長老:超ロング

 モモとケルの二人は、来た道を戻り山の麓へと戻って来た。金太郎についての情報を集める為に、二手に分かれて探索する事にした。

「とりあえず、この山沿いを二手に分かれて歩こう。途中で出会った人や動物に話を聞いて、合流したら情報を交換しよう。」

「常に切り株や茶色い斜面が見えてりゃ、迷う事も無いしな。」

「上手くいけば、この道の真反対に着くはずだ。」

「敵に、やられんなよ?」

「そっちこそ。というか、サボるなよ。」

「ヘイヘイ。」

二人は拳をぶつけ合うと、それぞれ山の外周を歩き出した。モモは周りの景色を観察しつつ、ゆっくりと歩を進めた。切り株に足を取られない様に気をつけつつ、手がかりがないか探しまわる。動物たちは影も形も無く、延々と切り株の山のそばを歩き続けた。

「周囲の偵察とか観察は、ケルの方が上手いんだよな。あいつは鼻がきくから。」

独り言をボヤきながら、進んでいった。モモは地形や景色、太陽の位置から恐らく半周したが、ケルの姿は無かった。少し周囲を見渡しながら待つも、一向に来ない。情報収集に時間が掛かっていると考え、さらに山の周囲を進む事にした。歩いても全く気配が無く、手掛かりも無かった。


 4分の3ほど歩いた所で、何やら気配がした。モモが近づくと、会話が聞こえ始めた。

「わしの若い頃は、本当にモテたんだデ!」

「だから、その話は、さっきも聞いたよ。とにかく、金太郎について、教えてくれよ。」

「金曜日!今日は金曜日か!!集会に行くデ!!!」

「違くて、金・太・郎!」

「みんな集まったら、好みの子を探すんだデ。押して押して押す!押してダメなら、押してみるんだデ!」

「このエロジジイ、話にならねぇ……」

「なにイヌッコロ!年寄りは大事にするんだデ!」

「大事にされたきゃ、ちゃんとしろよ!!!」

言い争いが、ケルと知らない声で行われていた。徐々に近づくにつれ、木の枝の上にリスが居るのが分かった。モモはケルに声をかけた。

「こんな所に居たのか。」

「おぉ、モモ!」

「半周しても居ないから、探しに来てみれば……」

「歩いてる途中で、リスのじいさんに出会ってさ。話を聞いてみたんだよ。」

「手掛かりあったか?」

「それがさ、話は長いわ、関係無いわ、人の話は聞かないわ。最悪だよ…………」

二人が話している間にも、年老いたリスは1人で喋っていた。ケルに代わって、今度はモモが話しかけた。

「おじいさん、こんにちは。」

「人間か、珍しいデ。」

「この山について、教えて欲しいんですけど。」

「どの山だデ?」

「この切り株だらけの禿山です。」

「なに?誰がハゲじゃと!ワシはフサフサのサラサラだデ!」

「いや、毛じゃなくて。山ですやーま!」

「やんま?蜻蛉がどうしたんだデ?」

モモでも話が通じず、二人は困り果てた。今のところ出会ったのは、話の通じない年老いたリス1匹。このまま粘って情報を引き出すか、別の誰かを新たに探して話を聞くか。

「なぁ、モモどうする?他のヤツに話を聞いた方が良くね?」

「そうだな。俺が来た道を二人で歩いて、探そう。」

「そうしようぜ……疲れたよ…………」

「ご苦労さん。ただな、ここに来るまで全く気配が無いんだよな。誰も居ない可能性が有る。」

「マジかよー!じゃあ、じいさんの話を聞くしかないのか?」

「悩ましい……………………」

二人が悩んでいる所に、また別の声が聞こえてきた。その声は、年老いたリスに向けられていた。

「もう!ココは危ないから来ちゃダメって言ってるでしょ!!!」

「マロン、どうしたデ?家が心配で見に来たんだデ。」

「家はもう無いの!さぁ、帰るよ!」

「そうかそうか……」

若いリスが年寄りリスの世話をしながら、モモとケルに話しかけてきた。

「ごめんなさい、ウチのおじいちゃんが引き止めちゃったみたいで。お侍さんたち、旅の途中でしょ?」

「いや実は僕らが、おじいさんに話を聞こうとしてたんです。」

「あら、そうなの?」

「この切り株だらけの山と金太郎について、気になって。」

「金太郎に会ったの!!!」

「まぁ。山から出てけって怒られましたけど。」

「何事も無くて良かったわ。とりあえずココは危ないから、一緒に来て?落ち着いたら、全て話してあげる。」

「分かりました。行くぞケル。」


 モモは若いリスのマロンを、ケルは年寄りリスを肩に乗せ、二人と2匹は隣の山へと向かった。頂上に着くと、何匹か動物たちがいた。固まって何やら話していた所に、おじいさんとマロンは肩から降りると走っていた。そして何やら話すと、動物たちの集団はモモとケルを取り囲んだ。口々に何か喋るが数も多くて何も聞き取れず、困惑するしかなかった。

