朽ちた柱

 悟空の案内で、モモ・ケル・三蔵は砂漠を進む。厳しい日差しと、砂の大地の照り返し。酷く乾いた風に、柔らかい地面。あらゆる物に体力を奪われながら、一行は進む。やがて、目の前に砂漠に刺さった1本の柱が見えた。直上からの日光で影は無いため、見落としそうになる程の物だった。

「コレか……」

「なんでしょうね……」

「おら、これしか見てない。」

「ただのゴミだろ。」

睨み合うケルと悟空を尻目に、モモと三蔵は柱を観察する。いかにも、朽ちた柱といった感じである。廃墟の残骸だとするには、他に何も見当たらない。不自然なほど、まっすぐ刺さっていた。

「モモさん、コレはなんでしょうね?」

「分かりません。ただ、違和感しか無い物体ではあります。」

「他に手がかりになりそうな物は……あっ!」

柱を見回った三蔵は、何かを見つけたのか声を上げた。残りの3人も近づくと、そこには1枚のお札が貼られていた。

「なんだこりゃ?」

「下手にサわルな!」

「あぁ!?」

お札に触れようとするケルを、悟空が制止する。言い方が悪く、争いが起きそうになった。

「三蔵さん、このお札は?」

「分かりません。書いてある文字も読めませんし、見たことも無いです……」

「そうですか…………」

手詰まりになった事は、明確だった。どうしたものかと悩む一行の中、ケルはモモに小声で聞いた。

「なぁ?」

「なんだよ?」

「あの猿より、オレの方が強いよな???」

「どうでも良い。」

「よくはねぇ!」

「生きるか死ぬか、瀬戸際だぞ。」

「そうは言ってもよ、分かんねぇんじゃな〜」

「………………」

モモは黙るしかなかった。

「なんか無いのか?」

「なんかって?」

「昔話とか、おとぎ話に無いのか?」

「うーん…………」

「お札とか、柱とか、砂漠が出てくる様なのさ〜」

「えーと……うーんと……あーと…………」

「こりゃ、ダメかもな………………」

「………………………………あ。」

ケルが諦めるのと同時に、モモは思い出した。そしてゆっくりとお札に近づいた。

「どうしたんだ、モモサん?」

「???」

悟空と三蔵の言葉を無視して、モモは


「「「えええぇぇぇっっっ!!!!!!」」」


ケル・悟空・三蔵は驚いた。得体の知れない物を、急に当たり前のように破壊したからだ。お札は無数の紙片となり、風に運ばれ消えていった。あまりの事に、悟空はモモに飛びついた。

「モモサん!何してんだ!!!」

「やっぱり……」

「やっぱり、なんですか?敵に回ルんですか!」

「見てくれ。」

そう言ってモモは、地面を指さした。悟空が指の先を見ると、そこには草が生えていた。砂漠の真ん中に、青々とした草である。しかも草はそのまま砂漠に広がり、いつの間にやら周囲から砂は消え、草花が広がる平野に変わっていた。

「なんじゃこりゃーーー!!!」

「砂漠はどこへ……」

驚く悟空と三蔵に、モモは説明を始めた。

「おそらく、さっきのお札が砂漠の幻覚を見せていたんです。そのせいで地図に従っても、辿り着かなかったんだと思います。」

「そうでした。」

「おめぇ、スゲェな!よく分かルな!!!」

「アハハハハ……」

モモは笑うしかなかった。小声でケルが、尋ねた。

「まさか、賭けじゃなかっただろうな?」

「まぁな。」

「もし違ったら、どうするつもりだったんだよ?」

「その時は、その時よ。」

「ハァ……」

「有名な昔話に、お札で砂の山を作る話が有るんだよ。」

「へー。でも、お札と砂だけじゃ、分からないだろ?」

「そうだな。ただ、その話は、山姥から逃げる為に砂山を作るんだ。」

「あのババァも、手がかりの一部だったのか。」

「そういう事。」

「平野に戻ったから、これで一安心だな……」

「…………………………」

「なんだよ?」

「多分、油断は出来ないぞ。」

「なんで?」

「予想が正しければ、…………」

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