渡来人

 モモたち一行は、砂漠から戻った平野を地図の通りに進んでいった。広々とした穏やかな中を、4人は進んでいく。徐々に水の流れる音が、聞こえ出した。

「お師匠サま、このサき川が有ルみたいです。」

「えぇ。地図にも書いてあります。そこまで大きくはないようです。」

「それなら、おらが運びますから!」

「頼みましたよ、悟空。」

進んでいく一行に、川は見えずとも、流れる音は聞こえてくる。


サー……

「そろそろでしょうか?」

ザー……

「おっ、近そうじゃん!」

ゴー……

「もしかしたら……」


聞こえてくる音は、徐々に大きくなっていく。とうとう一行の目の前に川が現れた。

「でかすぎルーーー!!!」

悟空の叫びに、他の3人は息を呑む。目の前の川は、川というには、大きく、広く、激流だった。対岸は見えず、海のようだった。しかし、海と呼ぶには荒々しく、雨の無い嵐のようだった。

「コレも、砂漠と同じような幻覚でしょうか……」

「だと思います。ただ、お札をなんとかしないと…………」

「日も暮れてきましたし、今日はココで休みましょう。」

「そうですね。明日また、考えましょう。」

三蔵とモモは話し合い、ひとまず川岸で休息する事になった。ケルが火薬で火をつけ、焚き火を囲った。モモとケルは、それぞれ手持ちの食料を食べていた。三蔵達も同じように食べていたが、多めに取り出して、二人に分けた。

「もしよろしければ、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「助けていただいた恩には、足りませんが。」

「旨そう!」

「卑しく食べルな〜」

「うるせっ!」

4人が食事していると、どこからともなく音がした。コンコンと木を叩く音であった。出どころをモモとケルと悟空が警戒していると、三蔵は懐からひょうたんを取り出した。そして蓋を開け逆さにすると、中から猪八戒と沙悟浄が出てきた。

「なんだ、お前らが立てル音か。」

「ブー、悟空ぅ〜」

猪八戒は悟空に抱きついた。沙悟浄は三蔵法師に話しかけた。

「師匠、後生です。多少お話させて貰っても?」

「私は構いませんよ。」

そう言われると沙悟浄は、モモとケルに向き直った。

「先刻は、地獄の鬼のような山姥への容赦ない対応に、相応の感謝。」

「どうも……」

「この河川との対戦に、それがしも参戦。」

「お願いします。たぶん川の中に、お札は有るとは思います。」

「お札の破壊、了解!」

「はい……」

独特な沙悟浄の話し方に、モモは笑いを堪えていた。ケルはズケズケと突っ込んだ。

「もっと、普通に喋れないのか?」

「失礼。いつもの癖で、話してしまって非礼。」

「あんま変わって無いけど、良いや。」

「気になる事を聞いても良いかい、了解?」

「了解は、してないけど。」

モモの方を向いて、沙悟浄は尋ねた。

「あなたまさか、【渡来人】ですか?」

「と、渡来人?」

「えぇ、別の世界から来た人間の事です。一見、分からない。」

「えぇ。実は……」

「やはり、ズバリ。」

「なんで、分かったんですか?」

「世界については詳しくない。しかし、この世界の住人については、やたら詳しい。」

「確かに……」

「それが、渡来人の特徴と主張されてます。」

「なるほど……」

二人の会話に、ケルが口を挟む。

「て事は、モモ以外にも居るのか!別の世界から来たって奴が。」

「いや、噂の範疇。それがしの心中、驚きしかない。」

「そうなのか〜」

「出会う事自体、初見の経験。詳細を知らなくて後悔。申し訳ない。」

「仕方ないさ。」

ケルはモモの方を向いて、話しかけた。

「残念だったな……」

「何が?」

「帰る方法、分からなくて。」

「しょうがないさ。ただ、希望は見えたな。」

「そうか?」

「噂程度であれ、この世界には多少なりとも人が来てるんだ。帰る方法も有るだろ。」

「確かにな。」

「それまで、頑張ろうや!」

「えぇ……」

「嫌そうだな。」

「オレは自分の記憶を戻す方が大事だから。」

「はぁ?いろいろ助けてやったんだから。最後まで付き合えよ!」

「ヘイヘイ。」

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