第2話 離婚の始まりは担任の一言から

翌日、また息子が小学校を欠席したいと言う。

「怠い。休む」


私は夫の反応を待った。

「……総司が休みたいなら休ませたら?会社に行く」

そう言い残し、出勤して行った。


「困ったねー。熱も無いのに2日も休めないんだよ」

病院には行かないと言う。

体温計は昨日と同じ数字だ。

宿題をしていない訳でもない。一昨日の宿題は終わっている。


「駄目。病院行かないなら今日は学校。歩くのが疲れるなら、母さんが特別に車で送ってあげるから」

強引に促すと、息子はポツリと話し始めた。


それから長い時間とつとつと息子の話を聞いた。

同級生と給食中に喧嘩して顔を合わせたくないそうだ。


「喧嘩しちゃったら仲直りも大変だね。でもその理由では欠席出来ないよ。困ったら母さんに話してね。母さん毎日居るでしょ。」

相当グズってたが、不承不承登校に応じた。


車で送り、教室の前に到着した。

扉越しの教室の時計は10時10分を指していた。

息子は教室の扉の前でまごついているので、私が扉を開けた。


「おはようございます。遅くなってすみません」

生徒全員の注目を一斎に浴びた。


担任は授業中だったが、おそらく副担任と授業を交代し、即時対応してくれた。


「おはようございます。遅くなってすみません」

私は何て言っていいか分からず、挨拶を繰り返した。


「おはようございます。総司さん、おはようございます」

女性の担任は、学校の方針により敬称で挨拶してくれた。


「……おはようございます」

息子も下を向いたまま、力無く挨拶をした。


息子に説明を促したが無理そうなので、私が同級生との喧嘩内容を説明した。

少しの立ち話の後、担任に別室の空き教室にすすめられた。


まるで三者面談だ。事実三者面談だ。

息子が同級生と喧嘩した事を話した。

担任は本職ならではの見事な力量と、驚く程の短時間で首尾よく話をまとめ、なだめてくれた。

息子は、遅れて授業に参加する事になった。

担任に後を任せて、私は帰宅した。


放課後になり、担任のスマホでの呼び出しにより、再び三者面談になった。


「両親の離婚がショックで欠席したかったそうです」

のような内容を、担任から気持ち申し訳なさそうに告げられた。


私は驚いた。本当に衝撃だった。

既に夫は、離婚の話を息子に話していたのだ。

その事実を、私は初めて認識した。


同級生との喧嘩は実際にはあったが、日常的規模の内容のように、担任から説明された。

私も同級生との喧嘩については、同意見だと思った。


「……離婚、……してほしくないっ……」

息子は言葉を詰まらせながら、静かに泣きじゃくっていた。

後から後から涙が出てきて、拭いきれてなかった。


「……家庭の事情は、それぞれありますよね」

担任も流石に困っていた。


「離婚については帰宅後に、面倒な話を沢山話しよう。総司の面倒な話も沢山聞きたいし!」

私は敢えて明るく息子を励ましたが、ランドセルすら持たない程消沈していた。


ランドセルは私が持って帰宅した。

帰宅後も息子は元気が無く、話をする元気すら無かった。


「母さんと父さんの事で、ごめんね。父さんはどう思ってるか知らないけど、母さんは3人で暮らしたいよ」

と声を掛けるのが精一杯だった。

息子には心から申し訳なく、その心が傷んだ。


息子と離婚の事について、じっくり話したかった。

が、息子はそれどころではない様子だった。

私もとてもそんな気分ではない。


仕方なく夕食の準備を始めた。

夕食の準備が遅れると、夫は怒るだろう。

私は腹立たしい気持ちで、夕飯に取り掛かった。


私は息子と帰宅後話をしようと約束したが、約束を守る事が出来なかった。


夕食後、夫から離婚の話をしたいと言われたからだった。


その年の夏休み前。

息子の4年生の通知表には、5月14日欠席。15日遅刻が記載された。



離婚の話を始めるにしても、順番があんまりだ。

発端がこのような形で、渡邊司がいい人間であるはずがないと思う。


私は断固納得しない。














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