第11話 アポロン
グッドとラックは時空の歪みを出た。
「落ち着いたか、兄さん」
「ああ。故郷を離れてこういう思いになるとは思わなかったな」
「第二の故郷ってことか」
「そんな感じかな」
グッドとラックはいつものように機体を休ませるため、近くの星に降りた。星の民は芸術に没頭していた。川べりで絵を描く民の集団がいた。二人は民の絵を見て言った。
「同じ川の絵か」
「どれも同じに見える」
二人の言葉を聞いて一人の民が筆を置いて言った。
「聞き捨てならないね。よく見たまえ。私の絵と隣の人の絵の違いに気が付くだろう?」
「いや、全く同じに見える」
「分からない人だ。私は川に反射する景色を鮮明に描いている」
隣の民が言った。
「なるほど。私は川を流れる魚を鮮明に描いている」
「ふむ。なかなか」
二人を差し置いて民たちが語り出した。
「言われてみれば分かる気もするな」
「俺にはよく分からない。行こうぜ、兄さん」
二人は歩いて町に着いた。町で民は自分の作品を展示していた。良いと思って見に来た民に説明をしていた。
「何だか気難しそうな民が多い星だ」
「確かに、変な事を言ったらさっきみたいに怒られてしまうだろうな」
二人は歩いて教会に着いた。教会に入るとパイプオルガンの音が響いていた。教会の奥でパイプオルガンを弾く男性がいた。男性は演奏中、同じ部分で止まった。
「どうしてもここの音が思い出せない…」
男性は最初から演奏を始めた。そして、また同じ部分で止まった。
「思い出せない…確かここの音は、斬新かつ繊細な一音だったはず」
何度も繰り返す演奏を二人は聞いていた。
「悩みが伝わってくる」
「ああ…演奏は懐かしさがある。終盤に差し掛かる所でいつも止まる。もどかしい」
「ああ!思い出せない!」
男性は他の曲を演奏し始めた。二人は曲の威圧感に圧倒された。
「これは…!曲の力か…」
「身動きが出来ない…!」
そこに神父の民が現れた。二人の方に近づいて言った。
「あの方は神と呼ばれる偉大な作曲家アポロ様です。あの方の演奏は誰にも真似できない曲をお作りになります」
「どうして…動けるんだ!?」
「しかし、あの方は作った曲をよくお忘れになります。私はあの方の作った曲を楽譜にして差し上げています」
「それで…慣れているのか」
「先程の曲はまだ楽譜に出来ていないので忘れています」
「くっ、何とかして思い出させないと…!」
二人はアポロに聞いた。
「さっきの曲をもう一度弾いてくれ!」
「お前たちは誰だ?」
「僕はグッド。旅をしている者だ」
「旅の者か。いいだろう」
アポロは曲を演奏し始めた。二人は曲の威圧感から解放された。
「はあはあ…収まった」
「死ぬかと思ったぜ」
「旅は長いのか?」
「結構長くなったな」
「では、故郷が懐かしいだろう」
「久々に母の顔が見たいな」
「そうか。長い旅。遠い故郷。母の顔…思い出したぞ!ここの音を!」
アポロは水を得た魚のように力強く演奏した。
「なつかしい…母さん」
「ああ…いい曲だ」
「早く楽譜にしなくてはなりません!」
神父の民は楽譜に素早く書いた。その楽譜をアポロに渡した。
「有難う。これでもうわすれることはない」
「良かったな」
「思い出せたのは君たちのお陰だ。何かお礼がしたい」
「じゃあ、今の曲を録音させてほしいです」
「構わない」
二人は端末に曲を録音した。
「まだ曲を作り続けるのか?」
「作りたいと思う限り作るつもりだ」
「そうか」
「また聞きに来るといい」
二人はアポロと別れて機体に戻った。
「また聞いているのか、兄さん」
「なんていい曲なんだろう」
「大事な事をわすれてないか?」
「ゼウス王の事ならわすれてない」
「安心したぜ」
グッドとラックは時空の歪みに入った。
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