チュウと虫
「「うおおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜」」
ゴロゴロと転がる二人。暗い穴の中を転がり続けていた。傾斜が減り速度も落ち、平らな場所に出てようやく止まった。大きな広い空間に出た。そこには小さな明かりと、無数の穴がそこらじゅうにあった。
「さっきの穴の中心、中央部か?」
「おにぎりは?」
「まだ諦めてないのかよ……」
「アッチか?」
明かりの方に顔を向け、男は走りだした。良月は、渋々あとに続いた。明かりの下には数匹のネズミが居り、何やら作業していた。二人は近くの穴の身を隠し、様子を伺った。ネズミ達は臼と杵で、餅つきをしていた。
「「「「スットントン!スットントン!」」」」
掛け声と共に、ペッタンペッタンと餅を作っている。敵かどうか分からない為に離れて見ていた良月だが、男はある事に気づいてネズミ達に向かって行った。
「俺のオニギリー!」
「おい!ちょっと!!!」
「オニギリ!」
「というか、お前のじゃないし……」
ネズミ達は驚き身構えながら、少し震えていた。
「なんだネ!」
「俺のおにぎり盗っただろ!包みが落ちてるぞ!」
臼の近くに、おにぎりを包んでいた葉っぱが落ちていた。それを指差しながら、男は言った。
「返せよ、おにぎり!」
「そんな事言われても、もう無いズ……」
「食ったのか?」
「餅にしちゃったミ〜」
「本当かよ…………」
「ごめんなさいネ!知らなかったネ!」
「確かに、名前は書いてなかったな。」
「お餅、分けるから許して欲しいズ〜」
「元は俺のおにぎりなんだから、全部くれ!」
強欲な男の頭を、良月はパンと叩いた。
「分けてやれよ!」
「えぇ……」
「そもそも、お前のじゃなくて、俺のだろ!あと、空腹なのは、お前だけじゃない。よく見ろ……」
「何を?」
良月はネズミ達を、指差した。ネズミ達は薄明かりで分かりにくかったが、とても痩せていた。男は黙りこくる中、良月はネズミ達に勧めた。
「餅、どんどん食べてください。」
「ありがとうございますミ!近頃、食べ物が無くて困ってたんだミ…………」
「何かあったんですか?」
「変なヤツが、私たちの巣穴に住み着いたんだネ……」
「変なヤツ?」
「ソイツは凄い速さで移動して、巣穴の中に入ってきた物を何でも食べるんだズ〜」
「何でも……」
「仲間のネズミもたくさん襲われてしまったミ…………」
「……………………」
良月は、また変な事になっているなと思った。明らかにココは『おむすびころりん』の話の穴だ。しかし、穴に住み着くヤツなんか居なかったはず。別の話か、別の世界か、入り混じっているのは間違いなかった。
「ギャオオオォォォ!!!」
大きな叫び声が、どこかの穴から聞こえてきた。
「アイツだネ!」
「ここにいるのがバレたズ〜」
「逃げたくても、どこから来るか分からないミ……」
ネズミ達は完全に怯えていた。身を寄せ合い、震えていた。良月は刀を抜き、周りの穴を警戒しながらグルグルと回っていた。男はチラチラと餅を見ながら、鼻を動かしていた。地響きがどんどん大きくなり、空間の揺れも大きくなっていった。
「あの穴から来るぞ!」
「どれだよ?」
男が指差すも、穴が有りすぎて良月には分からない。二人が身構えていると、穴から黒く細長い物体が出てきた。真ん中には大きな大きな口で、中は歯というより棘がビッシリ生えていた。表面全体に黒い毛が生えており、目は存在しない様だった。
「なんだアイツ?」
「知るか。なんか、変な虫みたいだな。」
「あのムシ、ネズミなら丸呑み、オレ達なら手足を持っていかれそうだ……」
「嫌な事、言うなよ。」
黒い虫は勢いよく飛びついてきた。二人はすぐにサッと避けると、虫はそのまま別の穴へと消えていった。またどこからともなく絶叫が聞こえたが、居場所は全く分からない。
「音の反響で、獲物の認識をしてるのか?」
「らしいな。お前、武器は有るのか?」
「分からん。」
「だよな。じゃあ、何で
いつの間にか、男は自分の腰の辺りに両手を伸ばしていた。しかし記憶が無いので、困惑するしか無かった。
「本当だ。」
「記憶は無くても、身体は覚えてるらしいな。」
「にしても、何も無いんじゃな。」
「倒れてた時、ゴブリンに持ってかれたんだろ?」
「記憶が戻るかもしれないし、手掛かりとして取り戻すか。」
「生きて出られたら、な?」
