第3話 渡邊司の離婚と喫煙
「食べた後に、話す事あるから」
夫から話を切り出され、私は夕食の食器を下げた。
「離婚したいんだけど」
事もなげに言われた。
それはそうだろう。
夫の目茶苦茶な段取りの所為で、私は昨日今日と大変だった。
何より息子が可哀想だった。
「私、離婚には応じないよ」
令和元年当初から、離婚には断固反対していた。
夫は、私の家事の不手際、自室が汚い等の理由で、離婚を請求してきた。
私が尚も断っていると
「サトミと言う女と不倫した」
「こんな夫、最低でしょ」
と、言い出した。
私が詳細追及すると、別の話で遮断したり
「答えたくない」
と、黙秘する。
サトミと名指す女性について、フルネームも住所も、私は質問したが。
「相手に迷惑がかかるから答えられない」
らしい。
何を言っているのか、意味が分からなかった。
意味が分からないまま、何時間も話した。
「離婚成立したら、自由恋愛がしたいの?」という質問に対して
「したい」と夫は返答した。
そんな話が、日を改めて4程続いた。
話し終えた後もやっぱり意味が分からない。
あんな意見が通るとでも思っているのだろうか……
世間一般では、どんな流れだろうと知りたくなった。
*
有責者は離婚請求が出来ない。
不定行為は有責事項らしい……
浮気したと本人が発言している以上、有責なのだろう……と思っていた。
*
毎朝7:30。この時間から、私は一人になる。
仏頂面で言いたい事だけ言って出勤したのは
渡邊司。昭和54年3月20日生まれ。
令和元年5月当時、39歳。
私の方が4ヶ月15日歳上になる。
しかしながら、身長が177cmもあり、頼もしい夫だと思っていた。
その夫が、また離婚だと言い出した。
どうせ出来ない禁煙と、同じような頻度で。同じようなノリで言い出した。
今回の前に離婚したいと言っていたのは、いつだったか……
*
自宅でこそ喫煙はしないが、私は知っている。
3年前に購入した中古住宅である自宅前にはガレージがある。
夫の何台目かの新車であり愛車の、赤のエプリクスクロスが納車されてるガレージで、隠れて喫煙している事を。
2階の私の自室から階下のトイレを使用する時にドアを開けると、たまにニコチン独特の嫌な臭いが鼻を突く。
食事の時に、はす向かいに座る夫の黒い短髪から嫌な臭いが鼻を突く。
私が2階の自室に居る時に窓を開放していると、べったりとした熱帯夜にぬるい風に乗って嫌な臭いが鼻を突いた日が何度もあった。
自室に臭いが付着するのが不快だった。
ガレージ付近から2階の細い廊下の窓まで立ち登り、自室の開放されたドアまで到達する。
21時前は、閉めた音が戸外まで届くように乱暴に。勢いをつけて。
21時後は、音を立てないように。
廊下の窓を閉める事にしていた。
その度に、夜空を眺めて考えた。
盆休みは義実家とキャンプへ旅行に行っていた。
義父、義母、義妹、義父弟との6人で。
息子が産まれてからは1人増員での、毎年敢行の恒例行事。
夜には炭火でジンギスカン、サガリ、スペアリブ等。
私限定のレバー、帆立貝。
夫が大好きな海老、ホルモン。
義妹拘りの厚岸産の牡蠣なんかを美味しく食べながら。
私は梅酒なりカクテルなりを、夫はビールなりを思い思いに呑んでいた。
焼肉を食べてアルコールが入ると、夫は煙が吸いたくなるようで。
トイレに席を外した私が戻ると、毎年吸っていた。
ほぼ毎年、禁煙宣言をして。
毎年もれなくキャンプでは喫煙をしていた。
そんな夫は池田町小杉商店に勤務し、タンクローリーで灯油配達が主な仕事だ。
勤務先で禁煙出来てる訳がない。と、私は思っている。
統計によると禁煙成功確率は、自力で10%。
治療機関等を利用で70~80%らしい。
北海道の離婚率は、婚姻届に対し離婚届が36.61%らしい。
どちらが難しいのだろうか……
夫はあれで禁煙を装ってるつもりだろうか……
離婚も是非口だけで終わらせてほしかったと
、心底私は思う。
禁煙宣言も嘘ばかり。
離婚の準備書面も嘘ばかりだった。
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