犬
「おっぱじめやがったよ!」
男はすぐに騒ぎに気がついた。ゴブリンやオークは、どんどんも拠点の入り口に向かって行った。そのお陰で、捕まった人達の隣の小屋には、簡単にすぐに入れた。扉のない小屋だが、中には大量の略奪物と思われる物が乱雑に積み重なっていた。ごみから金銀財宝まで入り乱れている略奪物の山を、必死にかき分けた。途中に現れた剣や槍や鎌など、あからさまな武器を握っては試してみたもののシックリこない。
「おいおいおい。身体も覚えてないんじゃ、見つかりっこないぜ。」
遠くで悲鳴や雄叫びが聞こえる。どんなに強いヤツでも、時間と物量で負けることもある。すぐにでも武器を見つけ、捕まってる人たちを逃し、助けに行かねばならない。とうとう床まで漁ったが、見つからない。別の場所にあるのかとも思ったが、もう一度漁ることにした。武器に見えないものは宝と一緒に見向きもしなかったからだ。明らかな金銀財宝と明らかに触った武器以外に、手に馴染む物を探した。手当たり次第に触って、確かめる。すると、皮の入れ物に入った何かに触れた時、今まで感じた事のない感覚があった。両手に持つと、ガツンと手に馴染んだ。
「コレだ……」
確かな自信があった。
「たぶんコレだ…………」
しかし、分からないことがあった。
「なんだコレ……………………」
使い方が分からなかった。
どのくらいの時間が経っただろうか。モモはゴブリン達を掻っ捌き、オークを薙ぎ倒していた。敵の数は減ったが、体力を消耗していた。流石に疲労が出てきたが、休む訳にはいかなかった。時間を稼ぎ、男が捕まっている人たちを逃す余裕を作らねばならなかった。
「ゥオオラアアアァァァ!!!」
大量のゴブリンを蹴散らそうと、刀を振るった。大量の鮮血と死体を生み出したが、仕留め損なった一匹に刀を掴まれた。次の一撃が出せなくなり、刹那だが、動けなくなってしまった。そこにオークの棍棒による重い一撃が、降り掛かろうとした。刀を掴むゴブリンを蹴飛ばすも、ガードが間に合わない。このまま喰らう事を覚悟して、身構えた。モモは目を閉じた。
パンッ
モモの頭が割れるには、軽く乾いた音がした。そして、ドサっと音を立てて倒れたのは、オークの体であった。頭部に何かが当たった痕跡があり、致命傷なのは間違いなかった。モモが音の方を見ると、敵の拠点の入り口に、昨日からサンザン振り回してきた男の姿があった。モモの方を向いて身構えており、手元の何かから白い煙が立ち上っていた。
「遅かったな!」
「コイツの機嫌が悪くてな。」
「使い方が分からなかっただけだろ。」
「バレたか〜」
「捕まってた人たちは?」
「全員、逃がしたよ。まぁ、村に戻れって言ったけど、オレはどこか知らないな。」
「案内するから、大丈夫さ。」
「メシ、食わせろよ。」
「頼んで、死ぬほど食べさしてやるよ。」
「よろしく頼むぜ、
突如の援軍の登場で、ゴブリンとオークは怯んだ。しかし、変わらず攻撃続けた。モモも変わらず立ち振る舞い、バッサバッサと斬りまくる。討ち漏らしや奇襲の芽を、遠くから男が撃って摘み取る。矢よりも早い一撃を、寸分違わず撃ち込んでいく。撃ち出せなくなれば、もう一つを手に取り撃ち込んでいく。10発しか撃てないが、入れ物に戻せば再度、撃ち出せるようになる。なんとも不思議な武器であった。乾いた破裂音と、濡れた切断音と、雄叫びと、悲鳴が、入り混じる。ドンドンと立ち残る者は減り、とうとう真っ赤な侍と黒い男の二人だけが残った。周りは、ゴブリンとオークの死体が転がるのみだった。
モモは男に近づくと、両人はそのまま拠点の入り口に座り込んだ。休みながら、言葉を交わした。
「終わった…………」
「お疲れさん。援護で楽にはなっただろ?」
「多少な。」
「よく言うぜ。」
モモは男の武器に目をやる。どう見ても、銃だ。フルオートのハンドガン。しかし、昔話や御伽噺に銃はあまり無い。あっても長く、ライフルの様なもので、拳銃やハンドガンは無いと思った。
「お前、銃を使うんだな?」
「じゅう?」
「銃。拳銃。ハンドガン。」
「コレ、銃って言うのか。」
