墓守りの腕時計

米太郎

墓守りの腕時計

 今日は天気が悪い。

 暗がりの空の下、秒針が止まった時計を眺める。 あいつが死んでから何年たっただろう。

 俺の時はずっと止まっている。


 あの時から、俺の人生は色を無くした。

 生きている意味さえ無いのに長々と生きて。

 あいつがいない世界に未練なんてないのに。


 高台に、ぽつんと一つだけ立てられた墓。

 一人でいることを好んだあいつ。

 ここから見る景色が好きだったんだよな。


 あの時、なんであいつを守れなかった。


 何で手を差し伸べてやれなかったんだろう。

 人には言えない悩みを抱えこんで。

 苦しいなら相談してくれよ。


 それを後から知って。

 なんで気づいてやれなかったのかと、後悔だけが残る。


 いつもあいつが身に着けていたお気に入りの時計。

 ずっと置いている。

 あいつが死んでしまってから、ずっと止まったまま。



 日課の墓参りを終えて、帰ろうかと思ったその時。

 暗がりの空が光ったかと思うと、 一筋の光がすっとに降り注がれた。


 光が注がれた墓石の上の方から、 羽の生えた少女が降りてきて、ゆっくり墓石に腰かけた。


「まだそんな、動かない時計を見続けているんですか?」


 目の前に現れた存在を認識するのに時間がかかった。


「そんなに後悔しているなら、行きます? ‌その子の転生先に」


 何を言っているのか、よくわからなかった。


 段々と少女を取り巻く光が落ち着いてきて、表情が見えるようになってきた。


 とても幼い少女であった。

 眉をしかめて悲しそうに訴えかけてくる。


「その子、今困っています。新しい世界でも一人で戦って。良い能力持ってるのに使いこなせてないのです」


「……あいつが、別な世界で生きているのか?」


 少女は少し微笑みながら答えてくれる。


「はい。頑張って生きています。今ちょっとだけ死にそうなピンチですけど」


 少女は持っていた杖を振ると、墓に置いてあった時計が光り出した。


「時を操る力。その時計に込めておきました。行きますよ。私だって忙しいんですから、時間が無いのです」


 急に慌てだした少女に促されるままに時計を着けた。


「時の世界で、その子は今ピンチなんですよ。あなたが行って助けてあげてください]


 呆気にとられた。

 あいつが別な世界で生きていること、目の前の天使という存在、光り出した時計。


 天使はまた光り出して、空に浮かび始めた。


「いつまでそこにいるんですか? ‌止まった時を動かすのはあなたです」


 止まってしまっていたはずの時計は、チクタク音を立てて動き始めていた。

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墓守りの腕時計 米太郎 @tahoshi

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