禿山

 突如として茶色くなった山の調査に、モモとケルは向かっていた。モモは気力に満ち満ちていたが、ケルは全くやる気が無かった。

「なぁ、モモ……」

「なんだ?」

「逃げようぜ。こんな事しても、意味が無いだろ?」

「駄目だ。やるぞ。」

「なんでそんな、やる気なんだよ…………」

「理由は2つ。ひとつは、困ってる人が居るから。ふたつ、鬼が関わっている可能性が有るから。」

「大元を倒せば解決なんだし、先を急ごうぜ。」

「逃げたら、全国の河童に襲われるぞ。」

「そんなのオレが倒してやるよ!」

「そもそも!お前が!勝手に!きゅうりを!食うのが!悪いんだぞ!!!………………」

「ごめんなさい。」

二人は話しながら、徐々に目的の山に近づいていった。近づくにつれて、段々と分かってきた事があった。地面が剥き出しになっているのではなく、木があった。しかし根本の部分しか無く、上は全く無かった。切り株と枯れた草しかなく、それにより茶色く山が見えていたのだ。

「全部、切られてる……」

「なんでこんな事するのかね?木なんか、食べられやしないのに。」

二人は山の麓に着くと、山頂の方へと視線を向けた。見渡す限り切り株ばかりで、動物がいる気配もしなかった。山の中へと続いていそうな道があったので、そこから進むことにした。道の入り口付近にも切り株があったので、詳しく見てみることにした。

「ただの切り株だな。病気で倒れた訳でも無く、災害でダメになった訳でも無さそうだ。」

「ケル、切り株をよく見てみろ。」

「よく見ろって言われても、ただの切り株だぜ。」

「気にならないか?」

「???………………………………モモまさか!」

「そうだ、この切り株。」

「年輪がデカい!!!」

「ちがーーーう!」

ケルの頓珍漢な答えに、モモは思わず叫んでしまった。

「確かに年輪は大きいけど、違う。」

「じゃあ何?」

「この切り株、

「うーん、確かに。」

「木を切ったら、こんなになるか?斧なんて使ってたら、もっと凸凹するはずだ。」

「触るとツルツルするな。本当に綺麗に、スパッと切ってる。」

切り株の上を、ケルが触る。木の断面とは思えない触り心地で、手がつるつると滑るようだった。

「いったい、誰がこんな事を……」

「周囲の山が切られていないとなると、原因はこの山の中に有るだろうな。山頂に向かってみよう。道中、何が有るか分からないから気をつけろよ、ケル!」

「分かってるって。」

「頼んだぞ。」

切り株だらけの中を、二人は進んでいく。木が1本も無いため視界は開けているが、逆に恐怖だった。こちらからも、相手からも、丸見えだからだ。少し進むと、道の上に何かが立っていた。少しづつ近づくと、茶色い毛皮の熊だった。熊は2本の足で、ノッソノッソと歩いていた。二人はすぐに近くの切り株に身を潜め、熊が見えなくなるのを待つ事にした。

「熊いたのかよ!」

「そんな匂い、しなかったぞ。動物なんて居ないはずだが。というかモモ、熊って二足歩行だっけ?」

「違うはずだが、この世界は変わってるからな……」

「危ないヤツも居るしな。あと、暗くね?」

「確かに。山の天気は変わりやすいから、曇ってきたか?」

二人は空を見ようと同時に上を見ると、そこには太陽を遮るように恐ろしい熊の顔があった。

「………………………………」

「「熊だー!」」

叫ぶと同時に、急いで隣の切り株に身を隠す。走って逃げても追いつかれる上に、戦っても大変なので、相手の出方を伺うことにした。熊はゆっくりと、歩いて近づいてきた。ジッと二人を見つめていたところで、何かに気がつき四つん這いになった。四足歩行で二人に近づくと、急に声がした。

