二度目
モモ・ケル・悟空の3人は、順番に見張りをしながら夜が明けるのを待った。沙悟浄と猪八戒をひょうたんに戻し、三蔵と共に休ませた。太陽が頭を出し、明るくなる頃には全員が起きた。青空が出る頃には準備が整い、目の前の試練に立ち向かう所であった。川の中に有るであろうお札を、沙悟浄に破壊してもらう。それまで残りの面々は、不測の事態に備えて、川岸で待機となった。
「それでは、それがし、お出ましです。」
「頼みましたよ、沙悟浄。」
「サっサと片づけてこいよ!」
ザブンと沙悟浄は、荒波渦巻く河に飛び込んだ。だだっ広い水の中を探して貰うほか無かった。すぐに沙悟浄の姿は、見えなくなった。ただ待つしかなかった面々なので、少し離れた場所でモモとケルは話を始めた。
「なぁ?」
「なんだよケル。」
「気になる事があってよ。」
「お札の事か?」
「あぁ。」
「もう一枚も有るが、たぶん……」
「それは今はいいや。目の前の試練が解決しないうちに、新しい不安は聞きたくねぇ。」
「確かに。」
「オレが気になってるのは、山姥の事だ。」
「なんで?」
ケルは頭をポリポリ掻きつつ、思い出しながら話す。
「確かモモ、言ったよな?」
「何を???」
「お札は、
「あぁ……」
「もしかして、まだ追ってきてんじゃねぇかって。気になってな。」
「うーん……確か、お札3枚とも逃げる為に使ってたから討伐用では無かったな。」
「………………」
「でもさ、俺たちでぶっ飛ばしただろ?」
「だと良いが…………」
「倒れて砂に埋もれたし。」
「砂は消えたぞ。」
「あっ………………」
「死体の確認してないし、気絶してただけとか。」
「まぁ、また来たら何とかしようぜ。」
「ヘイヘイ……」
二人が話しているところに、悟空が割ってきた。
「なに話してルんだ?」
「お前が間抜けだって、話。」
「なんだと!」
「うるさ。」
「なんか、大事な話してただろ?」
「この世界の住人には、刺激が強すぎてダメだ。」
「お前もそうだろ!」
「オレは良いの。」
「本当に嫌な奴だな。」
「突然、襲いかかる野蛮な猿に言われたくないね。」
「なんだ、やルか?」
「やってやるよ。」
悟空とケルは、それぞれの得物に手をかける。と同時に、モモが割って入る。
「やめろやめろ。」
「止めルなよ!」
「喧嘩するなら、敵としろ。」
「目の前に居ルだろ。」
「分かった分かった……」
モモが呆れていると、川岸の三蔵法師が呼ぶ声がした。
「皆さん、来てください!」
「どうしましたか?」
「何かが近づいてきてます!」
「沙悟浄さんが、帰って来たんですかね。」
「その割には、ゆっくりなんですよ。」
「本当だ。しかも、なんか、大きいな。」
水中の影は徐々に近づいてくる。モモとケルは、三蔵を挟んで見つめる。明らかに大きい影が、水面に近づいてきた。警戒を強めようとした瞬間、水中から二本の腕が飛び出してきた。そして、腕たちはモモとケルの胸ぐらをそれぞれ掴むと、川の方へと思いっきり投げ飛ばした。
「「うおぉー!」」
二人は叫びながら空中を舞い、ザバーンと川に投げ込まれた。急いで水面に上がると、三蔵の目の前には巨体が立ちはだかっていた。その巨体には、全員が見覚えがあった。
「バッバッバッ!三蔵、見つけたぞ!!!」
「ひっ……」
砂漠で倒したと思っていた、山姥である。
「邪魔者2人は、川の中。すぐに喰っちまうぜ!」
「ヤバイ!早く戻らなきゃ!!!」
モモとケルは急いで戻ろうとするも、川の流れは早すぎて全く進まない。真っ直ぐに岸に、進めないのである。その場に留まる事で精一杯なのである。
「バッバッバッ!肉塊になりな!!!」
「悟空ー!はやくきてーーー!!!」
三蔵の叫び声ごと切り裂こうと、山姥の包丁が振り下ろされる。みるみる落ちる刃を、誰も防げないでいた。一人、いや一匹を除いて。
「うきゃぁー!」
山姥の包丁を、伸ばした如意棒で受け止めた。
「なに!?」
「こっちに来なサい!」