二人が話していると、またも虫が飛びかかってきた。バックリと大きなクチを広げ襲いくるも、良月は刀で受け止め弾き返す。が、そのまま両断しようにも、すぐに穴に入り込んでしまう。飛びかかりを防いでは逃げられるのを、何度も繰り返した。鬼備弾衣を使いたかったが、相手のスピードやランダムな攻撃に隙を見せる事になりそうで、使えなかった。
「クッ……」
「このままじゃ、消耗戦だな。」
「だったら手伝えよ!」
「武器が無いんじゃ無理だ。」
「武器が無くても戦えるだろ。」
「どうやって?」
「頭を使え。知恵や知識、戦略を立てろ。」
「記憶喪失なんだが?」
「記憶は無くても、思考は止めるな。今あるもんで、考えろ!」
「………………………………」
男が何か思案しているのを傍目に、良月も考える。動きを止める策があれば良いが、どの穴から来るか分からない以上、後手に回らざるを得ない。後手でも止められたら良いが。
「よし!」
「何か策でも浮かんだか?」
男の声に、良月は質問した。質問には答えず、男は今いる空間のど真ん中に立った。ゆっくりと回転して、穴を見ていた。すると、どこかの穴から虫が飛び出し、男に食らいつこうとした。良月は、男に叫ぶ。
「危ない!よけろ!!!」
「コレで良い。あとは任せた。」
突っ込んできた虫に正面から向き合い、男は虫の大きな口に思いっきり、右の拳を突っ込んだ。内側に生えていた牙をガッチリと掴み、動きを止めた。すぐに虫がそのまま噛もうとした瞬間、胴体が二つに切り裂かれた。良月が、男によって動きを止められた虫の体に、刀を叩き込んだのだ。落ちた下半身に良月は更に刃を突き立て、男は腕に残った上半身を振り落とした。上半身にもしっかりとトドメを刺すと、良月は男に怒声をかけた。
「危ないだろ!何やってんだ!!!」
「しょうがないだろ?考えた結果、ヤツの動きを止める方法がコレしか無かったんだから。」
「腕が食われたら、どうすんだよ……」
「死ぬか、腕一本か。だったら、後者だろ。」
「無茶しやがる。」
「なんとなく、あの虫くらい大丈夫な気がしたし。」
「…………」
「刀で斬られるかとは、思ったけどな。」
「……………………」
「ハッハッハッ!」
男が笑っていると、隠れていたネズミ達が出てきた。恐る恐る出てきて、良月に尋ねた。
「倒したのかネ?」
「この刀で切ったから、もう大丈夫です。」
「助かったズー!」
「コレで外にも出られるミ。」
「もし良かったら、外へ出られる道を案内してくれませんか?」
「もちろんだネ!」
「アイツのせいで、外にも出られなかったズ。」
「ただの
良月がネズミ達と話していると、男が話しかけてきた。
「なぁ、アレ食ってもいいか?」
「まさか虫を?」
「違うよ。餅だよ餅。」
「みんなで分けるなら良いんじゃないか?」
「一緒に食べるネー!」
「食べるズー!」
「ミー!」
良月は餅になったとはいえ、泥だらけのオニギリを食べる気にはなれず、ネズミ達と記憶の無い男だけが餅を食べた。
「うまいな!」
「おいしいネ〜」
餅を食べ満足したネズミの一匹が、外へと案内してくれる事になった。ただ出口は沢山ある様なので、本来の目的地に近い所への案内を良月は求めた。
「外への道は、いくつかあるズー」
「じゃあ、鬼の拠点に一番近いところに連れてってくれませんか?」
「鬼の拠点かミ?」
「知ってるんですか?」
「最近できたんだネ……」
「アイツらが来てから、この辺りはおかしくなったズ!」
「あの虫も、そうだミ……」
「そこに用があるんです。お願いします!」
良月は頭を下げて、ネズミ達に頼んだ。ネズミ達は集まって少し相談したのち、了承してくれた。
「怖いけど、助けてもらった恩があるネ!」
「ありがとうございます!」
中心部に残るネズミ2匹に別れを告げ、良月と男は案内役のネズミの後について一つの穴に入っていった。なんの目印もない穴を歩き続け、何度も右に左に曲がっていった。どのくらい歩いただろうか、そんな事を考える様になった頃に、明るい道に到達した。二人と一匹が駆け出すと、夕焼けに染まる野山が見えた。
「着いたネ!」
「出られた〜」
良月とネズミが喜びの声を上げる中、男は周囲を見渡すと下の方を指さした。
「アレが、鬼どもの拠点か?」
「そうだネ。この距離でも怖いネ。」
山の下の少し開けた場所に、何やら野営地の様なものがあった。大きめの建物や焚き火、田畑や家畜などもあった。周囲を囲み、入口は一つしかない様だった。
「あそこに捕まった村の人や、お前の盗まれた物とかあるんだろうな。」
「かもしれねぇな……」
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