日の本一の侍

 モモと男の二人は、すぐに山を降りた。夜明けで明るくなっているとはいえ、敵が起きて活動する前に攻め入りたかったからだ。拠点のすぐ近くの茂みから、様子を伺う事にした。入口付近に二匹のゴブリンが居るだけで、他の見張りは居ないようだった。門が無いので中の様子が少し見えたが、詳しい事は分からなかった。

「どうするモモ、やっぱり二人で正面から入るか?」

「いや、とりあえず昨日の作戦通りで行く。そっちは拠点の周りを回れ。雑な塀だから、入り込める隙間でもあるだろ。無ければ、そのまま戻ってこい。」

「なるほどね。」

「もし入り込んだら、盗られた自分の武器っぽいモノを探せ。戦えるようになったら、捕まってる人たちを見つけろ。」

「分散してない事を祈るしかないな。オレの武器はどう探せばいい?」

「知るか。手当たり次第に触って、手に馴染むもん探せ。記憶は無くても、身体は覚えてるだろうし。」

「へいへい。」

「捕まってる人たちの位置が分かったら、戻ってこい。情報共有したら、俺が正面から、ソッチは見つけた穴から再度、侵入しろ。」

「挟み撃ちね。敵に見つかったら、どうする?」

「その時は騒ぎになるだろうから、俺が正面から突入する。」

「ちゃんと助けに来る事を、信じてるぜモモ。」

「早く行け。どんどん明るくなれば起きて動き出す敵が増える。拠点が動き出したら、お前を待たずに正面から斬り込む。」

「そうならない様に、頑張るわ。じゃ、後で。」

男はすぐに駆け出し、拠点に向かった。モモはその場に留まり、拠点を警戒していた。二人が前日の夕方、山の上の方から拠点を見た時の事を思い返した。四角い囲いの中に、小屋の様なものが幾つか見えた。大きなものだと、入り口から見て左に二つ、右に一つ。コレのどれかに捕まった人達が居たり、盗んだ物の保管庫として使われているのだと思われるが、直接、探るしかなかった。


 男は駆け足で拠点に近づき、ピッタリと塀に背中をつけた。雑な塀とはいえ、大きな丸太が並んでいるため乗り越えるのは無理だった。時間をかけてよじ登ることも出来そうだが、敵に見つかる可能性が有るため諦めた。通り抜けられそうな隙間を探して塀を並走していると、ちょうど入り口の反対側に隙間を見つけた。ゴブリン達が裏口として出入りしているのか、獣道の様に草がなくなっていた。敵に注意しつつ潜り込むと、耕された畑が見えた。襲ったり盗んだりするゴブリンが農耕するとは思えないので、捕まった人々がやらされているのだろう。ゴブリンやオークを従える存在がいる気がして、男は不安になった。しかし悩んだ所でしょうがないので、武器の探索をする事にした。拠点の真ん中にある大きな焚き火の周りで、ゴブリン達やオーク達が寝ていた。なので、建物の中に集めた物や捕まった人がいると考え、男は二つの小屋が並んでる方へと向かった。小屋に近づくにつれ、それが牢屋であるのが分かった。十数人もの人が、木で作られた檻の中に居た。寝転んだり、座ったり、項垂れている者がほとんどだった。男は敵の目につきにくい檻の裏で、近くに座っていた人に声をかけた。

「ォィ。」

「スッー……スッー……」

「ォーィー」

「うーん…………」

声をかけても、寝たままで気づかない。男は寝ている人の肩を、トントンと叩いた。流石に目を覚まして、男の方を見た。そして顔を前に向き直したが、すぐに後ろを振り返った。

