第5話 アレス

 グッドとラックは時空の歪みを出た。

「多少凹んだ気がする」

「暗黒物質の影響か」

「定期的に休ませよう」

二人は近くの星に停泊した。二人は崖の端から景色を眺めた。星の民は争っていた。

「どうやら僕たちの出番みたいだ」

「そのようだな」

大きな祠に大勢の民が群がっていた。その中心に人の三倍ほどの大きさの石像があった。一人が階段を上がった踊り場から、瓶に入った赤い液体を石像に流した。それを見て民が拳を突き上げた。石像の目から赤い液体が流れた。赤い液体が注がれたコップを持ち、一人が飲み干した。砦の奥に座る一人の男がいた。

「あー、うまい!戦地で飲むトマトジュースは格別だ」

そこに、伝令が来た。

「ミノタレス様。お楽しみの最中に失礼します。敵が攻めて来ております」

「何!?戦闘開始の時間を守れとあれほど言ったのにか!?無駄な殺生は好まんのだ。仕方ない、奴らを懲らしめる必要がある。我が出よう」

「ええ!先鋒部隊ではなく大将自らですか?」

「何か文句があるのか!?」

「いえ…」

「我は戦地を駆ける“暴れ牛”。いざ出陣じゃ!」

一方、向かいの山の砦に男がいた。男は山の麓を眺めていた。

「あそこの村にも戦を好まない民がいる。全員が戦を好むわけではない」

そこに伝令が来た。

「ヘラクレス様。敵が動き出しました」

「そうか。敵将が動いたのではないか?」

「その通りです。敵将ミノタレスが先鋒部隊を壊滅させました」

「怒っているようだ。しかし、それはこちらも同じだ。戦を好まない民がいる村の近くで戦をしないようにとあれほど言ったのに守らないのが悪い。私が出て分からせる」

「ええ!次鋒部隊ではなく大将自らですか?」

「何か文句でも?」

「いえ…」

「私は戦を好まない民を守る“おおかぶと”。いざ出陣する!」

それぞれの軍の大将が動いたことで、控えていた部隊が続くように動き出した。それぞれの大将は敵の部隊を蹴散らし進んだ。ついに大将同士が出会った。

「やあやあ、敵軍大将ヘラクレス。其方の失態、懲らしめに参じた」

「やあやあ、敵軍大将ミノタレス。奇遇な事に、私めも其方の失態を懲らしめに参じた」

周りの者たちが盛り上がった。

「大将同士の対決だ!」

「暴れ牛とおおかぶと、どっちが勝つんだ!」

それを受けて、大将たちも士気を上げた。

「いよいよ、決戦の時。存分に楽しもうぞ!」

「覚悟なされよ!」

その時、二人が割って入った。

「とう!」

「おりゃ!」

「お主ら、何者じゃ!」

「大将同士の戦いに割って入るとは無礼であるぞ!」

「無礼を謝ります。私たちは異邦の者にございます」

「この戦い、俺たちに務めさせてもらえるか?」

「其れは出来ぬ」

「いや、待て。面白い。万が一、私たちに勝てたなら、大将の代わりを務めてもらおう」

周りの者がさらに盛り上がった。

「あの二人、どこの国の者だ!」

「面白い奴らだ!大将に勝てる気でいるぞ!」

「大将、やっつけてください!」

大将たちは思わぬ盛り上がりを受け、さらに士気を上げた。

「どこの馬の骨か知らぬが、本気で来るが良い!」

「いざ尋常に勝負!」

ミノタレスとグッド、ヘラクレスとラックがそれぞれ戦闘を開始した。グッドはミノタレスの猛攻を避けるしかなかった。それほどにミノタレスの攻撃に隙はなかった。しかし、攻撃の当たらなさと士気が高まり過ぎたことで動きが大きくなっていった。グッドはその隙を狙い、ミノタレスの背後を取った。同様に、ヘラクレスがラックの背後を取った。

「あれ?俺、負けてる?待て!話が違う!」

「何も違わない。約束通り、ミノタレスを破った其方と私が大将戦を行う」

「くそ!」

ラックは隙を突き、ヘラクレスの動きを封じた。

「何の真似だ!」

「俺の勝利だ!」

「何を言うか!勝負はついていた!」

「最後に勝った方が勝ちだぜ」

「ぐっ」

ヘラクレスは降参の合図を取った。周りの盛り上がりは最高潮に達した。

「まさか大将が負けた!」

「番狂わせだ!」

「大将代理の戦いだ!」

グッドとラックは武器を構えた。

「行くぞ、兄さん」

「来い、ラック」

ラックが攻め、グッドが避け、グッドが反撃し、ラックが受け流した。一連の流れは二人が決めたものだった。そして、最後は二人が引き分けとなった。

「やるな、兄さん」

「お前もな、ラック」

二人の激しい攻防を見て、周りの者たち、さらに大将たちが感動した。

「良い勝負だった!」

「確かに!今回は引き分けということで手を打とう」

その後、ミノタレスは戦を好まない民がいる村の近くで戦をしないこと、ヘラクレスは戦をするとき戦闘開始の時間を守ることを誓った。グッドとラックは風のようにいなくなった。

「あの者たちを探しても何処にもいない。風が見せた幻だったのかもしれぬ」

ヘラクレスの隣でミノタレスが言った。

「まあ、これ飲めよ」

トマトジュースの入ったコップをヘラクレスが受け取り、飲んだ。

「美味い!力が溢れるようだ」

「そうだろう。今日の戦も本気で頼む」

「承知の上だ」

グッドとラックは時空の歪みを見つけた。

「ラック、負けるなよ」

「負けてねえよ」

「相変わらず“分からず屋”だな」

「兄さんの“引き分け屋”が活きた。今後も頼むぞ」

「こちらこそ」

グッドとラックは時空の歪みに入った。

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