「そう。弓矢みたいなもんだ。矢の代わりに、弾が出る。」
「弾って言うのか〜。モモの方が詳しそうだな。使えるのか?」
「初めて見るよ、本物は。使い方がなんとなく分かるって、感じだ。」
「へぇー」
男はマジマジと、自分の武器である銃を見る。黒い全体に、銀色の模様が施されていた。男が眺める傍ら、モモも銃を見ていた。何気なく見ているうちに、装飾の模様ではなく文字に見えてきた。気になって、男から借りようとした。すると、寒気と共に別の声が、二人に向かって放たれた。
「ナんダこれハ…………」
声の方を見るといつの間にか、馬に乗る騎士が居た。が、騎士と呼ぶには頭が欠けており、首から下しか無かった。
「オマエタチか?」
二人は、この惨状を見ての発言なのは分かったが、どこからの声なのか分からなかった。
「なんだコイツ!?」
「銃を抜け早く!」
二人が交戦体制に入ると、騎士もランスを取り出した。右手に構え、左手は腰に当てた。よく見ると、左手で作られた半円の隙間には、頭がハマっていた。
「首から上が無いと思ったら、変なトコから生えてんな〜」
「デュラハンか?」
モモが正体を思案していると、馬で駆けながらランスを突き出してきた。
「《
「「なんだ?」」
馬の猛スピードと共に、鋭いランスが二人を目掛けてくり出される。モモと男は、急いで拠点の中に転がり込むと、間一髪で避けられた。二人が元いた拠点の門は、木っ端微塵になっていた。
「なんて……威力だ…………」
「とにかく撃って討つしかない!」
モモが驚いている間に、男は撃ち始める。しかし馬の速さと機敏さで全く当たらず、騎乗の騎士の体に当たったところで鎧に弾かれてしまった。避けながら近づく騎士は、ランスをモモの体に目掛けて突こうとした。刀でなんとか受け流し反撃しようとするも、敵は馬上で高さがあり届かない。騎士の突きはとどまる事を知らず、繰り出され続ける。モモも負けじといなし続けるが、とうとう吹き飛ばされて拠点の壁に叩きつけられた。
「……ッハ…………」
「大丈夫かモモっ!」
男はすぐに駆け寄り、モモに声をかけた。
「大丈夫か?」
「なんとかな。」
「あのヤロウ、強い。」
「おそらく、この拠点の長だろうな。」
「モモ、なんか策は?」
「刀は届かないし、銃はかわされる。お手上げだ。」
「マジか……」
「動きが止まれば、なんとかなりそうだが。」
「もしくは、狙いが絞れれば……」
「???」
「賭けるか!」
「何するんだ?」
「《
二人が話している所に、騎士が門を破壊した技をくりだした。二人は吹き飛ばされて、二手に分かれてしまった。
「いってぇ!」
「モモとまだ話してるだろうがよ!!!」
大きな声で、二人は話を続けた。
「作戦は?」
「モモは、檻の横の小屋に行け。」
「どこだよ!」
「アソコの2つ並んでる小屋だ!」
「行ってどうするんだ?」
「弾の当たらない所に隠れて、時期を待て。」
「はぁ?なんだそりゃ???」
壊れた塀によって出来た煙から、騎士の姿が現れた。時間に余裕が無いので、とにかくモモは男の言う通りにした。小屋に向かって走るモモを見て、騎士は追う。それを男が弾切れするまで乱射して、引き止める。
「おい、相手はオレだ。」
「きさマから、ころす。」
銃を撃っては転がり走り、騎士に攻撃を続けた。騎士側は変わらず馬と鎧を活かして全くダメージを受けていなかった。パンパンパンッと、乾いた音を鳴らして弾を撃ち込み、時間を稼ぐ。とうとう痺れを切らした騎士はランスで突っ込み、貫こうとした。男はサッとかわした次の瞬間、吹き飛ばされた。反転した馬に、後ろ足で蹴りを飛ばされたのである。もの凄い飛ばされ地面を激しく転がり、口から血を流しながら仰向けに倒れた。少しづつ馬の足音と歩みの振動が大きくなるのが分かった。足音が止まった時には、男の目の前には、ランスの先端が迫っていた。
「危ねぇなぁ。」
「これデオわりダ。」
「本当にそうかな?」
「………………」
「アッハッハッハッハッ!」
「なぜわらウ?」
「お前が間抜けだからだよ。」
「きデモ、くるッタか?」
「お前の槍、ランスだっけ?いまオレがねじ切って使い物にならないよ???」
