夜には夜の風が吹く
古ぼけた鉄の箱の中、僕らはふたりきりだった。
暗い、暗い夜の中、あの光だけがこの水溜りを照らしてる。
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俺は目を覚ます。
睡眠不足でいつもなら二度寝するはずなのに、今日は違った。
体が軽い。まるで羽でも生えているみたいだ。
俺はクリスマスプレゼントの包みを前にした子供のように窓を開けた。
目を閉じてこの街を吹き抜ける風を感じる。
「あぁ。いい月だ」
僕は耐えきれず窓から飛び出す。
月光の下に白く照らされた数本の触手。
それらは俺の体から伸び、自由を求めて荒波のようにうねる。
両手を広げて夜風を全身に受ける少年の姿は、紛う事なき怪物であった。
伸びる触手は電柱を器用に掴んで俺の体を運ぶ。
これで動くのは少し技術がいる。
でも、もっと簡単な移動方法がある。
タッタッタッ。
家の天井を軽快なリズムで蹴って、蹴って、蹴って。
この方がずっと楽だ。
ただこれはその家の人が気づく可能性がある。
それは避けなければならない。
俺はこの奇妙な散歩が癖になっている。
俺のこの触手を生み出す謎の力を自分なりに使おうとした結果だ。
俺は生まれた頃から化け物だった。
物心ついた時にはこの触手は僕の思うように動いていた。
それが当然だとずっと思っていた。
両親にこの力を秘密にしろと言われる時まで。
俺はわからなかった。
みんな使ってないだけで誰でもできるのだと思っていた。
しかし、現実はそうではなかった。
みんな触手なんて生えやしない。
その現実は子供だった俺にとって有り余るに残酷なものだった。
俺はこの力を家族以外には口外してない。
この力を口外すれば、きっと悪用しようとする者がいる。
そんな悪人によって蒼達が危険に晒されるのは僕には耐えられないだろう。
だから、俺の正体は誰にも知られてはならない。
……たとえ、何があっても。
夜風が心地いい。
暗くなった心に涼気が沁みる。
上を見上げると、都会にしては珍しく端の無い一面の星空が見えた。
「……綺麗だ」
いつの間にか言葉が漏れていた。
どうやっても手に入れられないその不朽の輝き。
そしてその中でも一際目を引く光。
青白く、この街のどこからだって見る事ができる夜の主役。
「今日は満月か」
この光に照らされて、今日も僕は夜を征く。
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