ゴールデンアックス

川流れ

 「ハラヘッター!」

「だから、ちゃんと考えて食べろって、言っただろ!」

「頼むよ、分けてくれ〜」

「嫌だね。落ちてるものでも食べるんだな。」

刀を帯びた男に、食料をせびる黒衣の男。二人の男が、話しながら森の中の大きな道を歩いていた。

「それにしても、何時になったら都に着くんだよ……」

「まだ先だろうな。早く鬼や鬼ヶ島についての情報を、手に入れないと。」

「そうだな。」

「あと、仲間も増やしたいところではある。」

「サルとキジ、だっけか?弱そうだな。」

「コラ、そういう事は言うな。」

二人が進んでいくと、小さめの川が流れていた。飛び越して先を急ぐ事も出来たが、休憩を取る事にした。

「一旦、休もう。」

「そうだな、水は大事だ。」

「俺は飯を食うから。お前は水で腹一杯にするんだな。」

「ええぇぇ……」

「何も無いんだから、しょうがないだろ?どうしても食べたいなら、探すとか捕まえるしかない。」

「ヘイヘイ、じゃあ探してくるわ。」

黒衣の男は、川沿いを歩いて食料を探し始めた。もう一人の男は、食料の入った袋から少しだけ取り出すと、座って食べ始めた。干し肉のようだが、噛みごたえがあり、少量でも満足できるものだった。


 時間をかけて食べ切ると、黒衣の男が帰ってきた。

「随分と遅かったな。もう食べ終わったぞ。」

「いやそれがさ、コレを見つけたんだよ。」

「何を?」

「キュウリ!」

黒衣の男は小さい網を広げて、中に入っていた数本のきゅうりを見せた。

「歩いてたらさ、コイツが枝に引っかかって川にひたされてたんだよ。」

「…………」

「いやー、運が良い!」

「それ、他の人のキュウリだぞ………………」

「そうか?」

「そう。誰かが食べるために、わざわざ冷やしてたんじゃないか?」

「誰も居なかったし、人の気配もしなかったぞ。」

「だとしても、返しておけ。食べ物の恨みは怖いぞ。」

「まぁ、その時は謝るよ。」

「俺は知らないからな。」

黒衣の男は座ると、網からきゅうりを取り出して貪った。すぐに食べ切ると、水を飲む為に川に四つん這いで近づいた。顔を近づけて水を飲もうとしたところ、川の中に何かが居るのに気がついた。その瞬間、大きな水柱が立った。二人が身構えると、対岸に何かが1体いた。全身が緑の生命体だった。

「なんだアイツ!人?亀??亀人間???」

「河童か。」

「カッパって、なんだよ?」

「妖怪だ。」

「ヨウカイって、何の昔話の住人だ?」

「……………………」

二人が話していると、河童は黒衣の男を指さした。

「貴様、我輩の御馳走を盗んだな!」

「ごちそうなんて、知らないぞ?」

「では、貴様の持つ網はなんだ!」

「コレは、キュウリが入ってた網だが?」

「やはり盗んでるではないか!」

「キュウリがごちそうな訳…………あるか!!!」

二人が言い争っている横で、帯刀する男が黒衣の男に話しかけた。

「河童は、きゅうりが大好物なんだよ。」

「マジ!?」

「そう。だから、謝っておけ。」

「そうなのか……」

河童は川を飛び越え、二人の近くに寄る。黒衣の男は、謝るしかなかった。

「ごめんなさい!食べちゃいました!!!」

「何!?」

「お腹が空いてて、周りに人も居なくて、大丈夫かなと。」

「………………」

「謝るから、許してくれ。」

「謝罪は当然。容赦はせん!」

河童は右腕を引くと、突っ張りを黒衣の男に勢いよく繰り出した。


喝破かっぱ!!!」


「!?!?!?」

もの凄い力がぶつかり、黒衣の男は簡単に後ろに吹き飛ばされた。仰向けに倒れる男に、河童はノッシノッシとゆっくり歩を進める。流石にマズイと思い、右のホルスターから銃を抜き、倒れたまま河童に対して構えた。

「コレ以上は、コッチも引き金を引くぜ?」

「フン!堅固で堅牢な我が甲羅には無意味だな。」

「試してみるか?」

「無論、もちろん。」

お互いが引かない中、間に帯刀した男が割り込んだ。抜いた刀を河童に向け、開いた左の手の平を倒れている黒衣の男に向けた。

「そこまでだ。」

「邪魔すんなよ、モモ。コレはオレの勝負なんだから。」

「ダメだ。そもそも、お前が悪いし、無用な争いはするな。」

「でもよぉ……」

黒衣の男をなだめるモモと呼ばれた男は、河童にも話しかけた。

「きゅうりを勝手に食べたのは、こいつが悪い。申し訳ない。」

「…………」

「だか、これ以上やるなら、俺も手を出さざるを得ない。」

「ふむ。しかし、此奴の大罪、どう断罪する?」

「何か困っている事は無いか?その問題の解決で、手を打ってくれないか???」

「逃走すると予想。どうする?」

「全国の仲間に、指名手配でも何でもしろ。よそ者の旅人なんだ、解決に失敗しても損は無いし、成功したら万歳。どうだ?」

「……………………………………」

「???」

「良かろう。」


 河童はその場で、あぐらを組んだ。二人とも自分の武器を収めると、同じように座り話を始めた。

「俺はモモ。きゅうり泥棒は、ケルだ。」

「我輩の名は、大関だ。」

「大関さん、困り事というのは?」

「あの山が見えるか?」

大関は、道の先にある沢山の山を指さした。緑が豊富な山々の奥に一つ、茶色の山が見えた。

「あの茶色い山ですか?」

「いかにも。周囲と同様、深緑に覆われていたのだが、ここ数日でアノ有様だ。」

「植物の病気ですか?」

「不明だ。だが、たった二・三の日にちで枯死する病は、聞いた事がない。仮にそうだとしても、他の山に影響が無い事が不思議だ。」

「たしかに。」

「川と山は、密接に関係している。山の異変は川にも出る。捜索して、解決してくれ。」

「分かりました。」

モモと大関は握手をし、別れた。モモとケルの二人は、茶色の山を目指して歩き出した。

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