姥は勝利を確信していたが、無傷のモモが煙の中から見えてきた。見ると間一髪のところで、包丁が外れていた。正確には、外されていた。包丁の側面に、丸い焼けた跡が五個ほど付いていた。

「危ねぇ!」

「ナイス、ケル!」

拳銃から硝煙を上げながら、ケルが叫んだ。山姥の振り下ろす包丁に向かって連射し、弾丸の威力で衝突位置をズラしたのだ。山姥はケルへと目標を変え、走り出した。

「小癪なぁっ!」

「オイオイ、怪我人の老婆が無理すんなよ。」

「きえぇぇーーー!!!」

「あと、よそ見は危ないぞ。」

いつの間にか、山姥とケルの間にモモがいた。鞘に刀を納めつつも、しっかりと柄を握り締めていた。ダッダッダッと走ってくる山姥とすれ違い様に、モモは刀を引き抜いた。しかし動かさず、山姥の体に当てるだけであった。まるで、山姥自身に己の体を斬らせている様だった。


流受りゅうじゅ桃浪ももなみ。」


またも山姥は、体から鮮血を噴き出した。モモと、強く速くすれ違った為に、刀の刃がしっかりと入ってしまったのだ。

血の赤と刃の鋼が混ざり、刀は桃色に染まったように見えた。

山姥のヨロヨロとよろめきながらも、歩みは止まっていなかった。フラフラと動きながらも、ケルに向かって行く。拳銃をホルスターに戻して弾薬を補充すると、ケルはすぐに取り出した。


10BANDIEじゅうばんだい、ターンブレイク!」


片手に銃を持ったまま、その場でグルグルと回転を始めた。どんどんと高速になり、残像が残り出した。その瞬間、山姥の目の前からケルの姿が消えてしまった。

「どこ行った!?」

「ここだぞ。」

キョロキョロと辺りを見渡すと、山姥を囲うように空に浮かぶケルがいた。しかも、残像なのか10人も居るように見えたのだ。どれが本物か山姥が見分けようとしていると、銃声が鳴る。一発分しか聞こえなかったので、残りの9発は残像だと山姥は考えた。考えてしまった。しかし、山姥の体を10発の弾丸が貫いた。高速で撃ち切る事で、銃声の数を1つにまとめたのである。

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