理由と杞憂
案内してくれたネズミを穴へと帰し、残った二人で敵の拠点を観察していた。山の上から見ていくつか分かることもあったが、詳しい事は近づかなければ分からなかった。二人は穴の反対側へと行き、山陰に身を隠した。そこで拠点に気付かれぬ様、夜が明けるのを待つことにした。歩きながら、男は良月に質問した。
「闇夜に乗じて、拠点を襲った方が良いんじゃないのか?」
「ダメだ。」
「なぜ?」
「捕まってる人たちの救助があるからな。助けても、夜じゃ逃げられないだろ?」
「なるほどね。俺だったら、やっちゃうな〜」
「武器も記憶も無いくせに、よく言うよ。」
日が落ちる頃に、焚き火を作り夜に備えた。二人は暇潰しに、いくつか喋っていた。
「なんか、作戦でもあるのか?」
「無くはない。」
「ちなみにどんな?」
「俺が正面から行く。敵を惹きつけ、斬りまくる。その間に、お前はどっかから拠点に侵入して、自分の武器をとり戻す。そして捕まってる人たちを逃がす。」
「曖昧すぎる。どこが作戦だよ。」
「じゃあ、逆になんかあるのか?」
「うーん………………」
「???」
「やっぱり無い!」
「なんだよ。」
完全に夜になり、明かりを絶やさぬ様に良月は焚き火をいじり、男は近くに寝転んでいた。空は満点の星空だった。遠くからは獣の声が聞こえた。
「綺麗な星だ。」
「星座とか学校で習ったけど、忘れたな。」
「…………」
「?」
「なんでさ、戦うの?」
「なんでって、言われてもな。」
「別に逃げてもいいし、自分の命さえ有れば良くね?」
「確かにそうだが、見過ごせない性分でな。」
二人は語らいを続けた。
「えらく損な性分だな。」
「元々は違ったが、友達がそういう性格でさ。付き合ってる内に、いつの間にか同じ感じよ。」
「なるほどね。」
「まぁ、後は、この世界での役割だからな。」
「役割?」
「俺はさ、別の世界から来たんだよ。」
「へー」
男の反応は、良月にとって意外にもアッサリしていた。
「………………」
「なに?」
「驚かないのか???」
「こんな世界だし、無くは無いだろ?」
「記憶が無いのに、よく言うよ。」
「それで、どんな役割なんだよ???」
「仲間を集めて、島に行き、鬼を倒す。」
「コレまた、ざっくりしてるなぁ〜」
「本来の流れとは、世界も行程もだいぶ異なってるからな。必要最低限だと、こんな感じなんだよ。」
「なるほどね。」
男はしばし無言で、考えていた。良月も、無言で焚き火に枝を加えていく。
「………………」
「………………………………」
「仲間にしてくれないか?」
「なんだよ急に。」
「記憶は無いし、盗られたものを取り返しても、戻るとは限らない。」
「確かに。」
「取り戻すためには、旅でもして探すしかない訳だ。」
「だから仲間にしろ、と。」
「正解!」
「……………………」
「不満か?そっちは仲間が出来て、こっちは旅ができる。お互いに損はしないはずだぜー」
「……………………………………」
「???」
「敵かもしれないぞ。」
「可能性は大いにある。」
良月は、焚き火をいじる為の木の棒を、男に向けた。
「俺は元の世界に帰りたい。その為には、この世界での役割を全うする事だと思う。」
「…………」
「その旅に、敵かもしれないヤツを連れてくのは、怖すぎる。」
「確かに。」
「それに、盗られたものを取り戻して、一緒に記憶が戻るかもしれない。そしたら、どうするんだよ?」
「それもある。」
「だろ?」
「でもな。」
「?」
男は良月を、しっかりと見つめて話し出した。
「そっちの話は、『思う』とか『かもしれない』とか
可能性の話ばっかりだ。」
「仕方ないだろ?確証がないんだから。」
「なったらなったで、お互いその時に、考えようや。」
「テキトーだな〜」
「可能性は無限に有る。無限にあるものをイチイチ考えても無駄だ。大事なのは、目の前で、起きた事だけだ。」
「確かにな。」
「敵だと思ったら、オレを斬れば良い。ただそれだけさ。」
「恨むなよ……」
「恨まれる事しなきゃ、な。」
男は起き上がると、小さめの細い枝を焚き火に突き立てた。そして戻ると、また寝っ転がった。
「その枝が燃え尽きたら、起こしてくれ。火の番、変わるわ。」
「了解。」
「寝る前に一つ良いか?」
「ん?」
「お前の事は、なんて呼べばいい?」
「そういえば、名乗ってなかったな。俺は…………」
「どうした???」
「……………………」
正直に言うべきなのか、迷った。本当の名前は取られたり、操られたりする可能性もある。ここは、元の世界と違うのだから。
「俺の事は、
「ふーん。じゃ、モモって呼ぶわ。」
「そっちの事は、なんて呼べばいい?」
「好きに呼べ。何にも無いんだし。」
「じゃ明日、盗られたもん取り返したら、考えようや。ヒントがあるかもしれないし。」
「任せた。おやすみ。」
「へい。」
良月ことモモは、周囲を警戒しつつ火が消えない様に見張っていた。男に言われた通り、枝が燃え尽きたので起こして交代した。モモはすぐに眠りについた。しかし、感覚的には、すぐに起こされた様な感じだった。火はすっかり消えていたが、夜明けの陽によって世界は明るくなっていた。まるで戦いの火蓋が切られた様だった。
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