斉天大聖

 「どうかされましたか?」

「いえ。少し気になる事があって。」

三蔵の質問に、モモは多少はぐらかした。どこまで三蔵たちに介入して良いのか分からず、直接的に残りの登場人物について尋ねてるのははばかられたからだ。少し言い澱むモモの後ろから、ケルが急に叫んだ。

「おい!何か来るぞ!!!」

「えっ!?」

ケルが指差す方向をモモが見ると、空から何かが飛んできた。こちらに目掛けて一直線で飛んでくる物体は、近づくにつれて正体がわかり始めた。

「雲!」

「雲があんな速さで飛ぶか?しかも色がだぜ?」

「まさか!!!」

「なんだぁ?」

モモが正体に気づいた時には、既に雲は目の前にいた。雲からは、棒と言葉が飛び出した。


「お師匠サまに、何してやがルーーー!!!」


「!?」

ケルは咄嗟に銃を抜き、棒を迎え撃った。そのぶつかり合いにより、とてつもない衝撃と、ガキィンッという大きな金属音が生まれた。それによって起こった砂煙で、ケルと雲は見えなくなった。ようやく落ち着くと、モモと三蔵は原因へと目を向けた。そこには銃を持つケルと、棒を持った猿がいた。猿というには顔には顔が白く、赤い線が少し入っていた。全身には毛がびっしりと生え、長い尻尾も付いていた。

「なんだテメェ!」

「こっちの台詞だ!」

猿は体を回転させると同時に、棒の反対側でケルの銃を叩く。あまりの威力に、銃を落としてしまった。即もう一つの銃を構えて撃つも、前転・側転・宙返りと身軽に動いて避けられる。弾が切れてしまったので、ホルスターにしまった。ケルは猿と距離があると思い大丈夫だと思ったのだ。しかし、上手くいかなかった。ケルの鳩尾みぞおちに何かが当たった。それは猿の持っていた棒であった。離れた場所から、のだ。

「グフゥ……」

「うっしゃー!」

ケルは前のめりに倒れ込んだ所に、猿は棒を短くして近づく。とどめの一撃を振り下ろすも、ケルは銃で受け止めた。そして、もう片方の手に持った、はたき落とされていた銃の引き金を引いた。弾丸は猿の頬を掠め、少し血が流れた。すぐに猿は距離を取り、次の一手に出ようとした。だが二人の争いは、それぞれの上役から中断させられた。

「ケル!止めろ!!!」

「悟空、やめなさい!」

ケルはモモに羽交い締めにされ、猿の目の前に三蔵は立ちはだかった。

「何すんだモモ!アイツぶっとばしてやる!!!」

「やめろやめろ!」

「なんで!?先に襲ってきたのは、アイツだぞ!!」

「いいからいいから!」

モモが抑えながらチラリと三蔵を見ると、同じように猿は叱られていた。

「悟空!何をしてるんですか!」

「何って、敵を倒そうとしたんじゃないか!」

「彼らは私達を助けてくれたんです!!!」

「何を言ってルんですか!」

「本当の事です。」

「あんな怪しい奴らが、なんでお師匠様を助けなサルんですか!」

「我々が人助けするのに、理由が有りますか?」

「………………………………」

三蔵の言葉に、猿は黙るしかなかった。三蔵はケルたちに近づくと、頭を下げて謝った。

「私の弟子が、すみませんでした。」

「なんだ仲間だったのか!」

「えぇ。仲間想いの良い者なのです。」

「なるほどね〜」

「ただ、頭に血が登ると、深く考えられない性格で。あなた方を敵だと思い込んでしまった様で。」

「そうだったのか……」

ケルは落ち着くと、両手の銃をしまった。猿も棒を仕舞うと、二人に近づいてきた。そして三蔵と同じ様に謝った。

「ごめんなサい。」

「良いって、事よ。」

「お師匠サんは、敵によく狙われルから勘違いしちゃって……」

「大変だな〜」

「わルかった!」

「許してやるよ。」

「本当か!」

「まぁ、あのまま戦っても、オレが勝ってたし。」

「はぁ!?おらの方が勝ってただろ!!!」

「何を!?」

「「やるかぁーーー???」」

何故か言い争いが生まれ、ケルと猿は再び戦闘が始まろうとしてしまった。すると三蔵は、何かブツブツと呪文を唱え出した。ギギギィ、という音が辺りに響く。それと同時に、猿は頭を抑えながら、泣き叫んだ。

「あぁー!頭がぁ!!痛い痛い痛い!!!」

「縺ゅ◆縺セ縺励a縺励a繧「繧ソ繝槭す繝。繧キ繝。…………」

「痛い痛い痛いぃー!ごめんなさいーーー!!!」

猿の泣き叫ぶ声が、砂漠に響き渡った。



「おらの名前は、孫悟空!お師匠サま、三蔵法師サまの一番弟子!よろしくな!」

「どうも。自分は桃太郎、モモって呼んで下さい。隣のコイツは、ケルベロスのケル。」

「ヘッ……」

猿こと孫悟空は、モモとケルに挨拶した。先程の争いで機嫌の悪いケルに変わって、モモが自己紹介をした。モモ、ケル、悟空、三蔵は、事の始まりについて話を始めた。

「私たち一行は都を目指して、この砂漠に入りました。地図の通りに進んでいるはずがなかなか着かず困っていると、老婆が倒れていたんです。」

「そのばあサんを助けル為に、おらだけサきに砂漠を抜けようとしたんだ。でも全く砂漠が終わらないから、罠だと思って急いで引き返したんだ!」

「なるほど。山姥の仕業か。敵を減らして襲う魂胆だったが、通りがかりの俺たちに撃退されたと。」

「一番弟子のくせに、敵の罠も分かんねぇのかよ……」

ケルは悟空を挑発した。

「なんだとー!」

「やるかー?」

「おらの方が強い事、叩き込んでやろうか!」

「その前にオレの鉛玉を、撃ち込んでやるが?」

バチバチの言い争いに、モモが口を挟む。

「喧嘩すんな。とりあえず、砂漠を抜けることが先決だ。このままココにいても、暑いだけだ。何か手がかりが有れば……」

「どこ見ても砂しかねぇ。」

「おら、空から見たけど、四方八方、果てまで砂しかなかったな。」

「そうか……うん?」

「どうしたモモ?」

「いや、俺とケルが砂漠に入ってから、そんなに進んでいないはず。」

「そうだな。砂山を二つ、三つ超えたくらいか?」

「にも関わらず、砂しか見えなかったって、変だろ???」

「あー、確かに。この猿の目が節穴じゃなければな。」

「ハァー!」

ケルと悟空が喧嘩を始める前に、三蔵が話を続けた。

「つまり、何かしら原因が有ると。」

「ええぇ。」

「なんでしょうかね?山姥が原因なら、倒した時点で戻るでしょうし。」

「他に理由が有るのかもしれませんね。」

「悟空、砂以外に何か見ませんでしたか。」

「おら、なんも見てねぇ!」

「何でも良いんです。」

「うー…………ん………………」

悟空は三蔵に促され、思い出そうとする。しかし何も出てきそうにない。

「うーん……うーん…………うーん………………」

「こう言い換えましょう。砂以外で見たものを全て言いなさい。そこに手がかりが有るかもしれません。」

「砂以外だと……うーん……あ!」

「何か思い出しましたな?」

「朽ちた柱みたいなのが、ササってただ。」

「それに何の意味があるんだよ?」

ケルが悟空に突っかかる。言い争いが始まる前に、モモが先に口を出した。

「とりあえず、そこに行ってみよう。悟空さん、案内をお願いします。」

「おっす!」

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