「なんダト!」
騎士はすぐに槍の先端を上に向け、確認した。見たところ一切なにも変わらず、嘘であった事がすぐに分かった。騎士が即ランスで突いたが、突き刺さった先は地面であった。男はフラフラしていたが、いつの間にか小屋の前に立っていた。
「ダマしタな!!!」
「ここまで簡単にひっかかるとは思わなかったよ。オマエの頭の位置じゃ、馬の体で見えなかっただろ。」
「くッ!」
「頭は、
「ダマれ!」
「来いよ?」
騎士は貫こうとランスを構えて、馬を走らせた。かなりの速さで突っ込んだが、男はギリギリで回避した。そのまま騎士は、扉のない小屋に入ってしまった。小屋から出ようと馬を旋回させるが、床に散らばる金銀財宝やゴミのせいで上手く動けない。馬の足が取られて、自由に身動きが取れずモタモタしていた。
「なんダこれは……」
「片付けるの忘れてた、ゴメンな?」
騎士は声の方を見ると、男がしっかりと銃を構えて狙っていた。馬は上手く動けず、小屋の中で逃げ場もない。男の意図に気づいた時には、騎士は蜂の巣になりかけていた。
「撃ち抜かれろっ!」
「アッ……タ…………マ……………………」
騎士の小脇に抱えられた頭には、何発もの弾丸がブチ込まれた。頭が床に落ち、グシャリと音を立てた。どのくらい撃ち込んだか分からないくらい、撃ちまくった。とうとう男は乱射をやめ、煙と熱を帯びた銃をクルクルと回し、小屋に近づきながら皮の入れ物に戻す。全てが終わったと思った瞬間、銃撃によって舞い上がった煙の中に、ランスを構える胴体だけがいた。馬は消え去り、二本の脚を使って一矢報いる様だった。男がマズイと思った時には、すでに胴体は一歩進んでいた。銃を抜いて構えた時には、引き金を引いても間に合わない位置に居た。
「いい加減にしろっ!!!」
モモの叫び声が響く。声は上から下へと移動したかと思うと、騎士の無い首元から胴体へと、モモの体ごと使った直下突きにより、真っ直ぐに刀が突き刺さった。あまりにも深く刺さり、刀の鍔から上が頭の様になってしまった。騎士の胴体は倒れ込むと、やがて塵のように消えてしまった。二人は再びの安堵で、その場に座り込んだ。
「終わったな。」
「モモ、最後に良いとこ、持っていきやがって!」
「そっちの作戦が上手くいったおかげだよ。」
「ありがとう。」
「流石に疲れたよ。」
「命のやり取りし続けたからな。少し休もう。」
「落ち着いたら、暗くなる前に村に戻ろう。」
「美味い物、食べまくるぞ!」
「そればっかだな。」
二人は顔を見合わせ、笑う。出会ってから初めての、心からの笑いだった。心も息も落ち着いた所で、モモは男に確認した。
「そういえば、記憶は戻ったか?」
「いーや。銃を握っても、何にも出てこない。」
「そうか……」
「信じるんだ?」
「えっ、じゃあ、戻ったのか?」
「そうじゃなくて。簡単に信じるなぁと。」
「二人で必死こいて敵を倒したのに、信じない理由があるか?」
「違いない。」
「大事なのは、
「フッ。」
男は照れながら、目を伏せる。しばしの沈黙の後、男が切り出した。
「記憶が戻らなかったし、取り戻す旅に出なきゃならない。」
「そうだな。」
「ソッチは鬼を倒す使命がある。」
「まぁな。」
「手を組むのが、良いと思うが?」
「…………」
「なんだよ?」
「昨日の夜は素直に言ったのに。はっきり、仲間してくれって言えよ。」
「お願いします。」
「斬られる可能性、忘れんなよ?」
「先に撃ち込んでやるよ!」
モモが立ち上がり、拠点の入り口だった所へと歩き出した。男も後に続いて、歩き出す。歩みと同じように、会話は止まらない。
「それにしても、一人目の仲間が、記憶喪失の身元不明か〜」
「桃太郎には仲間っていうか、お供がいるらしいな?」
「よく知ってるな。」
「助けた人が言ってた。」
「なるほどね。三匹のお供がいるんだよ。」
「匹ってことは、人間じゃないのかよ……」
「そう、
「マジかよ…………」
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