如意棒を巧みに操り、山姥を絡め取る。そして如意棒を短くすると、三蔵から自身の方へと山姥を手繰り寄せた。ギュイインと勢いよく引っ張られ、山姥は転がりながら悟空の足元に倒れ込む。
「おらを騙したばばぁ、生きてやがったのか。」
「この間の猿!」
「とどめ、きちんとサしてやル!」
「山姥、舐めるんじゃないよ!!!」
山姥は包丁を振り回す。悟空は身軽にかわし続ける。ヒラリヒラリと避けながら、嘲笑う。
「体がでかいだけの木偶の棒すぎルな。」
「小癪なー!」
二人の戦いを、ケルとモモは眺めていた。川岸に少しずつではあるが、近づいてはいた。
「さすが孫悟空……なんて身のこなし…………」
「猿だからだろ。てか、ヤバイな。」
「何が?」
「あの山姥、前回と比べて早いくないか?」
「確かに。」
「強くなってるみたいだ。」
山姥の斬撃は、かなり早くなっていた。速さだけでなく、力も強くなっている様だった。包丁が地面に当たった時の粉砕具合が、物語っていた。
「逃げてばかりだな猿!」
「うルサいばばぁだな!」
悟空は斬撃をかいくぐり、山姥の懐へと潜り込む。そして、如意棒を突き出しながら伸ばす。勢いよく、悟空の一撃が山姥に打ち込まれた。しっかりと鳩尾に、如意棒の先端が突き刺さる。
「……………………」
「しゃあぁぁーーー!!!」
勝利の雄叫びを、悟空は上げる。山姥はゆっくりと、地面に倒れ込む。それを見届けると、悟空は踵を返して三蔵達の方へ歩き出した。
「悟空!」
「お師匠様ー、手こずル事も無かったよ。」
悟空は手を振りながら、歩く。が、突如、後ろから衝撃が襲ってきた。振り向くと、山姥が立っていた。そして、悟空の体の真ん中には、包丁が突き刺さっていた。
「なんで……立ってる…………」
「バッバッバッ!」
山姥は笑いながら、
「これを隠し持ってたから、当たらなかったんだよ!」
「…………な………………に……………………」
山姥は、実は包丁を2本も持っていたのだ。悟空は刺さった包丁で動けないでいると、山姥の新たな一撃が振り下ろされる。
「死ねぇ!猿ぅ!!!」
「………………」
うずくまる悟空に、山姥の左手の包丁が迫る。そしてその一撃は、切り裂いた。
ズバアァァッッッ!!!!!!
山姥の斬撃の後には、何も無かった。
「どこ行った!?」
山姥が辺りを見回すも、どこにも悟空の姿は見当たらない。
「ここに居ルぞ!」
どこからか、悟空の声がした。それは、山姥の足元だった。すぐに山姥は覗き込んだ。いや、
「伸びろ、如意棒!!!」
ギュイインと音を立てて、如意棒は伸びる。覗き込んだ山姥の眉間に、しっかりぶち当たる。先端がめり込むほどの勢いと力で、山姥は宙を舞った。グルングルンと大きな巨体を、大きく回転させる。そのまま弧を描き、モモたちの居る場所より遥か彼方の水面に落ちていった。ドッバッシャーーンと巨大な水柱を上げると、そのまま辺りは静寂に包まれた。
「しゃああぁぁぁーーー!!!!!!」
悟空の雄叫びが響き渡る事で、勝利の勝鬨となった。
「あの猿、やりやがったな……」
「さすが、斉天大聖……」
「まぁ、本当に倒したかは分かんねぇけど。」
「………………」
モモとケルは川の中で流れに逆らいながら、今の戦いについて話していた。すると目の前に、棒が現れた。見ると、川岸から悟空が如意棒を伸ばしていたのである。
「おーい、捕まりなサれ!」
「ありがとう!」
モモはしっかりと、ケルは渋々、如意棒に捕まった。そして縮んでいくと共に川岸に手繰り寄せられ、なんとか川から這い上がることが出来た。
「お二人とも、大丈夫でしたか?私が呼んだばっかりに……」
「いえいえ、法師様のせいでは。」
「山姥は、もう来ませんでしょうか?」
「分かりませんが、とりあえず警戒は続けましょう。」
再び4人は、沙悟浄の帰りを待つ事となった。
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