夜明けの待ち人

 モモとケルは、濡れた服を乾かすために火を起こした。そして、それぞれの武器の確認を始めた。モモのそばには、三蔵が座った。

「とりあえず、拭いておこう。」

「こちらの布を使って下さい。」

「ありがとうございます!」

「それにしても、見事な刃で。」

「そうなんですか?人からの貰い物でして。」

「素晴らしい物だと思います。ただ……」

「なにか?」

「禍々しい気配も、感じますね。」

「……………………」


ケルも同じように整備しようとしていると、悟空が寄って来た。

「あー、水が!」

「………………」

「なんだよ?」

「それ、銃か?」

「そうだけど。」

「ちょっと見せてくれよ!」

「嫌だね!」

「は?ケチ!!!」

「ケチで結構、コケコッコー」

「ムカー!」

二人は言い争っていたが、ケルは気になっていた事を聞いた。

「そういや、お前。」

「あ?」

「山姥に刺されてたけど、なんで平気なんだ?」

「教えル訳、ありませーん!」

「かぁー!」

「銃の整備、見せてくれルなら教えてやルよ!」

「…………………………」

「どうすルどうすル〜」

「邪魔すんなよ。」

「分かってルわ。」

悟空の目の前で、ケルは銃の整備を始めた。悟空は、それを見ながら解説を始めた。

「刺サれたのは、本物のおらじゃねぇ。」

「へぇ〜」

「おらの術の一つで、毛を分身にできルんだ。」

「だから刺されても大丈夫だったのか。」

「そういう事だ。ふむふむ、銃の構造って、そうなのか。」

「見て理解できんのかよ。」

「出来ますぅー!」

「ヘイヘイ……」


4人は気長に、お札を探す沙悟浄を待った。しかし、なかなか戻って来ない。とうとう夜になってしまい、再び一夜を過ごすことになった。見張りとして、モモと悟空だけが起きていた。

「モモサんは……」

「モモで良いよ。」

「じゃあ、モモはなんで旅してルの?」

「そうだな〜。悪い奴を懲らしめる為かな。」

「曖昧だ……」

「まぁ、いろいろ事情が有ってね……」

「おらの師匠と似てルけど……」

「法師様と?」

「世界の平和の為に旅してて、都に有る経典を遂に手に入れられルんだ。」

「平和になると良いな!」

「…………………………」

黙る悟空に、モモは尋ねた。

「どうした?」

「本当に平和になルのか、気になって……」

「それは、着いてみないとな。」

「旅してて、困ってる人をたくサん見てきた。悪い奴も大勢いた。」

「………………」

「だから、もっと旅して回って助けたい気もすル。」

「それも、良いな。」

「あと、強くなりたいし。強い奴と戦って勝てば、もっと強くなれルし。もっともっと強くなれば、もっともっともおっーとみんなを守れルし。」

「たしかに。」

「でも、おらは三蔵法師様の一番弟子!お師匠様を置いていくわけにもいかない。」

「…………」

「それに、お師匠様は間違えた事は一度も無い。お師匠様の言う通り、都に着けば世界は平和なると思うし。」

「……………………」

「……………………………………」

「まぁ、好きすれば良いと思う。」

「そっか…………」

しばしの沈黙の後、ケルが起きて来た。

「起きたか……」

「近くでベラベラ喋られちゃ、寝られねぇよ。」

「ゴメンゴメン……」

「河童さん、まだなのか?」

「あぁ……」

「相当デカイ川だからな。流れもあるし、困ったな……」

モモとケルの会話に、悟空が口を挟む。

「お前は、なんで旅してルんだ?」

「オレか?オレは、自分の記憶の為さ。」

「記憶って?」

「昔の事を何にも覚えてないから、それを思い出すために旅してる。」

「へー、自分の為か……」

「当然だろ。自分の人生、自分の為に使って何が悪い!」

「傍若無人は、わルいと思うが?」

「難しい言葉、知ってんな?」

「馬鹿にすんな!」

「オレは、過去が無い。空っぽさ。だから、今くらいは充実させないとな。」

「空っぽ……」

「正しいと思うことをして、やりたい事をやる。いつの間にか人は、勝手に縛られちまう。今のオレには、それが無いから、自由気ままに、やらせて貰うだけさ!」

「………………」

「という事で、オレは寝る!」

ケルは再び横になろうとしたが、モモに引き止められた。

「おい、見張り交代しろや。」

「ヘイヘイ……」


――――――――――――――――


結局、モモ・ケル・悟空の3人は見張りを交代しながら夜明けを迎えた。日が完全に昇った頃、流石に痺れを切らした悟空が提案した。

「お師匠様!おら空から見てきます!」

「そうですね……流石に遅すぎますね…………」

「おーい!觔斗雲きんとうん!!!」

悟空が空に向かって叫ぶと、金色の雲の塊が1つ降りて来た。それに宙返りで飛び乗ると、悟空はすかさず飛び立とうとした。しかし、それをケルが阻止した。

「待て!オレも行く!」

「ダメだダメだ!」

「猿1匹じゃ心配だ、乗せろ!」

「だから無理だって!」

「良いから!」

川の上の悟空の乗る雲に、ケルは無理矢理に飛び乗った。しかし、そのまま突き抜けて落ちてしまった。

「いててて……」

「だから言ってルのに。」

「なんで乗れないんだよ!」

「おら専用なの!」

「クソー!…………あれ?」

ケルが何かに気づいた。

「地面だ……」

「そりゃ、そうだろ。」

「よく見ろ!」

ケルが叫びながら指差す先を、残りの3人は見つめた。よく見ると、川の水が徐々に引いているのである。どんどんと水かさが減り、地面が姿を表しだしたのだ。

「コレは一体!?」

「とりあえず、進んでみましょう!」

三蔵の疑問に、モモはとりあえず進言した。四人が少しずつ進んでいくと、何かが見えてきた。それは砂漠で見たのと似たような柱と、それに背中をよりかけて座る沙悟浄出会った。

「沙悟浄、大丈夫ですか!」

「師匠様、多少お待たせしました……」

「無事で何よりです!」

「水中を猪突していたら、何かが上から衝突してきて……」

「そんな!」

「意識を喪失してしまい、先ほど目が覚めて狂疾しました……」

ケルは沙悟浄の言葉を聞いて、悟空に話しかけた。

「オマエのせいじゃん。」

「居る場所なんて、分かルか!」

「後で、謝っとけよ。」

「………………」


沙悟浄が何とか破壊してくれたお札の効力が切れ、小さな小川が流れるだけとなった。沙悟浄を瓢箪の中に入れ、一行は再び都へと進むのであった。この時、誰もが想像もしていなかった。


目の前の試練と、後ろから迫る脅威に。

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