「えっ!!!」

「シッ!!!静かに!!!!!!」

「いや、アンタの方が声が大きいて。そんな事よりアンタ、助けに来てくれたんかっ。」

「半分、そう。」

「どういうことだ?」

「助けたいのはやまやまなんだが、武器を盗まれてな。」

「え……」

「なんか、ゴブリン達が盗品とかを隠してそうな所、知らないか?」

檻の中の人は少し思い出すと、隣の小屋を指さした。

「そういえば、隣の小屋に戦利品を貯めてる様だったな。」

「分かった。探してみる。武器が見つかり次第、助けるから。」

「お願いしますだ。」

「今のうちに、檻の皆を起こしておいてくれ。」

「もちろんもちろん。」

「ありがとう。」

「こちらこそだ。さすがさんだ!」

「オレは違うぞ。」

「なら、お供の方?」

「お供ってのは、部下のことか?」

「うんだうんだ。」

コレを聞いて、男は少し考えると、ニヤリと笑って言った。

「じゃあ違うな。仲間だよ。」


 モモが拠点の入り口を見ていると、見張りが何やら増えていた。どうやら交代の時間らしかった。このままだと拠点の一日が始まってしまう。そうなると、戦いも厳しくなり、捕まった人たちを逃すのにも支障をきたす。拠点の中でも騒ぎが起きてない以上、男がどうなったのかも分からない。一か八か、モモは賭けに出ることにした。拠点から少し離れた位置に走ると、そこから拠点に向かって大声を出した。

「おーーーい!!!コッチだコッチ!!!おーい!」

両腕を大きく広げながら左右に振りまくる。何度か繰り返すと、見張りのゴブリン達が気づいた。モモの方を見て何か喋ったのちに、一匹が何かを取り出した。その途端、ブオォーンと大きな音がした。敵が来た事を知らせる笛だったらしく、どんどんと拠点の入り口に中からゴブリンやオークが集まり出した。

「流石に多いな……」

モモが驚いている間にも、敵の数は増え近づいてきた。流石に使うかと思い、モモは懐に右手を入れた。貰った【鬼備弾衣】を取り出すと、向こうの敵に向かって突き出した。そしてギュッと握って、腕を伸ばしたまま身体の真横に持ってきた。握られた鬼備弾衣が光ると、二本の光がスルスルと二重螺旋のように腕を進み、モモの体で広がって全身を覆った。そして一段と大きく光り、弾けた途端、真っ赤な甲冑を身につけたモモが現れた。驚きで目を閉じていたモモだが、変わった自分の装備を見渡した。

「おお!すっげぇ〜!!!」

身体を動かしたり飛んだり跳ねたりしたが、身につけるまでの今までとでは、何も変わらなかった。

「単純に、防御力だけ上がった感じだな。コレなら、多少の無理も出来そうだ!」

まばゆい光に困惑していた多くのゴブリンとオークは、現れた鎧人間に驚くも武器を持って襲いかかった。モモは腰の刀をスルリと抜くと、叫んだ。


「ヤーヤーヤー!我こそは日の本一の侍、桃太郎だ!…………たぶん。」


槍を持ったゴブリンが貫こうと突っ込んできた。飛んでかわすと、そのまま槍の上に着地した。足と地面に挟まれ槍を動かせないゴブリンを、真っ二つに斬りつけた。

そのまま駆け出すと、今度はオークが立ちはだかった。大きな棍棒で上から殴りつけるが、モモは刀で受け止めた。刀越しに両手で押し返すと、オークは仰向けに倒れた。すかさず飛びつき、口から脳天を突き刺した。

刀を抜こうとしていると、別の槍を持ったゴブリンが襲ってきた。モモは上体だけでかわすと、脇に挟んだ。ギュッと締め両手で槍を掴む。そしてゴブリンごと持ち上げて、振り回し、周囲の敵を蹴散らした。

オークから刀を抜くと、拠点へと向かいながら敵を蹴散らした。ゴブリン達に囲まれて同時に襲われても、グルッと回って真一文字に全員を切り捨てた。真っ赤な鎧は、塗料ではなく血塗られた様に見え出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る