「うお!なんだなんだ!!!」

「マロンさん!?」

二人が右往左往していると、マロンが動物たちを一喝した。

「静かに!!!!!!」

腕を組み仁王立ちする姿に、全員が畏怖した。体の小さいリスなのに、一番の巨体に感じた。沈黙が辺りを占めると、マロンは話をはじめた。

「みんな言いたい事が有るのは分かるけど、一斉に言っちゃ分からないでしょ。それに、まだ助けてくれるって決まった訳じゃないんだから。まずは二人に、長老たちが事情を話すから。」

テキパキと進行するマロンを、見守る事しか出来ないモモとケル。その目の前に、2匹のリスが現れた。一緒に来た年寄りリスと、その姿に瓜二つなリスだった。

「二人がウチの山々の長老たち。双子なの。」

「「なるほど〜」」

マロンが二人に説明すると、長老たちが話を始めた。

「人間さん、よく来たチ!」

「本当によく来たデ!」

「お前さんは、さっき一緒に来ただろチ!」

「そうだったかデ?」

「お前は本当に、ボケてるチ!」

「そういうお前は、本当に臆病だデ!」

「なんだチ!」

「やるかデ!」

「さっさと話しなさい!!!」

2匹の喧嘩をマロンが怒って止める。二人はショボンとした後、話を始めた。

「金太郎と山の話だったかチ?」

「長くなるから、座ってくれだデ。」

話をする2匹の長老の前に座ったモモたち二人。

「元々わしらは、金太郎の山に住んでたんだチ。」

「緑豊かで、良かったデ。」

「金太郎は強くて優しくて、山の動物たちはみんな好きだったチ。」

「良いやつだったデ。」

「それが、ほんの数日前まで続いてたんだチ。」

「つい最近なのに、遠い昔の様だデ。」

「何かあったのか?鬼が来て、金太郎が操られたとか???」

ケルが長老の話に口を挟む。

「鬼なんて来てないチ。」

「来ても金太郎が、すぐに追い払うデ。」

「今の金太郎は、鬼より恐ろしいチ……」

「そうだデ…………」

2匹の長老は、金太郎の切り株だらけの山を指さした。二人は指のさされた方へと振り返った。

「山が見えるかチ?」

「山の頂上だデ。」

「そこに、

「湧いたんじゃなくて、出来たんだデ。」

「本当に驚いたチ。」

「何の前触れもなく、大きな泉が出来たんだデ。」

「泉……ですか…………」

モモが引っかかる中、2匹の長老の話は続く。

「水が湧いたにしては、大きかったチ。」

「山頂だから、川の水が流れて溜まった訳じゃないデ。」

「みんな初めて見た時は、驚いたデ。」

「恐ろしかったチ。」

「みんなでどうしようかと、相談したんだデ。」

「使うのか、埋めるのか、安全なのか分からなかったチ。」

「そしたら金太郎が、『とりあえず柵を作ろう。』って言ったんだデ。」

「深さも分からないから、溺れる動物もいる思ったチ。」

「泉のすぐ近くの木を切ろうと、金太郎がマサカリを振りかぶったんだデ。」

「ところがマサカリは、その勢いで泉に入ってしまったんだチ。」

「金太郎の手から、すっぽ抜けた様だったデ。」

「むしろ、感じだったチ。」

「みんなで泉に落ちたマサカリを見に行った途端、急に泉が光り出したんだデ。」

「眩しくて、見てられなかったチ。」

「泉が光ったのかよ!なんで!!!」

ケルは驚きのあまり、大声で理由を聞いた。

「光が弱まると、なんとんだデ。」

「えらい、ベッピンさんだったチ。」

「その人は、片手にそれぞれ金の斧と銀の斧を持ってたんだデ。」

「女の人は金太郎に向かって、『貴方が落としたのは、金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』って問いたんだチ。」

