シグナル・トラブル

黄色い平野

 「なぁ……」

「………………」

「オレ達、道を間違えたのか…………」

「そんなはずは無い…………」

「でもよ、道なりに進んで行ったら平野に出るはずだろ?」

「別れ道もなかったし、真っ直ぐ進んでいたぞ。」

拳銃を両側に携えた男と、刀を差した男が並んで話していた。二人の目の前には、広大な雄大なが広がっていた。

「どうするよ、モモ。」

「うーん……」

「戻って道を探すかー」

「その前に。」

「なんだよ???」

「ケルは、この砂漠が平野だと思うか?」

刀の男モモは、二丁拳銃のケルに尋ねた。辺り一帯を見渡してから、ケルはモモを向いて質問に答えた。

「可能性は……有るかもな…………」

「突然の砂漠化か。」

「仮にココが元平野だとしてもだ。道が無いんじゃ道なりに進めやしねぇ……」

「戻ろう。」

「ヘイヘイ。それに、砂漠を越える装備や準備も無いしな。」

二人が今まで来た道を戻ろうと、振り返りトボトボ歩きだした。その瞬間、沈黙を引き裂く悲鳴が聞こえてきた。

「キャアアアァァァーーー!!!!!!」

その声は、先程まで二人が眺めていた砂漠の方からだった。砂の山で何も見えなかったが、何か事件が起きたのは間違いなかった。

「今の悲鳴って……」

「行くぞ!ケル!!!」

「モモ、待ってくれ〜!」

二人は走って、砂漠を進む。いくつかの砂山を越えると、数人の集まりが見えた。よく見ると、三人組が1人に詰め寄られている様だった。人数的には優位であったが、どう見ても詰め寄る1人の図体が大きかった。

「アレか!」

「ナンダあのバーさん……デカすぎんだろ…………」

「とにかく、急げ!!!」

「ヘイヘイ!」


「見つけたぞ〜」

「こんな事、お止めなさい!」

「バッバッバッ。徳の高い僧の肉は、旨いだろうなぁ〜」

「ようやく……辿り着いたのに…………」

巨体の老婆が、じりじりと僧侶に近づく。僧侶の御供2人が間に入り、守ろうと武器を構えた。

「ブー!法師様は我らが守るブー!」

「不届き千万!万死に該当!!頭部の皿に、誓って武闘!!!」

「猪八戒!沙悟浄!ここは逃げましょう!!!」

僧侶は御供に命じるも、先に動いたのは老婆だった。

「ブタとカッパ。不味そうなお前ら後回しだ!」

叫ぶと同時に、手にした包丁で御供達を斬りつけた。巨体に合った大きさの刃から繰り出された斬撃に、ブタとカッパはいとも容易くズタボロにされてしまった。

「ブー……」

「残念、無念、年貢の納め時…………」

「あぁ!二人とも!!!」

傷つき倒れる二人に、僧侶は駆け寄る。それを見越した老婆は、次の一撃を繰り出していた。大きく振りかぶり、地面ごと切り裂こうと僧侶に包丁を振り下ろした。


ガアァギイィィッッッーーー!!!


大きな大きな、金属と金属がぶつかる音が響き渡る。その爆音は、老婆と僧侶の間から生まれていた。包丁と刀が刃を交えていたのである。

「なんだお前!?」

「通りすがりの桃太郎、さ。」

モモが刀で、老婆を押し返した。その力と勢いで、巨体は砂漠の地面に転がった。モモは後ろの僧侶に振り返ると、声をかけた。

「大丈夫ですか!」

「はい……」

「良かった〜」

「あなたは?」

「悲鳴を聞いて、駆けつけた者です。桃太郎って、言います。」

「ありがとうございまっ危ない!」

喋る二人に、忍び寄っていた人物。老婆の巨体で陽が隠れ、モモと僧侶は影に覆われていた。

「邪魔なガキ!死ねえぇぇ!!!」

「このババァ!!!!!!」

老婆とモモ、お互い武器を構えた。包丁と刀による斬撃のぶつかり合いで、何度も火花が散った。しかし老婆の巨体からほとばしる力に、モモは押され出した。地面が砂のせいか、いつもより踏ん張れず沈み込んでしまう。重い一撃を受け止めたモモの背後から、別の声が叫んだ。