「おいのヤマでなにしてる?」

「「熊が喋った!」」

「クマじゃねぇ、おいだ。」

「「???」」

二人は切り株から少し顔を出すと、熊のすぐ近くには子供が立っていた。熊を撫でる子供は、背中がほとんど見える異様な格好だった。しかしそれ以上に異様なのは、担いでいたマサカリだった。子供の体の2・3倍ほどの大きさで、金色や銀色の刃や装飾があった。それを肩と片手で簡単に担いでいた。

「おまえ、サムライか?おいのヤマになんのヨウだ???」

「侍って、俺?」

「そうだよ。カタナさしてるだろ。」

「確かに。」

「で、なんのヨウだ。」

「いやちょっと、頼まれて。この山を見に来たっていうか。」

「まわりのヤマのケモノか?」

「いや違くて。遠くの方からだと急に山が茶色になった様に見えて、心配だから確認して来いって言われて。」

モモが正直に話すと、子供は熊を撫でるのをやめてジッと二人を見る。子供の真っ赤な腹掛けには金色の丸があり、その中には【金】という字が金色で書いてあった。

「そんなコトか。ならシンパイいらねぇ。」

「何故ですか?こんなにも切り株だらけなのに。」

「ぜんぶ、おいがやったからな。」

「えっ?」

「おいが、おいのヤマのキをきった。それだけだ。」

「たった数日で、そんな事が出来る訳ないじゃないですか。それに、山には動物たちも居たはずでは?」

「しるか。おいのヤマを、おいのすきにしてなにがわるい。」

「そんな横暴な!」

「とにかく、ヨソモノは出てけ。おいのキゲンは悪いんだ。それとも、おいのマサカリのサビになるか?」

「…………………………………………」

とても大きな斧を子供は、いとも容易く操ってモモに刃を向けた。二人が黙って立っていると、熊に跨り山の奥へと消えていった。


 モモとケルは、その場に座り話し合った。

「なんだあのガキ!ムカつくわ〜」

「…………」

「自分の山だからって、何しても良いのかよ!」

「……………………」

「まっ、原因も分かったし、カッパに報告してよ、サッサと都に行こうぜぇー」

「…………………………………………」

「モモ、どした?」

「おかしい…………」

「???……まぁ、おかしいわな、アタマが。」

「違うわ。」

「じゃあ何が?」

「あいつの言動だよ!金太郎は、あんな横暴じゃないはずだ。」

モモの発言に、ケルは首を傾げた。

「金太郎?アイツの名前か?名乗ったっけ???」

「体にデカデカと、【金】って書いてあったから間違いないと思う。」

「根拠、たったのそれだけかよ……」

「あと、熊に乗ってたし、マサカリも担いでた。」

「ヘイヘイ。というか、仮にアイツが金太郎だとして、なんで横暴じゃないって言えるんだ?」

「前にも言ったが、俺は別の世界から来た。その世界じゃ、金太郎は有名なんだ!」

「桃太郎と比べると、どっち?」

「そりゃ、桃太郎よ。」

「自分で自分のコト、有名って言うか?」

「俺は桃太郎だけど、桃太郎じゃないの!」

「なんじゃそりゃ。」

困惑するケルに、モモは話を続けた。

「とにかく!金太郎がおかしいのは間違いない。目も虚な感じだったし。」

「それはオレも思った。誰かに操られてるのかね?」

「可能性は有るな。鬼に操られて暴れてる可能性、とか。放っておいたら、他の山まで切り株だらけになってしまう。」

「じゃあ、追いかけて、ぶっ倒すか???」

「いや、とりあえず情報を集めよう。元々この山に住んでいた動物たちが、近隣の山に散ってるはずだ。金太郎が操られているとしたら、助ける手掛かりも有るはずだし。操ってる奴の正体に、目星もつけたい。」

「そうだな。あと、オレも気になる事がある。」

「なんだ、マサカリの事か?俺も気になっていた。あんな大きな物は見たコトないし、ただの鉄製じゃなかったな。」

「いや、違う。」

「じゃあ、なんだよ?」

「金太郎。あの格好は寒くないか???」

「クソが付く程、どうでもいいわ……」

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