「金太郎は、マサカリが泉に落ちたり急に人間が現れたりで混乱してたデ。」

「だから正直に、『ちがう。おいのマサカリはふつうのくろいテツだ!』って言ったんだチ。」

「そしたら女の人は笑って、『貴方は正直者です。この斧を差し上げます。』って言ったんだデ。」

「金太郎が手を差し出して受け取ったのは、元々のマサカリに金色と銀色の刃が付いたマサカリになってたんだチ。」

「元のマサカリに戻してもらおうとしても、すぐに女の人は消えてしまったデ。」

「あの女の人は泉の女神様だと、思うんだチ。」

2匹の長老リスは話を続けるが、段々と表情は曇っていった。

「金太郎は渋々もらったマサカリを、使う事にしたんだデ。」

「これが……始まりだったチ…………」

「初めて使うマサカリを、切るつもりの木の横で1度、素振りをしたんだデ。」

「そしたら、ドッサアァッ!木が切れたんだチ。」

「何かの間違いだと、その場に居た動物たちと金太郎自身が思ったデ。」

「次はちゃんと切ろうと別の木に狙いを定めて、マサカリの刃を木に噛ませようと一振りしたんだチ。」

「普段は何度も木にマサカリを打ちつけて倒すのに、また一撃で切れてしまったんだデ。」

「しかも周りの木も、切れたんだチ。」

「えぇ!なんで!?!?」

あまりの出来事に、ケルは驚きの声を上げる。

「金太郎がおかしくなったのは、この後だデ。」

「あまりの切れ味のマサカリを担ぎ、ドンドンと木を切り倒し始めたんだチ。」

「我々リスや他の動物たちが家としている木だろうと、餌場になっている木だろうと、枯れてようが生え始めだろうが無関係だったデ。」

「制止する声も、嘆きも叫びも、金太郎には届かなかったチ。」

「山はたちまち、切り株だらけになってしまったデ。」

「住む所が無いから、他の山に厄介になるしかないチ。」

「あのマサカリの所為で、こんな事になってしまったデ。」

「でも、邪悪な感じはしないというか、むしろ神聖な感じなんだチ。」

「切る木が無くなった今、金太郎は他の山を狙ってるデ。」

「簡単には手が出せないが、切っ掛けが有れば即、切り倒すつもりチ。」

「どうか、助けて貰いたいデ!」

「お侍様、お願いするチ。」

長老たちが頭を下げてお願いすると、周囲の動物たちも同じ様に頼んだ。二人は黙って聞いていたが、モモは承諾する事にした。

「分かりました。なんとかしてみましょう。」

「本当ですか!ありがとうございますチ!!!」

「助かるデー!!」

「とりあえず今日は、策を練ろうと思います。明日、金太郎のところに行って話をしてみます。」

「分かったデ。」

「そうと決まれば、食事だチ。おーい、持ってきてくれー!」

長老が呼ぶと、何処からともなく多くの動物たちが現れた。手には様々な木の実・キノコ・魚などを持ち、モモとケルの二人の前に置いた。二人は持ってきた動物に分け与えたり、火をつけて調理をした。二人と動物たちのお祭り騒ぎは夜まで続いた。


 動物たちは寝静まり、起きているのはケルとモモだけだった。二人は火を挟んで、話をした。

「食った食ったぜ〜」

「お前は食べすぎだぞ、ケル。」

「しょうがないだろ?前に食べたのは、朝のキュウリだぜ?」

「まったく……」

「で、どうすんだモモ?策はあるのか?」

「一応な。」

「ならいいや。それにしても、何なんだろうな?」

「何が?」

「金太郎だよ。話を聞く限り、妙な感じだし。操られてるのか、鬼なのか、敵なのかっつーな。」

「俺の見立てじゃ、操られては無いな。鬼も直接は関係が無いだろうし。」

「ふーん。じゃあ、なんだってんだ?」

「おそらく金太郎は、。」

ケルは横になり、頭をかく。

「溺れてる、か。」

「そうだ。」

「なるほど。」

「急に何段階も何十倍も強化された武器を渡されてみろ。ほとんどの奴は虜になって、夢中になる。」

「そうなりゃ、周囲に気を配ったり、マトモな判断も出来なくなるな。」

「だから、金太郎はマサカリを振り続けた。」

「その結果が、切り株だらけの山だもんな。」

「力は力だ。大事なのは、使う者の意志だ。」

「オレたちも気をつけなきゃな。」

「なんで?」

モモは火を枝でいじった。

「モモの刀とオレの銃、泉に入れたら強くなるんかね〜」

「絶対やるな。」

「えー!?楽して強くなれるのに。」

「金太郎の二の舞がしたいなら、今ここで斬るぞ。」

「ヘイヘイ。冗談だよ。」

「そもそも、泉の女神らしき存在が、鬼と繋がってないとも言い切れないし。」

「結局、金太郎を倒して、正気に戻して、洗いざらい調べるしかないのか。」

「そうかもしれないな。」

「じゃ、明日に備えて寝るか。金太郎をハチノスにするのが、楽しみだ。」

「出番が有ったらな。」

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