「モモ!伏せろ!!!」

聞こえた瞬間、振り返りもせずモモはしゃがんだ。それにより老婆は急に支えを失い、よろめいた。倒れそうになる体に、何かきらめく物が数個ぶつかった。小さな金属の筒の様な物だった。正体を老婆が思案する前に、その物体は爆発した。

「ぎいやぁー!!!」

「弾の代わりに火薬を詰めた、よ!」

ケルは右手に持った銃から出る煙を、フッと吹き消した。老婆に投げつけた薬莢を、正確に撃って爆破させていたのだ。あまりの威力に老婆の巨体は崩れ落ち、仰向けに倒れた。再び動き出すかもしれないと全員が注視していたが、何も起こらなかった。そのまま砂に埋もれ、砂漠に吸い込まれてしまった様に、消えていった。



ひと段落ついたので、モモとケルは助けた僧侶たちと話を始めた。

「先程は、本当にありがとうございました。」

「いえ、たまたま近くに居たので。お二人は大丈夫ですか?」

「ブー……厳しいブー…………」

「負傷、不覚。フラフラです………………」

「痛むでしょうから、休んでいなさい。」

僧侶は懐から、ひょうたんを取り出した。それをブタとカッパにかざし、名前を呼んだ。

「猪八戒。」

「ブー、はいブー」

「沙悟浄。」

「はい。ワイです。」

二人はスルスルッと、ひょうたんの中に吸い込まれた。その光景に、モモとケルは驚いた。

「えっ!?」

「消えたぜ……」

「これは、名前を呼ばれ返事をした者を吸い込む物なのです。中は空洞なので、しばらく休んでもらう事にしました。」

僧侶は説明を終えると、大事そうに懐にしまった。ケルは気になる事が多いのか、質問を始めた。

「アンタ、良いのかい?」

「なんでしょう?」

「一人になったが、オレたちのことを信用してるのか?」

「えぇ、助けていただきましたし。」

「第三勢力かもよ?」

「そうは、見えませんが。」

「人を見かけで判断しちゃあ、いけないぜ!」

「そんな事を仰る時点で、大丈夫だと思いますが?」

「まぁ、たしかに。」

ケルと話している間に名乗っていない事を思い出したのか、僧侶はペコリと一瞥すると、挨拶を始めた。

「申し遅れましたが、私は三蔵という者です。先程の二人は、猪八戒と沙悟浄。私の弟子です。」

「オレはケル。こっちは桃太郎のモモだ!」

「ケルさん、モモさん、本当にありがとうございました。」

「いえいえ。それにしても、なんで砂漠に?」

「我々は、都を目指してまして。」

「「みやこ!!!」」

三蔵の言葉に、モモとケルは驚いた。

「どっ、どうかされましたか?」

「実は、自分とケルも都を目指してまして。」

「そうでしたか。」

「ただ、砂漠があるとは知らなかったので引き返そうとしてたんです。」

「なるほど。そのような事情が。」

「都は、どうすれば辿り着くんでしょうか?」

「地図によれば、北に真っ直ぐ進めば着く……はずなのです。」

「はず……ですか…………」

モモは三蔵の言葉に引っかかった。が、すぐに三蔵は違和感の正体を説明してくれた。

「えぇ。この砂漠に足を踏み入れてから、どうにも方角が合わず。」

「さっきの老婆のせいですかね?」

「いえ。あの老婆、いや山姥やまんばとは関係が無いと思います。あの者も、迷っていた様なので。」

「そうですか。」

2人の会話を聞きながら、周囲を警戒していたケルがモモに小声で話しかける。

「なぁ。」

「なんだよ?」

「山姥、ってなに?」

「簡単に言えば、山に住む人喰いの怪物かな?」

「へぇー。でもココ、山じゃなくて砂漠だぞ。」

「山から降りる事もあるだろ。」

「確かに。」

モモはチラリと三蔵を見て、ケルに小声で解説を始めた。

「あと、この人たちは良い人たちだと思う。」

「なんで?」

「有名な昔話の人だからさ。」

「ヘイヘイ。」

「『西遊記』って、話。でも待てよ……」

「どうした?」

「もし西遊記なら…………」

「ん?」

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